早めに過去問や問題集に取り組んでおき、苦手な分野を見極めておくことが重要になる
総務省 T・Hさん
東京大学 法学部
◆ 最終合格 : 国家総合職 教養区分
◆ 民間内定 : 建築業界
※プロフィールは、2021年8月時点のものです。
公務員を目指したきっかけ
私は地方で生まれ育ち、街の活気が失われ公共交通機関が衰退していく様子を間近で感じてきました。
人口減少に歯止めが効かない一方で自然災害のリスクは高まり、漠然とした危機感を抱いていました。そのような中で中学生時代に行政の仕組みを学んだ際、国の視点から政策を企画立案する官僚に興味を持ち、上京して何か地元の力になる仕事ができないかと思ったのがきっかけです。
大学入学後は公務員就活に関する雑誌などを読んで少しずつ情報収集をしていました。
学習スタートのタイミング
大学入学後は部活動に打ち込んでいましたが、2年生の春にそろそろ公務員試験の勉強をはじめたいと思い、気軽に伊藤塾の説明会に参加した際に、初対面の一学生にもかかわらず、スタッフの方が大変親身に相談に乗ってくださったことが大きな決め手です。公務員を志望した理由や将来の希望、試験勉強と部活の両立の不安などについて、説明会後に居残ってじっくりと話を聞いてくださり、内定までのビジョンが明確になったため伊藤塾を選びました。また、周囲の友人に司法試験受験生も含めて伊藤塾生がとても多く、相談しやすい環境だったことも大きな理由のひとつでした。
伊藤塾のここが良かった!
講師の方々が指導にあたって一切の妥協なく向き合ってくださったことです。教養区分2次試験の企画提案試験や面接の練習の際には私の話す内容の小さな矛盾も的確に指摘してくださり、論理的に考えて話す経験を積んだことが試験本番で役立ったと感じています。
また、官庁訪問期間中も講師カウンセリングでじっくりと進路相談に乗っていただき、納得のいく決断ができたと思います。試験や官庁訪問の直前期に厳しいご指摘をいただくことも多かったのですが、政策立案のプロである行政官の方々と話すうえでどのような姿勢で臨むべきか、徹底的に学ぶことができたと感じています。
私がとった勉強法
基礎能力試験(多肢選択式)・教養試験(択一式)について
文章理解については教養区分対策として特段新しいことをはじめたわけではなかったのですが、新聞や英字の雑誌を読む習慣を続けました。他方で、判断・数的推理に比べて安定して得点できる分野だと感じていたので、試験直前期は文章理解をどれだけ短時間で解き切るかを重視して、要点を把握しながら読むことを意識して演習に取り組みました。
数的処理については中学受験の経験から比較的自信があったので、3年生の4月から「これ完」を使って問題演習を繰り返し、感覚を取り戻すことを心がけました。論理や幾何学的な分野はもともと好きで楽しく解いていましたが、整数・確率の問題は苦手意識があったので、重点的に取り組むようにしていました。知能分野全体にいえることですが、早めに過去問や問題集に取り組んでおき、苦手な分野を見極めておくことが重要になると思います。
判断推理では意外と毎週新聞に掲載されている推理パズルが役立つなど、試験対策を意識したというよりもむしろパズルを解くつもりで取り組んだことがかえって良かったかもしれません。
資料解釈は白書を読む際に全体的な傾向を捉えることを心がけ、新聞などで統計資料に頻繁に触れる環境を作っておくことで、日常生活から問題に慣れるように努力しました。
知識分野については、高校時代は理系のクラスに所属していたこともあり、文系・理系問わず幅広く興味を持って学んでいたことが公務員試験で活きたと思います。
大学受験で選択した科目については参考書を実家から送ってもらって徹底的に復習し、取りこぼしのないように心がけました。自然科学分野については高校時代の基礎科目を全て復習して、基本的な知識や計算の確認をしました。人文科学分野については高校時代の一問一答の参考書を重点的に見直したあと、「これ完」を使って演習を繰り返しました。社会科学については伊藤塾の専門区分の学習と大学の授業の内容を復習して法律系の問題への対策を進め、そのほかの分野については総合論文のI部への対策と合わせて社会学、行政学、財政学などの書籍を読んで学習を進めました。時事問題は普段新聞を読んで対策しました。特に政府が基本計画を見直す場合や、重要な法令の見直しが進んでいる場合に注目して読むように心がけました。
満遍なく対策するよう努力しましたが、知識分野はとても範囲が広いため結局未習の分野では失点が多かったように思います。苦手な分野がはっきりしている場合は思い切って大学受験の科目に重点を置くほうが、配点比率の高い総合論文の対策時間を増やせて効果的かもしれません。
総合論文試験、一般論文試験、教養論文試験などの記述式について
佐藤講師のゼミの受講を中心にして、問題文の読み解き方や、出題の背景にある政策課題の理解を深めていく作業を進めていきました。
佐藤講師は論文の書き方について注意点を述べる際や、官僚を目指すうえでの心構えについてお話しになる際、ときに厳しい口調で指導されることがあります。今年度は対面で受講することが叶わなかったため自宅ではどうしても気が緩みがちでしたが、講師の言葉でまた気持ちを新たに努力することができました。
また、自主ゼミを活用して受験生同士で意見交換をした経験もとても重要だったと感じています。特にⅡ部の問題では多角的な視点から政策課題を捉える必要があると感じていたので、他の受験生の意見を聞いて取り入れる経験はとても役立ちました。また、将来的に官僚として文章を作成するのに必要な構成力を問われていると感じたので、講師がすすめてくださった比較的難しめの政治学の書籍などを読み、必要に応じて批判的に捉えていくことで伝わりやすい文章の書き方を学びました。
哲学・教養的な側面の強いⅠ部については、学生としてだけでなく、公務員としての視点から捉えたときにどのような課題が見えてくるか強く意識するように心がけました。基礎的な視座を学ぶために、公共政策学についての書籍を読みました。
企画提案試験・政策課題討議・面接・集団討論などの人物試験について
企画提案試験は、対策をはじめるにあたって相澤講師の企画提案試験対策講義を受講し、どのような視点で読み込んでいくべきか理解することを心がけました。政策案を発表できる形にまとめ上げるには、まず白書を詳しく読み込み、背景にある現場や政策課題を捉えることが重要だと感じました。他方で、白書につけられている解説はあくまで政府見解に過ぎないということを忘れず、批判的に読むことも重視しました。その際に専門家会議の議事録や新聞の論説委員の意見、NPOの活動報告書、シンクタンクの研究発表などが役立ちました。
これらは一人で全て読み込むことは難しいので、業務説明会で知り合った人に声をかけて2次試験対策会を組み、分担して検討するようにしました。省庁によっては、教養区分受験生向けに教養区分の内定者の方との座談会を設け、対策方法を相談させてくれる場合があります。そういった機会を存分に活用しました。
また、本番では思いつきの政策を提示するのではなく、さまざまな政策を比較衡量して最適なものを選択できているかという「ヨコの視点」と、選んだ政策を深掘りして課題を洗い出し、適切な対処法を考えられているかという「タテの視点」が求められるとうかがったので、伊藤塾の講師の方や自主的な勉強会の場で意見をもらう際も、その視点から政策を練るように心がけました。
政策課題討議では、学内の教養区分対策会で先輩合格者の方々からアドバイスをいただき、資料の読み方、レジュメの作成方法、個別発表時の留意点、討議の際の注意点について自分なりに戦略を立てました。
まず、過去問や伊藤塾でいただいた演習問題を使って問題文を見てすぐに立場を決め、根拠を思い浮かべる練習をしました。普段新聞を読む際に、重要な話題については漠然と自分の意見を整理することを意識していたのが役立ちました。20分で意見をまとめることを求められている状況でどちらの意見が正しいかといった点を気にする必要はないと考えたので、とにかく立場を決めてしまうことを優先しました。ここで資料を読む前に考えうる根拠を頭の中で列挙しておくのがおすすめです。資料と関連があれば説得力が増すし、資料に載っていなければ斬新な視点として討議の際に重宝されます。レジュメは「簡潔に、丁寧に」を意識し、3分で説明できるように分量を削る一方、討議で参照するに足りる十分な量を記載できるよう、何度も作成の練習をし、発表と合わせて友人に見てもらいました。個別発表では論点を明確にして、ハキハキと話すことを意識しました。討議では司会として議論を引っ張っていけるタイプではなかったので、認識のずれや議論の方向性を常に修正することを意識し、見落としがちな視点を拾い上げることを意識して話しました。議論している受験生だけでなく、試験員の方にしっかりと積極的な姿勢を見せることが重要なので、しっかりとうなずいて話を聞くこと、できる限り一人ひとりの目を見てゆっくりと話すことを重視しました。
官庁訪問について
大学の同期やインターンで知り合いになった公務員志望の友人とWeb会議で毎週集まり、白書や近日の報道資料などを参考に志望官庁の政策について勉強会を開いたことが、官庁訪問で職員の方々と話をするうえで役立ちました。
官庁訪問は知識が問われる場ではありませんが、勉強を重ねるなかで官庁への志望度が高まり、モチベーションの向上につながりました。
▲勉強会で使用していた説明会資料、白書、新聞記事など
普段の生活と試験対策について
伝統文化への理解を深めることを目標に掲げ、大学入学に合わせて弓道と尺八をはじめました。
弓道部では大学の授業時間の合間に道場で練習することができたので、毎日朝から晩まで大学で過ごす生活でした。私は肩を痛めることが多かったため何度も苦しい思いをしましたが、周囲の仲間にも助けられ、さまざまな意見をもらうことで練習方法を見直しました。ひとり暮らしのなかで毎日大学の部活動に打ち込んでいると、さまざまな制約があるものの、自分の生活というのは工夫次第でいくらでも充実したものにすることができるのだと感じます。厳しい制約の中で資源を有効に活用してより良い成果を出すというのは、公務員試験に向けて重要な力になると思います。
特に部活と試験対策の両立という観点では、伊藤塾のWeb講義を活かして、授業と部活のない時間に少しずつ学習を進めたことが効果的でした。
また、公務員試験が部活の大会期間と重なることが早い段階でわかっていたため、時間のかかる総合論文の練習は早めに進めていました。
モチベーションの維持の図り方
弓道は適度な運動になり、一番の気分転換でした。
また、就活の開始に合わせて大学のジムに通うようにして、無心になって体を動かす時間を確保し、ぐっすり眠ったことが良かったと感じています。
▲写真は弓道場で稽古中の私です。
私自身は思ったほどデジタル化が進まなかったという印象を受けたのですが、自宅待機期間中にデジタル化の長所と短所についてのさまざまな書籍を読んでみたところ、政府が国策として推進するにしては、あまりにもデジタル化の危険性が見過ごされすぎだと考えるようになりました。
例えば子どもたちの電子機器への依存症が挙げられます。業務の効率化や国際的な情報通信の高速化など、長所を挙げればきりがありませんが、それと同じくらい深刻な課題が今後顕在化すると思います。
官僚は目先の利益に飛びつくのではなく、十分な検討によって真に社会のためになるか判断していく冷静さが求められ、だからこそ税金で食べさせてもらっているのではないかなどと考えるようになりました。コロナ禍以前は正直なところ、憧れが先行して勉強していましたが、ある意味で今の行政について不満を持ったことでいっそうモチベーションが高まりました。
民間企業の就職活動について
地元の防災に強い興味があったことから建設・鉄道など、インフラ関連の企業に関心を持っていました。
将来一緒に国をデザインする仕事について学んでおきたいと感じていました。また、地域の中小企業の支援事業に取り組んでいる政府系金融機関にも興味がありました。公務員試験の筆記試験対策はほぼそのまま企業のWebテストの対策になります。また、面接に向けた自己分析やグループディスカッションの練習は共通しています。
民間就活では個の力をどのようにアピールするかが重要ではないかと認識しており、良い意味で自分の見せ方がわかります。公務員就活に特化していると、比較的協調性重視になりがちなので、要所で自分の魅力を伝えることができず埋没してしまいがちです。
その点で民間就活には大きな価値があると思います。また、公務員就活を行っている人は多かれ少なかれ「広く社会に貢献したい」といった大きな目標を持っていることが多いので、民間企業ではなぜ公務員にしなかったのか、公務員試験ではなぜ大手の民間企業を選ばなかったのかと聞かれることが多いです。そういったときに他の人から聞いた話ではなく自分自身のインターンシップなどの経験を話せるので説得力が増すと思います。
最後に
「先憂後楽」を旨とし、誰一人として切り捨てることのない寛容な社会を守り、支える公務員として全力を尽くします。
着実に準備を進めていく限り、充実した大学生活を送りながら公務員試験に挑戦することは決して難しいことではありません。ぜひ、大学生活で突き詰めたいものを追い求めつつ、公務員を視野に入れていただきたいです。また、伊藤塾の講師・スタッフの方々は大学生活でしかできない経験を積むことを大変重視してくださいます。単に公務員試験を突破し内定を得るという形式的な目標ではなく、行政官として働くうえでどうあるべきか、何を学ぶべきかという日々の課題を明確に示してくださいました。
昨今、国家公務員に対する社会的な視線は厳しさを増し、他方で過酷な労働環境が明らかにされるなど、国家公務員はさまざまな意味で注目を集める職業だと思います。正直なところ、民間企業で働く道を選んでいれば、はっきりと目に見える形で評価され、別のもっと幸せな生活を手に入れることができただろうという考えもあります。
しかし、私は大学までの学びのなかで日々の生活を支える行政の重要性を感じ、あたりまえの生活を維持することが実は極めて難しいのだということに気づきました。また、冷静な視点から常に社会の全体最適を目指して考え続けるのは、間違いなく「官」でしかできない仕事だと考えています。そして私は、日本全国を駆け回り、行政のあり方を考え続ける総務省職員の一員になれることを強く誇りに思っています。
伊藤塾に興味を持っていらっしゃる多くの方が少しでも公務員就活に対する不安を解消し、そのうえで自身にあった進路を選択できることを祈っています。