「仕事」と「法律」コラム
本コラムは、さまざまなバックグラウンドを持つ方々に、
その知識と経験を法律家という仕事において活かすことの意義や必要性をお伝えしています。
1人でも多くの方が法律家の仕事に魅力、やりがいを感じチャレンジしていただくことを期待しています。
このコラムは司法試験メールマガジンで一部配信したものを掲載しております。
今、世界は新型コロナウイルス禍に見舞われ、皆さんも大変な思いをされているのではないでしょうか。
経済活動の停滞、外出の自粛、学校の休校、医療体制の逼迫など様々な事態を招き、かつて経験をしたことがないような状況下にあり、至る所で人々の悲鳴が聞こえてきています。
世界中で困っている人がたくさんいます。
皆さんご自身も、いろいろとお困りのことなどあろうかと思います。
それでも皆さんには、困難に直前している人々に温かく救いの手を差し伸べ、1人でも多くの人を笑顔にしてあげられるような法律家になってほしいと願います。
いわゆる「3密」を避けるため、大学の授業はオンラインで行われるようになり、仕事は在宅ですることが多くなっていることと思います。
また、オンライン診療が実施されていますし、今後は法律相談もオンラインで行われることが増えるのではないでしょうか。
オンライン(リモート。以下、同じ)による会議などでは、対面以上に相手への気遣いが必要で、信頼関係を築きながら、相手の立場に立って進行していくことが求められると言われています。※1
対面であれば、服装や表情などの雰囲気から、相手が信頼できるかどうか判断することができますが、オンライン会議などではそうはいきません。
そのため、会議の冒頭に服装でも髪型でも何でもよいので相手を褒めるなどして、関係の構築に配慮がなされている例があるようです。
また、小さい画面では相手の表情を読み取るのは難しいので、参加者は、きちんと聞こえていたり、内容を理解して賛同できたりする場合には、対面の時以上にオーバーにうなずくなど、できる限り視覚的に伝達することが推奨されています。
なお、現在民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現が目指されています。
すなわち、民事訴訟について、①訴訟提起からその後の手続(書面や証拠の提出など)までオンライン化を進めるとともに、訴訟記録の電子化を実現することや、②裁判においてWeb会議などを導入・拡大し、遠隔地での裁判へのアクセスを改善することとされています。※2
司法の場でもオンライン化が進められており、オンライン化に対応できるスキルを身につける必要がありそうです。
法律家を目指して勉強をされている皆さんには、当初の志を忘れずに心折れることなく勉強を続けていただきたいと思います。
伊藤塾では、伊藤塾長をはじめ各講師陣が、それぞれの視点から学習をされている皆さんにメッセージをお送りしています。※3
ぜひご覧ください。
※1 以下、https://comemo.nikkei.com/n/n57a0f7d13363
※2 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html
※3 https://www.youtube.com/channel/UCEvx02qWA8EZHE2w2WrpSSw
「国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)」という国際会議が、5年に一度開催されることになっています。
その第14回会議が、4月20日から京都で開かれる予定でした(新型コロナウイルス感染症をめぐる状況から開催が延期されました)。
この会議は、世界の犯罪防止・刑事司法分野の諸課題について議論し、より安全な世界を目指して協働することを目的としたもので、世界各国から数千人規模の専門家が参加するものです。※1
日本弁護士連合会では、コングレスにて採択される予定の宣言において、「死刑制度が廃止されるべきである」ことなどを求めています。※2
そこで今回は、死刑制度について少し考えてみたいと思います。
世界の情勢を見ると、法律上または事実上死刑を廃止している国の数は142とされており、他方、死刑を存置している国の数は56で、わが国はそのうちの1つです。※3
内閣府の世論調査によると、「死刑は廃止すべきである」、「死刑もやむを得ない」のどちらの意見に賛成かを問う質問には、「死刑は廃止すべきである」と回答した者の割合が9.0%、「死刑もやむを得ない」と回答した者の割合が80.8%となっています。
「死刑もやむを得ない」と答えた理由としては、「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」を挙げた者の割合が56.6%、「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」を挙げた者の割合が53.6%の順になっています。※4
国民の法感情としては、いまだ死刑の廃止を求めるには至っていないと言えそうですが、皆さんは、いかがでしょうか。
裁判員裁判では、被告人を死刑に処するか否かについても対象とされます。
裁判員制度開始以来、裁判員裁判において死刑が求刑された被告人は55人で、200人を超える裁判員がその評議に臨み、死刑判決の言い渡しに立ち会ったことになります(2019年5月時点)。
実際に裁判員として死刑判決に携わった人の中には、裁判員として参加することは「すごく負担だった」とし、「法律のプロではない私たちが決めていいのか」と疑問を呈する意見もあります。
また、裁判員が死刑の判断に関わることは妥当だとする人でも、「自分が出した結論でいいのか、悩み続けて、本当につらくて泣いて」しまった。「苦しんで苦しんで、悩んで出した結論です」と苦しい胸の内を吐露しています。※5
皆さんは、このような現状についてどのように考えますか。
死刑制度に肯定的であっても否定的であっても、その程度(積極的なのか消極的なのかなど)は人によって様々なのかもしれません。
積極的に否定的な考えをもつ人でも、肉親や大切な人を殺害されたような場合、その犯人を死刑にしたいという感情がよぎることはないでしょうか。
皆さんが将来、弁護士や検察官として、あるいは裁判官として死刑に処するか否かの判断を迫られる時がくるかもしれません。
弁護士なら被害者遺族などの被告人を許せないという思いについて、検察官なら1人の人間の命を奪うことになることについて、裁判官ならその両方について、極めて重い判断を下すことになるでしょう。
大いに考え、悩みぬいて結論を出してほしいと思います。
また、苦しい思いをすることになるであろう裁判員に対しては、心理的な負担が少しでも和らぐように、法律家として十分な配慮をもって接してほしいと願います。
※1 http://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/about/congress.html
※2 「第14回国連犯罪防止刑事司法会議における京都宣言に含めるべき事項に関する意見書」(日本弁護士連合会、2019年4月18日)
なお、日本弁護士連合会「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(2016年10月7日)参照
※3 「2018年の死刑判決と死刑執行」(アムネスティ・インターナショナル報告書(抄訳))
※4 https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-houseido/2-2.html
※5 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190612/k10011949941000.html
皆さんは、「裁判官」というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
堅い、厳格、まじめ…といったところでしょうか。
でも、実際は趣味も楽しんだりして、普通の社会生活を営む市民であることに変わりはなく、工夫次第で家庭や自分の時間も確保しやすいとのことです。※1
とはいえ、やはり裁判官はとても忙しいようです。
2018年に全裁判所が新たに受理した事件数は、
・民事・行政 1,552,708件
・家事 1,066,384件
・刑事 937,191人
・少年 66,219人
となっており、計3,622,502にものぼります(民事・行政、家事については件数、刑事・少年については被告人・少年の人員)。
ちなみに、2019年度の統計によると、わが国の裁判官の数は3,881人です(検察官は2,756人、弁護士は41,155人)。※2
裁判傍聴を数多くこなしている北尾トロ氏は、「ルーティンワークの疲労感で本性がむき出しになったように」、被告人のふてくされた答え方に激怒する裁判官や、被告人に軽蔑の眼差しを向けるエラそうな裁判官までいると述べています。※3
AIやロボットの裁判官だと、感情を表に出すことなく淡々とかつスピーディーに事件を処理していくのでしょうか。※4
AIやロボットは、疲れることも悩むこともなさそうです。
生身の人間だから悩む。
2009年~2016年まで最高裁判事を務めた千葉勝美氏は、「悩むこと」が裁判官の仕事の魅力であり、醍醐味であると述べています。※5
すなわち、法律家の仕事は社会正義を実現することに尽きるが、何が正義なのかは条文を睨んでも答えは出てこない。
答えを出すためには、何があるべき解決・結論なのかを真剣に悩み考え続けることが求められ、これが面白いと。
また、裁判ではその性質上、当事者のどちらからも全面的に支持されることはなく、常に非難されるべき宿命を帯びている。
しかし、真剣に悩んで全人格的な判断でもって結論を出すことこそがやりがいとなる、と。
今後、様々な技術がますます発達し、生起する問題が複雑化することから、法律家としても難しい対応を迫られることが予想されます。
まさに、「 行き先の見えない列車に乗って、進むべき途・ゴールを探っていく」(千葉氏)ことになりそうです。
裁判官に限らないことだと思いますが、好奇心旺盛に、社会に生起する種々の事象に関心を持ち、当該問題の本質は何か、どのようなアプローチで取り組めばよいか、考えられる解決法は何かを必死になって考える姿勢が、法律家には求められるといえるでしょう。
※1 品田幸男「裁判官」法学教室474(2020年3月)号
※2 統計は、裁判所データブック2019(裁判所Webサイト)より。
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/db2019_P22-P34.pdf
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/db2019_P35-P74.pdf
※3 北尾トロ「裁判官は人間です」法学セミナー748(2017年5月)号
※4 もっとも、以前、本コラムで、人工知能(AI)やロボット等で代替される確率を試算したある研究について触れ、それによると裁判官は11.7%であったとご紹介しました(2018年2月20日「AIと法律家」)。
※5 千葉勝美「裁判官とは何者か?:その実像と虚像との狭間から見えるもの」一橋法学17巻第2号
植村直己という冒険家(探検家)をご存知でしょうか。
エベレストをはじめとする5大陸最高峰の登頂に、世界で初めて成功した人です。
その他にも、犬橇での北極圏1万2千キロ走破や、北極点単独到達など数々の冒険を成し遂げています。
彼の最後の夢は、南極大陸を犬橇で単独横断するというものでした。
しかし、その夢は叶うことはなく、1984年2月12日に世界初の冬期のマッキンリー(現デナリ)単独登頂を果たした翌日、消息を絶ちました。
厳しい自然と闘い、幾度となく死を覚悟する場面に遭遇しながらも、いくつもの偉業を達成してきた植村さんでさえ、不安はつきまとっていたようです。
北極圏1万2千キロの旅に立つ際、「きっとやり遂げるのだ、と固く決意し、心を奮い立たせるのだが、不安が胸の中にしこりのようにあって消えないのをどうすることもできない」と述べています。※1
皆さんも、日々仕事や勉強をしていくなかで、植村さんが感じていたものとは性質が異なるとは思いますが、不安を感じたり悩んだりすることがあると思います。
伊藤真塾長は、不安や悩みなどマイナス思考の原因を紙に書き出すことが効果的だと言います。
そして、不安の原因を書き出したら、次はその原因(なぜそのように不安に思うのか)について、深く掘り下げる。そうすることによって、不安そのもの原因が明らかとなり、あとはそれを解消するための対策を検討し実践することだと。
また、不安は必ずしも事実ではなく、思い込みだったりすることもある。
不安は頭の中にある限り、どんどん大きくなっていく。
不安を書き出すことで、頭の中にある不安を客観視することができ、実は大したことではなかったと気づくことがある、と述べています。
司法試験に合格された方からは、次のようなメッセージが寄せられています。
- これでいいのかと不安になることもありますが、…合格するんだと決めた自分の心意気を信じ、達成させてやろうという気持ちを大切にしてほしいと思います。その気持ちが、折れそうになっている心を支えてくれるはずだからです。
- 不安な気持ちを抱えながら試験の勉強を続けている方もいらっしゃると思います。いつか、あきらめずに頑張って受験を続けてよかったと思える日が来ます。夢を追うことは素敵なことです。夢に向かってがんばってください。
植村さんの語る「夢」には、強いリアリティーがあったそうです。※2
皆さんには、仕事や勉強をしていくなかで不安や悩みが生じた時は、伊藤真塾長の説く方法でそれらを解消し、自身の思い描いた夢(輝かしい目標)に向かって突き進んでいってほしいと思います。
※1 植村直己『北極圏1万2000キロ』(ヤマケイ文庫、2014年)
※2 湯川豊『植村直己・夢の奇跡』(文春文庫、2017年)
植村冒険館のWebサイトには、「厳しい自然のなかでたったひとり、人間の可能性に挑戦し続けた植村直己さん。決してあきらめず困難に立ち向かう姿勢と人間味あふれる温かい人柄は、今もたくさんの人に愛されています。」と記されています。
植村さんの魅力をもう1つ付け加えるとするなら、私は、常に謙虚であり続けたことだと思います(彼の著書を読んでいて、随所に感じます)。
~海を舞台に、グローバルな案件に取り組む
弁護士として扱う分野の1つに、海事(法)と呼ばれる分野があります。
わが国は、鉄鉱石や石炭、石油や天然ガスなどのエネルギー資源の100%近くを海外から輸入し、海外から輸入した原料を加工して製品を作り、海外に輸出しています。
これら輸出入貿易のほとんどは、船舶による海上輸送によって行われています。※1
ところで、海は誰のものでしょうか?
海はすべての人々に解放されていましたが、中世に入ると、ヨーロッパ各国が沿岸の海域の領有を主張し始めるようになり、大航海時代にはスペインとポルトガルが海洋の勢力圏をめぐって争い、その後イギリスやオランダが海洋の覇権を目指すようになります。
大航海時代以降は、国家の権利が及ぶ「領海」とどこにも属さない「公海」に区分されていましたが、漁業権や海峡の通航権などをめぐる対立が表面化するようになり、アメリカも海洋覇権に乗り出します。
このような流れの中、領海や排他的経済水域、権利義務関係、海洋環境の保全、紛争解決手続などを規定した、「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約(「海洋法に関する国際連合条約」)が1982年に採択されるに至ります。※2
輸出入のほとんどを船舶による海上輸送に頼るわが国では、海上輸送における安全の確保は、極めて重要な問題といえます。
海上で生じるトラブルとしては、
・船舶同士の衝突や接触事故
・船舶の座礁や転覆
・貨物の損傷
・海賊行為による損害
などが考えられます。
海事(法)を専門に取り組む弁護士の1人に、長田旬平弁護士がいます。
長田弁護士によると、海事の分野は、景気や世界経済の流れ、海運マーケットに影響されるのが特徴で、トラブルや係争が絶えないそうです。
また、石油・石炭などのエネルギーや保険業界とも密接に関連しており、契約書・約款の準拠国などをめぐって世界中の様々な国が関係することから、複雑化する案件も多いとのことです。
地図好き、世界史好きの方には楽しい分野だと思うとのことですので※3、興味のある方は多いのではないでしょうか。
海という大きな舞台で、グローバルな案件に取り組む醍醐味を味わってみませんか。
※1 藤本昌志「法で守る海の安全」
竹田いさみ『海の地政学 覇権をめぐる400年史』(中央新書、2019年)ⅱ~ⅲ頁
※2 以上、外務省「わかる!国際情勢Vol.61『海の法秩序と国際海洋法裁判所』」
詳しくは、竹田いさみ『海の地政学 覇権をめぐる400年史』(中央新書、2019年)参照。
本書は、海洋の覇権をめぐる歴史を、航路や資源、法制度などの観点から描いています。
※3 長田旬平先生実務家インタビュー
どんな案件でも対応する総合法律事務所で、
未知の海事分野を専門にされた経緯をお話いただいきました。
「法廷通訳人」と呼ばれる人たちがいます。
日本語を理解できない外国人が被告人や証人となったケースにおいて、外国語で行われた被告人の供述や証人の証言を日本語に通訳したり、裁判官・検察官・弁護人からなされる日本語による質問等を被告人や証人に通訳したりする役割を担う人たちのことです。
通訳人は、刑事裁判において日本語を理解できない被告人の人権を保障し、適正な裁判を実現する上で極めて重要な役割を果たしているとされています。※1 2017年に全国の地方裁判所や簡易裁判所で判決を受けた被告人54,664 人のうち、通訳人が付いた外国人被告人は2,996人で、おおよそ18人 に1人の割合となっています(国籍数は75か国にのぼり、法廷で使用された外国語の種類は、35言語にも及んでいるそうです)。※2 重要な役割を果たしている法廷通訳人ですが、大きな心理的不安を感じており、その1つが、通訳のミス(誤訳や訳し落とし)による被告人等の人生を左右することへの不安だそうです。
この点に関し、法廷通訳人に対する調査では、法曹三者の発言を訳しにくいと感じることが「よくある」および「たまにある」との回答が87.3%にぼっています。
わかりにくいと感じる話し方として、「センテンスの構造がわかりにくい」、「話す速度が速すぎる」、「難解な語彙を使う」などが挙げられています。
逆に、わかりやすい話し方としては、「発言の意図が明確」、「センテンスの構造がわかりやすい」、「主語と述語が明確」、「1つのセンテンスが短い」、「話す速度が適当」などが挙げられています。※3 法廷通訳人は法律の専門家ではありません。
法廷通訳人は法廷における発言はもとより、起訴状や供述調書等裁判に係る書類の翻訳もされるようですので、裁判の準備段階から法廷での発言に至るまで、簡潔でわかりやすい言葉を用いる配慮が求められます。
皆さんも、日頃からわかりやすい言葉で論理的・説得的に表現できるように心がけるようにしてください。
※1 http://www.courts.go.jp/saiban/qa_keizi/qa_keizi_26/index.html
※2 「ごそんじですか法廷通訳」(裁判所)1頁。
※3 以上、「2017法廷通訳の仕事に関する調査報告書」4~5頁。
今年(2019年)の最初の本コラムでは、昨年の世相を表わす漢字が「災」だったことを受け、法律家として災害発生時に人々の生命・財産を守ることはもちろん、その後の生活や事業を再建し、未来に向けて一歩を踏み出してもらうために法的観点からアドバイスなどを行うことは、とても意義のあることだと述べました。
今年も最大級の台風が東日本・東北地方を中心に襲い、多摩川や千曲川などいくつもの河川が決壊・氾濫し、また各地で土砂災害が発生するなど豪雨による甚大な被害をもたらしました。
今回のコラムも、災害と法律家の役割について改めて取り上げてみたいと思います。
弁護士法は、「基本的人権を擁護」することを弁護士の使命として掲げています(第1条1項)。
日弁連では、被災者が被災状態にあること自体が人権侵害であると捉え、被災者を支援することは人権擁護活動そのものであると考えています。※
災害発生時における法的問題としては、例えば次のようなものが挙げられます。
・住宅の損壊をめぐる貸主と借主との間の紛争
・ローンの残っている住宅などが損壊し、再建のために新たなローンを組む「二重ローン」の問題
・隣家や塀の損壊・倒壊による損害賠償請求(工作物責任)
・親族を亡くした場合の遺言・相続の問題
など
災害に見舞われ途方に暮れている人たちが抱える上記のような法的問題に対する、弁護士による法律相談などの支援は、大いにニーズがあることでしょう。
また、法律相談を通じて得られた情報にもとに、災害関係の各種ガイドラインの整備や被災者を支援する法律の改正、さらには新たな法律の制定に関わる提言なども期待されるところだと思います。
地球温暖化等による影響で、これからも非常に強い勢力を有する台風が発生し、各地に大きな被害をもたらすことが予想されます。
災害を予防することは難しいかもしれませんが、より少ない被害ですむようにするため、また災害が発生した際には1人ひとりの被災者と向き合い、地域と個々人の復興を支援するために、法律家としてぜひ力になってあげてほしいと思います。
※ 弁護士白書2014年版57頁
2020.2.14に「司法は気候変動の被害を救えるか~科学からの警告と司法の責任~」と題するシンポジウムが開催されます。
今年は、イギリスで、女性が法廷弁護士(barrister)や事務弁護士(solicitor)の資格を得ることを初めて可能にした「1919年性別による欠格(撤廃)法」の施行からちょうど100周年にあたるそうです。※1
イギリスにおける女性弁護士の割合は48.8%。フランスでは55.4%、アメリカでは35.0%、韓国では25.4%となっており、日本は18.4%です(2017年)。※2
日本の司法分野全体における女性の割合について見てみると、検察官が最も高くて23.5%、次は裁判官で21.3%となっており、弁護士は最も低い数値となっています(2017年)。※3
検察官と裁判官については増加傾向にありますが、弁護士に関しては増加傾向にはあるものの、微増といったところでしょうか。
アメリカと比較してみると、連邦最高裁では1981年に初めて女性の裁判官が誕生し、現在連邦最高裁には9名中3名の女性裁判官がいます。一方、日本では初めて女性が最高裁判所裁判官に任命されたのは1994年になってからであり、現在15名中2名の女性裁判官がいます。
ロースクールにおける女子学生の割合について見てみると、YaleとHarvardで49.8%、Stanfordでは49.6%とほぼ男女比が同数となっているのに対して、日本では法科大学院生に占める女性の割合は、30.9%にとどまっています。※4
現在、いわゆる「法曹コース」の創設をはじめとする法曹養成制度改革がなされようとしていますが、法学以外の学問を専攻する未修者や、様々な社会経験を有する社会人は置いてきぼりを食らっている感があります。
今後、AI技術はますます発達し、環境問題は地球規模で広がりを見せ、様々な未知の問題が生起してくるに違いありません。
これらの問題に対して、法的観点から解決を迫られることも多いと思います。
そのような時、司法の底力を支えるのは、性別に限らず、学問的・社会的バックグラウンドの多様性にあると考えます。
皆さんには、“煌めく星”になってほしいと願っています。
小さな子どもからお年寄りまで、世界中の困っている人たちがどうしたらいいだろうとふと空を見上げた時、そこには無数の星がキラキラと輝いている。
輝く星は皆さん1人ひとりであり、それぞれ豊かな個性を持ち、救いの手を差し伸べようとしている。
そのような状況になってほしいと願っています。
※1 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49217310Q9A830C1000000/?n_cid=DSTPCS001
※2 弁護士白書2018年版23頁
※3 同上10頁
※4 アメリカ:2019年。UC-Berkeleyでは59.7%
https://www.usnews.com/best-graduate-schools/top-law-schools/law-rankings
日本:2017年。弁護士白書2018年版8頁
「なぜ犯罪者の弁護をするのか」
「被害者やその遺族の気持ちを考えたことがあるのか」
とりわけ凶悪な犯罪や卑劣な犯行に及んだ被疑者・被告人の弁護人に対して、批判的に投げかけられる言葉だと思います。
皆さんなら、どう答えますか。 このような疑問の声について亀石倫子弁護士は、「刑事弁護人」という仕事の本質が理解されていないと感じているそうです。
自分は犯罪とは縁がなく、生涯罪を犯すことはないと多くの人が思っているが、これまで数多くの事件を扱ってきた亀石弁護士は、その可能性は到底ゼロとは思えず、いつ自身に降りかかってもおかしくないと言います。
すなわち、「罪を犯したと疑われている人の権利を守ることは、自分を守ることでもある」。
犯罪の嫌疑がかけられ、逮捕から起訴を経て公判に至る過程において、事実が捻じ曲げられ、過度に悪質と判断され、真実を訴えても聞いてもらえない可能性は否定できない。
正当な手続で裁判を受けることができないかもしれず、刑事弁護人がそばにいる必要があるのだ、と。※1 話題性のある事件が発生すると、テレビや週刊誌で騒がれ、被疑者とされる人物の生い立ちや現在の生活環境などが、瞬く間にSNSによって無責任に拡散されます。
真実を見極めるために、亀石弁護士は、偏見や先入観を排し、被疑者・被告人と同じ目線に立つことが刑事弁護人として必要不可欠な資質だと説きます。※2
捜査機関と弁護人とでは象とアリくらいの力の差があり、少ない武器を駆使してアリが思う存分象に戦いを挑むことができることが、刑事事件の醍醐味だと亀石弁護士は述べています。※3
今後は、今まで以上にハイテクを駆使した捜査手法が現れ、人権との関係で問題視されることもあり得ると思います。
その前に立ちはだかるのは、強大な権力を要する警察・検察の捜査機関です。
強大な力に向かって怯むことなく弁護活動を行う刑事弁護人。チャレンジのしがいがあると思いませんか。
※1 亀石倫子=新田匡央『刑事弁護人』(講談社現代新書、2019年)54頁以下
本書では、令状を取得せずに、車両にGPSを取り付けた捜査手法の違法性が争われた事件における被疑者との接見に始まり、弁護団の結成、弁護団会議、地裁・高裁での審理を経て最高裁大法廷での弁論、判決に至るまでの様子が詳細に記述されています。
とりわけ、最高裁大法廷での弁論(本書311頁以下)は練りに練られており、本件に取り組む弁護団の思いが詰まっています。
興味のある方は、一読してみてはいかがでしょうか。
※2 同上35頁
※3 http://www.lskyokai.jp/houkadaigakuin_3_7/
裁判員制度が施行されて、今年で10年になります。
裁判員制度は、「国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条)として導入されました。※1
これまでに1万1,000件を超える裁判員裁判が行われ、約8万9,000人が裁判員等として刑事裁判に参加しています。※2 アンケートによると、裁判員に選ばれる前は「やりたくなかった」「あまりやりたくなかった」が約44%、「やってみたかった」「積極的にやってみたかった」が約40%と、消極的な気持ちの方が勝っていました。
ところが、実際に裁判員として裁判に参加した後は、「よい経験と感じた」「非常によい経験と感じた」との回答が約97%に上ります。※3
裁判員裁判が実施されるようになり、刑事裁判は“劇的な変化”を遂げたとされています。すなわち、捜査段階の供述調書をはじめとする膨大な書証を読み解いて事案を詳細に解明することを目指す「精密司法・調書裁判」から、犯罪事実の有無および量刑を決めるにあたり必要な範囲で審理・判断を行う「核心司法」、また、公判廷で必要な証拠に直接触れ、的確に心証を採ることができる審理の実現を目指す「公判中心主義」に変わったといわれています。※4
このような変化は、刑事裁判に国民の視点や感覚を反映させるために、わかりやすい裁判が求められることの帰結だといえるでしょう。
一方で、辞退率が高いこと、審理期間が長期化の傾向にあること、殺人事件の現場写真等のいわゆる刺激証拠により裁判員が精神的なショックを受けることなどが課題として挙げられています。※5
近い将来、皆さんは弁護人や検察官、裁判官として裁判員裁判に携わることがあるかもしれません。
弁護人や検察官として臨む際は、素人である裁判員が理解しやすいようにわかりやすく説明する必要があり、そのための技量を身につけなければなりません。
裁判官として臨む場合は、素人である裁判員の声に耳を傾け、裁判員の視点や感覚が審理に活かされるよう導かなければなりません。
また、三者に共通していえることは、裁判員裁判に対する国民の理解が進むよう務めるとともに、裁判員の精神的・肉体的な負担を少しでも減らす工夫をすることが求められます。
このように、裁判員制度が今後よりよいものとなるために、皆さんに期待されるところが大きいのです。
※1 裁判員制度の実施に至る経緯については、例えば、井上正仁「裁判員制度と刑事司法―二人三脚10年の歩み―」(裁判員制度10年シンポジウム基調講演)参照
※2 「裁判員制度10年の総括報告書」(令和元年5月、最高裁判所事務総局)2頁
※3 ※2報告書図表編図表1
※4 ※2報告書6頁
※5 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44833550V10C19A5CC1000/
池井戸潤『下町ロケット』(小学館、2010年)をご存知の方は多いと思います。
家業である小さな町工場を継いだ佃航平は地道に業績を伸ばしていきますが、特許侵害で訴えられるなど工場の経営は危機に陥ります。
そこで登場するのが、知財関係訴訟のエキスパートである神谷修一弁護士であり、佃社長は神谷弁護士に助けられ、窮地を脱します。
神谷弁護士のモデルとされているのが、鮫島正洋弁護士です。
鮫島弁護士の所属する事務所では、知財に対する理解度が十分とはいえない中小ベンチャー企業に対し「知財」と「法務」の両面からサポートをすることで企業の技術を守り、特許を含む知財戦略を練って企業の競争力を上げることに尽力しているのだそうです。※1
知財戦略といえば、古くは、60年前の1959年にボルボが3点式シートベルトに関する特許を公開し、同社のWebサイトでは、「以来、このシートベルトは100万人を超える人々の命を救ったとされています。」と高らかに謳っています。※2
自社だけではなく、世界の車の安全性を高めることに寄与したことで、企業価値を上げることにもつながったのだろうと思われます。
トヨタ自動車は今年、ハイブリッド技術に関する特許を公開しました。
トヨタ自動車は、当該技術を自社の特許として保護するのではなく、公開することで市場の活性化を目指す道を選んだのです。※3
また、対象を宇宙にまで広げてみると、これまでは各国の宇宙機関や一部の大企業が主たるプレーヤーでしたが、宇宙の商用利用が盛んとなり多くのベンチャー企業が宇宙産業に参入しており、知財戦略の重要性が高まっていることが指摘されています。※4
鮫島弁護士は東京工業大学の金属工学科を卒業後、ある電線大手会社に就職するもののエンジニアには向いていないことを自覚し、資格の取得を目指します。
はじめに弁理士の資格を取るために勉強を始めるのですが、法律学が性に合っていたらしく、「生まれて初めて勉強が面白いと思った」そうです。※5
皆さんのなかにも、理系のお仕事をされている方々がいらっしゃることと思います。
さらなるステップアップのために、法律の勉強を始めてみませんか。
法務と知財戦略を駆使して企業価値と競争力を高める試みは、とてもダイナミックでやりがいのある取組みだと思います。
伊藤塾は、様々なバックグラウンドを持った方が自らの可能性を信じ、チャレンジするのを応援します。
※1 https://toyokeizai.net/articles/-/91868
および https://www.asahi.com/articles/DA3S14012906.html
※2 https://www.volvocars.com/jp/about/our-company/heritage/innovations
※3 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43268630T00C19A4I00000/?n_cid=SPTMG053
※4 秋山誠「我が国の宇宙産業において重要性を増す知財戦略」パテント2019年Vol.72 No.3
※5 https://toyokeizai.net/articles/-/91868
ギンズバーグ判事のドキュメンタリー映画「RBG」を観ました。
話題になっている映画であり、ご覧になった方も多いかもしれません。
RBG(Ruth Bader Ginsburg)は、1993年にクリントン大統領によって指名された、アメリカ合衆国連邦最高裁の判事です。
連邦最高裁判事に定年はありませんので、86歳を迎えた今年も現役です。
見た目は小柄ですが※2、とても大きな存在感のある人だというのが、映画を通じてよくわかりました。
絶大な人気があり、また連邦最高裁判事としてはもちろん、1人の女性として多大な影響力を及ぼしています。
連邦最高裁の建物には“EQUAL JUSTICE UNDER LAW”という言葉が刻まれています。
ギンズバーグ判事は、まさにこの言葉の実現を目指して闘ってきた法律家だと言えます。
彼女は、ロースクールを優秀な成績で修了したにもかかわらず、女性だからという理由で大手法律事務所から採用を拒まれたという経験をしています。
その後、このような経験を糧に、女性差別に関する訴訟で原告の代理人を務め、女性差別を違憲とする判決を最高裁から導き出しています。
また、親の介護費用の控除申請に関する事案では、男性の代理人として差別的扱いを正す訴訟に関わってもいます。
最高裁判事と立場は変わっても、差別的扱いと闘う熱意は変わりません。
例えば、創立以来男子しか入学を認めてこなかった州立士官学校に入学を希望する女子の訴えに対して、入学の機会を与えないのは不当であるとする法廷意見を述べています。※3
また、性別による賃金差別に関する訴訟では、反対意見において法廷意見を批判し、議会に対して最高裁の誤りを正すよう求め、実際に議会が動き、立法措置が取られたこともあります。※4
幼い頃の様子から、女性ゆえに経験した様々な差別を経て、連邦最高裁の判事としてその地位を確立するまでの過程を描いた絵本(『大統領を動かした女性 ルース・ギンズバーグ』(汐文社、2018年)があります。
その最後に記されている次の言葉は、彼女の歩みを象徴しており非常に印象的です。「ルース・ベーダー・ギンズバーグはけっしてあきらめませんでした。ほかの人たちに自分の限界を決めさせたりはしませんでした。」※5
彼女は、自身の信じるところに従って行動をしてきました。
声高に叫ぶのではなく、静かに理路整然と説く姿勢は説得力を持ちます。
力強くもあるその姿はやがて共感を呼び、理解し協力してくれる人が現れます。
彼女にとっては夫であり、2人は、お互いとてもよい理解者でした。
これから、皆さんは様々な困難に遭遇したり、迷いが生じたりすることがあるかもしれません。
そんなときでも、「けっしてあきらめ」ることなく、また他人に「自分の限界を決めさせたり」することなく、前を向いて歩み続けていただきたいと思います。
※1 http://www.finefilms.co.jp/rbg/
※2 https://www.supremecourt.gov/about/justices.aspx
前列向かって右から2番目がギンズバーグ判事
※3 詳しくは、阿川尚之『憲法で読むアメリカ現代史』(NTT出版、2017年)190頁以下参照。
※4 本訴訟の原告の自伝が邦訳されており、そのなかでギンズバーグ判事の反対意見が紹介されています(リリー・レッドベターほか(中窪裕也訳)『賃金差別を許さない!』(岩波書店、2014年)241頁以下)。
※5 https://www.choubunsha.com/book/9784811324753.php
自治体で働く弁護士の多くは、総務や法務関連の業務に就いているようです。
以前(2019年2月)、本コラムにて「任期付公務員」(中央省庁や地方公共団体において任期付きで採用された職員)について少し触れました。
そこでは、任期付公務員数は2018年6月時点で207人と増加傾向にあり、地方自治体においてはその業務のすべてが仕事の対象となり、仕事は増える一方であると述べました。
今回は、弁護士の自治体における仕事についてもう少し詳しくご紹介します。
自治体で働く弁護士の多くは、総務や法務関連の業務に就いているようです。
具体的には、各部署から寄せられる相談への法的観点からの回答、住民への対応、行政不服審査や訴訟への対応、条例の作成、議会への対応などに関するものなどです。
総務や法務関連以外にも、福祉行政に関わったり、児童相談所に勤務したりするなど様々な場面で活躍されています。
仕事のやりがいについては、自治体勤務経験のある法曹有資格者を対象としたアンケートでは、業務内容の幅広さ、社会的影響力の大きさ、公の仕事に役立っていること、職員から感謝されることなどが挙がっているようです。※1
もっとも、所属先(職種)によっては、難しい対応を迫られます。児童相談所において児童虐待を担当している弁護士は、案件の性質上当事者からの要望がないのに強制的に介入することがほとんどであり感謝されることはなく、子どもを保護された保護者と激しい対立関係になることもあり、疲弊することも少なくないと述べています。※2
他方で、弁護士を自治体職員として任用する側にもメリットがあると言います。
ある自治体の長は、日常業務を行う上で法的な問題があるのではないかと少しでも気になれば、すぐに相談することが可能になったこと、相談を行うなかで、実は大きな問題やリスクがあることが明らかとなり、自治体内でのコンプライアンスに対する意識や職員の法務能力の向上資することなどを挙げています。※3
ある市役所に勤務する弁護士は、自身がこれまでのキャリアにおいて出会った依頼者は、地域で暮らす要支援者の氷山の一角にすぎず、弁護士のところに相談に行くこと自体が困難な市民が星の数ほどいることに衝撃を受けたと述べています。※4
自治体での勤務の経験は、その後のキャリアにとって大いに役立つことと思います。
今後の業務において、自治体で築いたネットワークを活かすこともできるでしょう。
星の数ほどいるとされる、弁護士のところに相談に行くこと自体が困難な人たちは、皆さんからの救いの手を待っています。
興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。
※1 「自治体内弁護士という選択」(日本弁護士連合会、2014年)5頁。
※2 同上9頁。
※3 島田智明「自治体内弁護士を採用して」自由と正義2018年5月号31-32頁
※4 青木志帆「福祉行政と地域福祉にコンプライアンスを」同上22-23頁
昨年、東京都目黒区で暮らす5歳の女の子が亡くなりました。
彼女がつけていたノートには、「きょうよりももっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」などと、親に言われたことができなかったことへの反省と謝罪を表す言葉が綴られていたといいます。
記憶に焼き付いている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
政府(内閣府・文部科学省・厚生労働省)の調査によると、「虐待の恐れがある」とされる子どもが2,656人、「虐待の可能性が否定できない」子どもは9,889人に上ることが明らかにされました。※1
政府は、児童相談所への児童虐待相談対応件数が年々増加し、重篤な児童虐待事件も後を絶たないことを受け、児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議において抜本的な体制強化を図ることを決めました。
具体的には、①児童相談所および学校における子どもの緊急安全確認等、②要保護児童等の情報の取扱いについてや、児童相談所・学校・警察の連携についての新たなルールの設定、③児童相談所、市町村、学校および教育委員会の体制強化です。※2
また、第196回国会には児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が提出され、親権者らによる体罰の禁止が明記されています。
自治体による取組みも盛んで、東京都では、「東京都子供への虐待の防止等に関する条例」が2019年4月1日に施行され、保護者による体罰の禁止などが謳われています。※3
子どもの命を守るには何が必要か。
児童相談所では、弁護士と連携する動きが進んでいるそうです。
法律の知識を活かし、子どもと保護者とを引き離すべきかの見極めや、威圧的な保護者らへの対応などが期待されているためです。※4
弁護士など法律家によるアドバイスや指導などが常時受けられる体制を、一刻も早く整えることが望まれます。
このコラムを目にしていただいている皆さんのなかから、1人でも多くの方が法律家として子どもの命を守るために活躍してくださることを、切に切に願います。
詳しくは、
※1 児童虐待が疑われる事案に係る緊急点検
※2 「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」の更なる徹底・強化について(pdf)
※3 東京都子供への虐待の防止等条例 平成31年4月1日施行
※4 児相と弁護士、虐待対応で連携 職員責める保護者、対応に苦心
法曹を目指したきっかけや理由は、様々です。
今回は、働きながら司法試験に合格された皆さんが、どのような理由で法曹
資格の取得を目指されたのか、また、働きながら司法試験を目指す人たちへ
のメッセージをご紹介します。※1
法曹を目指したきっかけや理由は、様々です。
- 大手建設会社に勤務していたが、将来に対する漠然とした不安を覚えたことから退職し、司法試験を目指した。
- 公認会計士としてのキャリアを活かし、事業再生などに関する法律の専門職としてスキルアップを図りたいと思った。
- 福祉関係の仕事に携わっていた際、人権問題などに関心を持ち、職域を広げるために弁護士を志した。
- 医師として活躍していたが、医療過誤や患者とのトラブルなどについて考えていた際、事故に遭い業務を継続していくことが困難となったことから弁護士を目指した。
- 出産を機に、弁護士として子どもの貧困や教育問題について取り組みたいと思った。
法曹の魅力については、次のように述べられています。
- 決まった正解がなく、毎日が新鮮に感じる。
- 今までの仕事で得たスキルが役に立っており、それを活かしてキャリアアップをしていけば、さらに大きな舞台で仕事ができる。
- あらやる分野の知識や経験が役立つので、活躍できる場面は多い。
- 自由に仕事ができ、自分のやりたい仕事ができる。
また、省庁や自治体、鉄道会社、テレビ局勤務から弁護士になられた方、主婦、建築士から弁護士になられた方からは、以下のようなエールが送られています。※2
- 思い描いていたとおりの道、予想もしなかった道、様々な道が弁護士になった先には待っているが、自分を信じて頑張ってほしい。
- ゼロからのスタートでも、やってやれないことはなく、臆することはない。チャレンジあるのみ。
- 社会人としての知識や経験は、弁護士になった後、大きな武器になることは間違いない。
- 行動に移さなければ、キャリアを変えることはできない。
皆さん、弁護士の仕事にやりがいを感じ、刺激のある日々を過ごしていらっしゃる
ようです。
この時期、何か新しいことにチャレンジしてみたい、新たな一歩を踏み出してみた
いなどと考える方が多いのではないでしょうか。
今までの経験を活かし、さらなる専門性を身につけ、キャリアアップ・スキルアップ
を目指そうと思っていらっしゃる方は、ぜひ法曹資格の取得を考えてみてください。
<参照サイト>
※1 「働きながら合格できました!合格者からのメッセージ」
※2 「弁護士になろう8人のチャレンジ社会人編」(pdf)
「会社組織の一員」として
先日(2019年2月14日)、「弁護士の活動領域の拡大と進化~組織内弁護士のあり方を軸として~」と題するシンポジウムが、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」といいます)で催されました。
組織内弁護士には、企業内弁護士と任期付公務員などがあります。
「企業内弁護士」とは、企業の役員や従業員などとして職務を遂行している弁護士のことをいい、「任期付公務員」とは、中央省庁や地方公共団体において任期付きで採用された職員のことをいいます。※1
企業内弁護士数は、2014年6月時点の1,179人から、2018年6月時点では2,161人に増え、任期付公務員数も、2014年6月時点の151人から、2018年6月時点では207人に増加しています。※2
上記シンポジウムでは、介護関連企業の企業内弁護士として、あるいは地方自治体(西東京市)や外務省に任期付公務員として携わっている若手弁護士が、日々の業務の内容や弁護士として関わることの意義などについて語っていました。
地方自治体においては、その業務のすべてが仕事の対象となり、仕事は増える一方だそうです。
介護関連企業に企業内弁護士として勤務する方は、携わっている業務は、訴訟や情報セキュリティ、知的財産、契約など様々であること、企業内弁護士として大切なことは、上から目線や他人事として接するのではなく、「会社組織の一員」として認められることだと言います。
日弁連では、法律サービス展開本部が弁護士の活動領域の拡大について取り組んでお
り、任期付公務員に関しては、自治体などとの連携や任期付公務員の採用に関する説明会を実施したりしています。また、企業内弁護士に関しては、修習生などを対象としたセミナーや企業内弁護士を対象とした研修などを行っています。
当コラム「これからの日本企業に求められる法務機能」(2018年5月配信)において、今後は“守り”の法務から“攻め”の法務への転換が図られることが求められる状況にある旨述べました。
実際、上記シンポジウムでは、大手企業の執行役員であり法務部長を務める弁護士が、近年は現場での法的問題の対応にとどまらず、会社の運営や経営面への関与の度合いが明らかに強まっており、その傾向はますます強まっていく一途だと語られていました。ちなみにこの方は、当該企業に入社後弁護士資格を取得されたそうです。
組織内弁護士の活動領域は拡がりを見せており、皆さんにも活躍するチャンスが大いにあると思います。組織の一員として法務に携わる醍醐味を味わってみませんか。
※1 シンポジウム配付資料「資料編」16/84頁
※2 上掲「資料編」16/84頁。なお、2019年1月時点の企業内弁護士数は2,300人を超えているとのことです。また、そのうちの40%を女性が占めるそうです。企業内護士を採用する企業数は、2014年6月時点では619社だったのが、2018年6月には1,301社に上るようです(シンポジウムでの、日弁連法律サービス展開本部副本部長・伊東卓弁護士の発言)。
地域防災に技能生かせ
2018年の世相を表す漢字は、「災」でした。
「経験したことがない」「数十年に一度」「災害級の」といった言葉が冠せられた猛暑や豪雨、さらには大きな地震などの災害が日本列島を襲い、甚大な被害をもたらしたことは皆さんの記憶に残っていることと思います。
かつては「災害は忘れた頃にやって来る」と言われていましたが、もはや「災害は忘れる前にまたやって来る」時代になるとも言われています。※1
昨年、「気象予報士 地域防災に技能生かせ」と題する記事が、ある新聞に掲載されました。
気象予報士の合格者は累計で1万人を超えているが、せっかくの人材を十分に活用できているだろうかと疑問を投げかけています。※2
気象庁が気象予報士に対して実施したアンケート調査では、気象に関する業務に従事している旨の回答は、31%にとどまっているとのことです。※3
「忘れる前にまたやって来る」災害に立ち向かうには、気象予報のプロフェッションである気象予報士が、刻々と変化する気象状況を分析し、災害が発生する恐れのある地域住民の防災行動に結びつく的確な情報を提供することが、今まで以上に求められます。
一方で、大きな災害が発生すると、住宅の二重ローン、相続・遺言、工作物責任、相隣関係など様々な法律問題が生じることにもなります。
この点、法律家に期待される役割には大きいものがあります。※4
法律家として災害発生時に人々の生命・財産を守ることはもちろん、助かった人たちの生活や事業を再建し、未来に向けて一歩を踏み出してもらうために法的観点からのアドバイスや支援を行うことは、とても意義のあることだと思います。
また、気象予報士の方々が法律を学ぶことで、災害関係の法体系(避難勧告ほか各種のガイドラインなどを含む)の整備や運用に携わったりすることにより、知識や技能をより生かすことができ、活躍のフィールドが広がることにつながるのではないでしょうか。
法律家が、また気象予報士が法律家としても現場で自治体と連携して災害の発生を未然に防いだり、災害を最小限にとどめたりすることができれば、素晴らしいと思います。
すでに気象予報士の資格をお持ちの方、気象関係の業務に就いている方、また、災害に遭い途方に暮れている人たちに救いの手を差し伸べ、生活を支える力になりたいとの思いを抱いている方、法律を学んでみませんか。
伊藤塾は、そのような志のある人たちを応援します!
※1 木本昌秀「二〇一八年夏、異常気象時代への警笛」世界2018年12月号
※2 朝日新聞2018年10月23日付社説
※3 気象予報士現況調査結果の概要(平成25年度)(pdf)
※4 岡本正 『災害復興法学』、同 『災害復興法学Ⅱ』(慶應義塾大学出版会、2014年、2018年)参照。
~司法試験合格体験記より~
今年も伊藤塾で学ばれた多くの方々から、司法試験合格体験記が寄せられました。※1
今回は、「働きながら」合格された方から寄せられたメッセージのなかから、働きながら学習する際に工夫した点、学習方法のポイントなどを中心にご紹介したいと思います。
司法試験を目指された動機は様々ですが、これまでの経験を活かして貢献したいとの思いを抱く方が多いように見受けます。
例えば、公認会計士として税務関連の業務に携わるなかで法的判断が必要な場面に遭遇することがあり、よりよいサービスをクライアントに提供したいとの思いから法律の勉強を始めた方がいらっしゃいます。
また、中小企業に対する法整備やサポートが不十分なことを目の当たりにし、企業間や地域社会に活力と安心を与えたいために弁護士を目指したという方もいらっしゃいます。
社会人の方にとっては、“いかに効率的に学習するか”が大きなポイントとなります。
その1つ目は、学習時間の確保についてです。
社会人の方にとって、「いかに学習時間を確保するか」がハードルになると思われます。
この点、働きながら合格された方々は、共通して通勤時間や休憩時間、移動の時間などのスキマ時間を有効に活用されています。
例えば、
・テキストを常に携帯し、移動中や休憩中に復習した。
・移動中にスマホで講義をWeb受講した。
・出勤前の1~2時間を勉強時間に充てるとともに、通勤時間などのスキマ時間に短答の過去問を解いた。
・朝早起きをし、出勤前に飲食店で勉強をした。退社後は公共図書館などを利用して勉強をした(このような場所には、何かの資格の取得を目指して頑張っている人も多く、励みになったとのことです)。
など。
2つ目は、学習方法についてです。
ポイントは、伊藤塾の教材以外に手を広げすぎないということです。
講師の言うことを素直に信じて、そのとおりにし(覚えるように言われたところは覚える、マーカーを引くよう言われたところはマーカーを引く)、繰り返し講義を聴き、テキストを読むことです。
さらに、時間を有効に活用しなければならない社会人にとっては、仕事をするときは仕事に集中し、勉強をするときは勉強に集中するというように、メリハリを強く意識すること、そして継続することが大事であると合格者の方は口をそろえて語っています。
以上のように、合格体験記には、働きながら司法試験合格を目指すうえでの様々なヒントが散りばめられています。
ぜひ一度手にとってみてください。
伊藤塾のホームページでは、働きながら司法試験合格を目指す方への特集を組んでいます。
こちらもぜひご覧ください。 ※2
※1 「2018 司法試験合格体験記」
※2 「働きながら司法試験合格 - 到来!働きながら弁護士になれる時代!-」
2018年司法試験合格者のインタビュー(動画)や、
伊藤塾長「今こそ弁護士を目指す! ~働きながら挑戦するネクストステージ~」(動画)などを見ることができます。
①決して諦めないこと。
②夢を追いかけるのに年齢は関係ないこと。
③孤独な行為に見えても、必ずチームで動いていること。
ヒラリー・クリントン氏が、ドナルド・トランプ氏と争った2016年の大統領選を振り返り、感じたことなどを綴った『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』(髙山祥子訳、光文社、2018年)をパラパラと読んでいたら、とダイアナ・ナイアド氏のことが書かれていました。※
ダイアナ・ナイアド氏は、2013年、64歳の時にキューバからフロリダまでの約180キロメートルを50時間以上、一睡もせずに泳ぎ切りました。
フロリダ海峡はサメや毒クラゲが生息する危険な海域で、しかもメキシコ湾の流れは激しく、とても困難な挑戦だったようです。
偉業を成し遂げた際に彼女は、3つのことが大切だと言っています。
①決して諦めないこと。
②夢を追いかけるのに年齢は関係ないこと。
③孤独な行為に見えても、必ずチームで動いていること。
ヒラリー・クリントン氏は、「人生の指針にしたい言葉だ!」と称賛しています。
今年も、司法試験に合格された方からたくさんの体験記が寄せられました。
そのなかで多くの方が、最後まで諦めずにがんばったから合格することができたと語っています。
合格体験記をお送りいただいた皆さんに実施したアンケートにおいて「合格できた理由」を尋ねたところ、「最後まで諦めなかった」との回答が第1位となっています。
伊藤塾長は、いつも「最後まで諦めずにがんばれ。やればできる、必ずできる」と受験生の皆さんを励ましています。
合格された多くの方は、まさにこの言葉どおりに実践し、結果を出されています。
また、今年(2018年)の司法試験の最高年齢合格者は、68歳の方です。
ちなみに、2017年は71歳、2016年は66歳でした。
文字どおり、夢を追うのに遅すぎるということはないことを先輩方が証明してくださっています。
もっとも、夢を追うための勉強を代わってくれる人はいません。
最終的には、1人でやらなければならないことです。
時としてそれが、孤独と感じられることもあるでしょう。
しかし、必ず周りにあなたを応援し支えてくれる人がいるはずです。
前回のコラム「あなたを支えたいと思ってくれている人がいる」も、ぜひご参照ください。
皆さんも、何があろうと諦めず、周りの人を信じ、夢を追いかけ続けてもらいたいと思います。
※https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334962203
自分をより高めるために努力するというプロセス自体が価値である。
働きながら、またはサークルや学業と両立しながら司法試験に合格できるのだろうか、時間的な制約があるなかで勉強を続けていけるのだろうか、という漠然とした不安があるかもしれません。
前回ご紹介したミネルバ大学に通うある学生は、「誰にでも長所があれば短所もあり、そんな自分をより高めるために努力するというプロセス自体が価値である。すなわち、完璧でなくていい」と言います。
また、「家族や友人等周りにいる人たちは、あなたを支えたいと思ってくれている。すなわち、一人じゃない。些細なことでも積極的に人を頼ろう」と。※
毎年、予備試験や司法試験に合格された方々からたくさんの合格体験記が寄せられてきます。
体験記には、合格した今となって振り返ってみて思うこと(例えば、あきらめずに勉強を続けてきてよかった)や、今後の決意(このような法律家になりたい)などの思いも語られています。
そんななか、家族や友人などに感謝の意を表するコメントもしばし見受けられます。
「両親、友人、先輩方…の支えがあったからこそ」
「いつも立ち直らせてくれる家族のサポートのおかげでここまでたどり着けました」
「周りの友達に恵まれた」
など。
予備試験や司法試験に合格したのは、もちろん、最後まであきらめなかったご本人の努力の賜物です。
でも、勉強を続けてこられたのも、家族や友人など周りにいる人たちに支えられたことも大きかったといえるのではないでしょうか。
励まされたり協力してもらったりしたことがあったでしょうし、ときには迷惑をかけることもあったかもしれません。
「自分をより高めるために努力」している人に対して、やさしく手を差し伸べてくれたのです。
ある合格者は、「一人では夢は実現できません。周りの人への感謝の気持ちを忘れないでください」という言葉で結んでいます。
世の中に不安がない人なんていないと思います。
皆さんも、一歩下がって周りを見回してみてください。
「あなたを支えたいと思ってくれている」人たちがいるはずです。
伊藤塾も、「自分をより高めるために努力する」人を応援します。
法曹になって、困っている人を助けたいという強い志がある人は、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
※http://college.nikkei.co.jp/article/114414521.html
世の中に対して尽きることのない興味を持ち、学び続けることができる、未来の開拓者たち
「ミネルバ大学」をご存知でしょうか?
今や世界最難関の大学と言われています(2017年入試の対受験者比合格率は1.9%以下)。
世界各国から学生が集まり、留学生比率は、ハーバード大学が10%、オックスフォード大学が17%なのに対して、ミネルバ大学は75%と群を抜いています。
ミネルバ大学の学生は在学中に、ソウル、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドンなど7都市を巡ります。そして、都市ごとに設定されたテーマに基づき、どのように問題を解決していくかを学ぶのだそうです。
ミネルバ大学が求める学生像は、「世の中に対して尽きることのない興味を持ち、学び続けることができる、未来の開拓者たち」です。※
ミネルバ大学の学生は、知的バックグラウンドの異なる留学生たちとともに日々学ぶ中で、驚きや新たな発見に出会うことがあるでしょう。
また、世界の諸都市を訪れることで、世の中には様々な問題が存在することを改めて認識することにもなるでしょう。
学生たちは、前に立ちはだかった問題の中には法的な視点からのアプローチが必要であり、法的に解決することが何よりも求められているものもあることに気づかされるのではないかと思います。
皆さんにも同じことが言えるのではないでしょうか。
皆さんは、学生時代やその後社会人として数多の経験を積んでこられたことでしょう。
皆さんが直面した社会に生起する様々な問題の中で、法的に解決することが求められているものがあり、自身が解決に向けて取り組みたいと思われたことはありませんか?
「未来の開拓者」は、なにも学生ばかりではないと思います。
社会人である皆さんも「世の中に対して尽きることのない興味を持ち、学び続ける」意欲があれば、十分に「未来の開拓者」を目指す資格があると思います。
そんな皆さんを、伊藤塾は応援します!
※以上、http://college.nikkei.co.jp/article/100040118.html
金融関係、知的財産権、国際紛争解決の分野で
法学教室455(2018年8月)号が、「切り拓く法曹」と題した特集を組んでいます。※
金融関係、知的財産権、国際紛争解決の分野で、先例のない新たな領域を切り拓いて来られた3名の弁護士が、法律家という仕事の魅力や醍醐味等を語られています。
A弁護士は、主に金融取引や金融商品の新たな仕組みの設計に携わってこられています。
B弁護士は、特許権の国際並行訴訟という分野を切り拓いてこられ、現在では、アメリカの特許権に関する訴訟でも日本の裁判所で審理を行うことができるというのが通説的見解になっているようです。
C弁護士は、国境を跨ぐ訴訟・仲裁・調停等に関わってこられています。
座談会の中では、グローバルな案件においては、どの国で・どの権利が・どの程度強いのかなどの情報収集を行い、戦略を立てることの重要性が説かれています。
そして、そのようなコントロールタワー的な人材が、世界的に欠如しているとのことです。
今まで伊藤塾では、AIや宇宙ビジネス、スポーツビジネス等の分野における法律家に期待されることなどを取り上げてきました。
様々なバックグランドを有する皆さんが、これまでに得られた知識や経験を活かし、また新たに抱いた興味や関心をもとに、かつてあまり取り組まれてこなかった分野における先導者として、さらには未知の分野におけるパイオニアとして果敢に挑戦されることを期待します。
※ 以下、「Ⅰ 開拓者として」(10頁~)についてご紹介します。
▼法学教室2018年8月号の購入はこちら(Amazonへリンクします)
電子書籍版)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07G33DJ5J/itojuku-22/
雑誌版)
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法律の専門家として携わることの魅力
先日まで熱い戦いを繰り広げていた、サッカー・ワールドカップが終わりました。
来年はラグビー・ワールドカップが日本で開催され、2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、「東京2020」という)とスポーツのビッグイベントが続きます。※1
巨額の資金が投入されるスポーツは、様々な権利を生み出すビジネスとしての側面を有しています。
IOC(国際オリンピック委員会)主催のオリンピックでは、主催団体と開催都市、組織委員会等の間で契約が結ばれ、大会の運営、知的財産権、財務、メディア報道等について詳細な取り決めがなされています。
例えば、知的財産権に関しては、エンブレム、マスコット、ポスター、メダルなどが商標法・意匠法・著作権法等によって保護されることが謳われています。※2
オリンピック・パラリンピックにおいては、権利者の許諾を得ずに大会のロゴ等の知的財産を使用したり、大会のイメージを流用したりする「アンブッシュ・マーケティング」対策も重要になってきます。
このように、規模が大きなスポーツイベントでは権利関係が複雑かつ多岐に渡り、法的な対応を迫られる場面が多いと言えます。
また、プロスポーツの世界では、選手契約や移籍、代表選考の争い、ドーピング紛争、事故や不祥事の対応等についても問題になることがあります。
しかし、スポーツ分野を専門に扱う弁護士を多数抱える大手法律事務所が少なくない欧米と比べ、日本ではまだまだ不十分とされています。※3
今までスポーツをもっぱら観戦や実践の対象としてきた方も、ビジネスとして捉え、法律の専門家として携わることも十分魅力的なのではないでしょうか。※4
※1 東京2020の経済波及効果は、全国で約32兆円と試算されています
(「 東京2020大会開催に伴う経済波及効果(試算結果のまとめ)」平成29年4月、東京都オリンピック・パラリンピック準備局)
※2 東京2020の開催にあたって、「開催都市契約」が締結されています
( 「開催都市契約 第32回オリンピック競技大会(2020/東京)」)。
※3「五輪まで3年、『スポーツ法務』で弁護士走る」
※4 スポーツビジネスと法務について詳しく知りたい方は、例えば以下の文献をご覧になってみてください。
・「 特集 スポーツビジネスと知的財産権」ジュリスト1514(2018年1月)号
・ エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク編『スポーツ法務の最前線』(民事法研究会、2015年)
・法学セミナー9月号が「これからのスポーツ法」と題した特集を組み、スポーツ法が果たすべき機能、スポーツにおける現代的な問題、実務家の活動等の紹介がなされるようです。
「子どもの最善の利益」のために
「スクールロイヤー」をご存じでしょうか。
「 やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」のタイトルで放映されていましたので(NHKドラマ、2018年4月21日~全6回)、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。※1
「スクールロイヤー」とは、学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士です。※2
いじめ、体罰、事故、保護者とのトラブル、近隣とのトラブルなど学校で生じる問題について、学校だけでは適切に対応することが困難になってきています。
そこで、法律の専門家の立場からこれらを未然に防止したり、助言や指導を行ったりすることが期待されています。
東京では、港区が2007年度からスクールロイヤー制度を導入しており、21人の弁護士が40校の公立幼稚園・小中学校ごとに登録されているそうです。
校長や教員は、電話で弁護士と相談ができ、当事者同士の話し合いに同席を求めることもできるようです。
大阪では、2013年度にスクールロイヤー制度が導入されており、年間約100件の相談が寄せられているといいます。※3
2018年度からは、全国10か所でスクールロイヤー制度が導入されます。
スクールロイヤーは、子ども・保護者、学校・教育委員会をつなぐ調整役として、「子どもの最善の利益」のために取り組むことが求められます。
スクールロイヤー制度が機能し、発展していくためには、“法的思考と福祉的思考の掛け算”思考が必要であるとも言われています。※4
従来の弁護士像とは少し異なるところがあるかもしれませんが、これまでの枠にとらわれることなく、新たなフィールドで活躍できるチャンスです。
教育現場の実情に精通している方、学校教育に興味がある方、福祉関係の分野に関心がある方…。
救いの手を差し伸べてあげてください。
※1 http://www.nhk.or.jp/dodra/yakeben/
※2 「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」(日本弁護士連合会、2018年1月18日)
※3 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28540720U8A320C1CC0000/
※4 三木憲明「子どもの最善の利益のためのスクールロイヤー」法学セミナー2018年6月号
伊藤塾出身の学校問題で活躍されている先輩
「高橋知典弁護士」を取材しました。 >記事を読む
“守り”の法務から“攻め”の法務への転換
企業の国際競争力を強化する観点から日本企業の法務機能の在り方について議論を重ねてきた研究会が、報告書を取りまとめました。 ※1
企業法務というと、契約書をチェックしたり、社内で法的問題が発生した時に対応したり、場合によっては訴訟への対応やサポートをしたりすることなどが思い浮かぶのではないでしょうか。
報告書は、今後は、ビジネスのグローバル化がさらに進むとともに、IoTやビッグデータ、AI等のイノベーションが加速するなどにより、「法制度が整備されていない市場の創出・拡大が進んで」いることから、「これまで経験したことのない新たなリーガルイシューに対応する必要性が増してきている」と述べています(1-2頁)。
このような状況に鑑み、報告書は、これからの日本企業に求められる法務機能について、「リーガルリスクをただ回避するだけではなく、…経営と法務が一体となった戦略的経営を実現することが不可欠である」と述べて(40頁)、“守り”の法務から“攻め”の法務への転換を促しています。
伊藤塾のホームページには、「先輩実務家の声」として様々な現場で活躍されている、伊藤塾で学んでこられた弁護士等の方々のメッセージを掲載しています。
その中のお一人である吉田真実弁護士は、ヘルスケア関連企業の法務部に所属するインハウスロイヤーです。
吉田弁護士は、「法務やマーケティングといった部門間の枠を超え、最先端のプロジェクトの成功に向け議論をしながらやっていくことは、法律事務所では経験できないこと」だとインハウスロイヤーの魅力を語られています。 ※2
吉田弁護士は、頻繁に法改正がなされるなど、企業法務では新しいビジネスへの柔軟な対応が求められることから、「好奇心を持って、楽しく取り組めることができる方は、特に企業法務に向くと思う」とエールを送られます。
企業内弁護士数は2,104名、採用企業数は1,022社にのぼり(2018年1月現在)、年々増加傾向にあります。 ※3
「事業に対するリスペクトと好奇心を持ち、積極的に様々な業務と関わりを持とうとする」(前出報告書24頁)マインドを持った方は、インハウスロイヤーを選択肢の1つとして検討されてみてはいかがでしょうか。
法務の専門家として会社の経営にも積極的に関わり、重要な役割を果たすというダイナミックなお仕事ではないかと思います。
※1) 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(2018年4月、経済産業省)
※2) 吉田 真実先生 実務家インタビュー
※3) 法曹養成制度改革連絡協議会第9回協議会(2018年2月26日)日本弁護士連合会提出資料 1頁
多様なバック・グラウンドを持った法律家が多数輩出されることが求められている
2018年4月1日現在、日本の弁護士数は40,098名、そのうち女性は7,474名で、その占める割合は18.6%しかありません。※1
また、検察官数は1,964名で、うち女性の占める割合は23.5%となっており、裁判官数は2,775名で、うち女性の占める割合は26.2%(いずれも2017年3月31日現在)※2と弁護士よりはましですが、やはり低い数値であるといえるでしょう。
様々な問題が生起しかつ複雑化の様相を呈している現代社会においてはもちろん、ますますそのような傾向が強まるであろう近い将来においては、それらの問題を解決するために、多様なバック・グラウンドを持った法律家が多数輩出されることが求められていると思います。
その意味では、数多くの女性法律家が活躍する状況が望まれるところです。
最近、女性弁護士・検察官・裁判官を中心として、それぞれの立場から法律家を目指した理由、仕事のやりがいなどについて語られた、打越さく良・佐藤倫子編『司法の現場で働きたい!』(岩波ジュニア新書、2018年)が出版されました。※3
打越さく良弁護士は、「理不尽な仕打ちを受けた人々…とくに性差別を受けた女性に寄り添いたい」との思いから弁護士を目指し、DV被害者からの相談を数多く受けてこられました。
打越弁護士は、弁護団の事務局長として取り組んだ夫婦別姓訴訟(最大判平27.12.16)を通じて、男性と同数の女性が政治にも司法にも進出しないと性差別が放置されてしまうとつくづく思われたそうです。
本書では、検察官については、短時間勤務など育児や介護等に配慮した制度が設けられており、配置も家庭の事情に配慮がなされていることが紹介されています。
また、結婚して子育てをしている裁判官は大勢いること、裁判官は自分の裁量で仕事をするため休暇も取りやすく、勤務時間や手当など育児面ではかなり恵まれていることなどが述べられています。
弁護士だけではなく、検察官や裁判官にもぜひ目を向けてみてください。
本書のあとがきで打越弁護士は、寄せられた原稿を読んで、弁護士になりたいと憧れていた時の強い思いや、弁護士になりたての頃の緊張感・ワクワク感を思い出し、弁護士になってよかったと述懐されています。
このメルマガをご覧いただいている女性のみなさん、本書を一読されてみてはいかがでしょうか。
勉強に行き詰ったときなど、法律家を目指そうと決意した時の熱い思いを蘇らせるためや、将来像を描く際の素材になるのではないかと思います。
※1) https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/membership/about.html
※2)「弁護士白書2017」より。なお、検察官については副検事を、裁判官については簡裁判事補を除く。
※3) https://www.iwanami.co.jp/book/b352598.html
法律家がエンジニアや開発担当者と一緒になって、新たなビジネスを創っていく
前回(2018年2月20日)は「AIと法律家」と題して、AI時代に求められる法律家像等についてご紹介しました。
今回は、急速に広がりを見せている宇宙ビジネスと法律家への期待についてご紹介します。
現在、海外では1,000社を超えるベンチャー企業が存在し、宇宙から得られる地球上のビッグデータを用いた事業活動等を展開しています。
また、衛星のメンテナンスや宇宙ごみの除去、宇宙資源開発や宇宙観光等のビジネスへの挑戦も始まっているようです。
わが国においても、ベンチャー企業をはじめとする新規参入を促し、宇宙産業市場の振興を図ることの重要性が指摘されています。※1
宇宙ビジネス市場の活性化が期待される一方で、宇宙ビジネス特有の法的問題があることも指摘されています。例えば、ロケット打上げ契約や衛星契約においては特殊な問題があり、また、宇宙活動で損害が生じればその額は莫大なものとなるため、緻密な契約実務が求められるとされています。※2
宇宙ビジネスと法について造詣の深い小塚教授は、「宇宙ビジネスの分野は技術開発が先行して、問題が起きてから法律家に相談するというケースが多い」が、今後は「法律家がエンジニアや開発担当者と一緒になって、新たなビジネスを創っていく」ことを期待されています。※3
科学技術の発展に伴い、法律家の担う役割が増え、活躍するフィールドが広がるにつれ、法律家に求められるスキルも幅広く、また高度なものが要求されるようになります。
科学やテクノロジー、エンジニアリング等の分野の知識や経験を有する方々が、法律家への道を志してみるのも面白いのではないでしょうか。
※1)「宇宙産業ビジョン2030 第4次産業革命下の宇宙利用創造」(宇宙政策委員会 宇宙産業振興小委員会、2017年5月12日)31頁
※2)小塚荘一郎ほか鼎談「宇宙2法が開く宇宙ビジネス法務のフロンティア」(NBL1089
(2017年1月)号)11-12頁
※3) 小塚荘一郎「法律家が、新しい宇宙ビジネスを創っていく時」
AIの仕事、法律家の仕事
日本国内の601種類の職業について、人工知能(AI)やロボット等で代替される確率を試算したある研究によると、専門職的な業務でも、公認会計士や税理士は代替可能性が高いとされています(前者は85.9%、後者は92.5%)。
法律家の仕事もAIに取って代わられるのかというと、裁判官が11.7%、弁護士は1.4%と低い数値となっています(※1)。 AIが仕事を代替する時代が到来したとしても、リーガル・サービスに対する需要はなくなることはないでしょう。
もっとも、サービスの内容や提供方法は変容することが考えられます。
例えば、わが国においても、契約書の作成をAIが行うサービスが提供されており、弁護士の業務の一部をAIが代替している状況も見受けられます(※2)。
また、企業法務においては、AIの出した回答を参考としながら、数値化が困難な経営者の思いや哲学を共有し、経営理念の実現のためにサポートをしてくことも想定されています(※3)。
AIを味方に付けつつ、同時に自身のスキルも磨いていくことが求められるのだと思います。
AIやロボットの技術が発展・進化していく一方で、それらが惹き起こす法的問題が生じることも考えられます(※4)。
今後、ますます皆さんの力が必要となってきます。
※1)寺田知太ほか『誰が日本の労働力を支えるのか?』(東洋経済新報社、2017年)より。
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492762310/itojuku-22/
※2)https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_1213.html参照。なお、本サービスを立ち上げたのは弁護士であり、込み入った条文を検討する場合は弁護士に頼らざるを得ないことから、広く契約書を作成する文化が広がれば、弁護士の需要も増えると予測しています。
※3)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11205参照。
※4)「自動運転と民事責任」「ロボットによる手術と法的責任」等興味深いトピックスを扱った書籍が発行されるようです。弥永真生・宍戸常寿編『ロボット・AIと法』(有斐閣、2018年3月予定)。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641125964
生涯学習の選択肢に「法律」を
「人生100年時代」の到来が喧伝されています。
従来のような、高校・大学まで教育を受けた後に会社に就職し、定年を迎えて老後生活を送るといった単一のルートを皆が辿るのではなく、1人ひとりがそれぞれの人生を再設計しキャリア選択を行うことが求められるとされています。
そして、その際に重要なのが、生涯にわたる学習すなわち、「全ての人に開かれた教育機会の確保、何歳になっても学び直しができる」こと(リカレント教育)であると言われています。 参照:「人生100年時代構想会議中間報告」(平成29年12月)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinsei100nen/pdf/chukanhoukoku.pdf
これからの人生、皆さんはどのような「学び」のストーリーを描きますか?
教養として法的知識を身につける、専門的な法律の知識を身につけ業務にいかす、あるいは、少しハードルを上げて、弁護士等法曹の資格の取得を目指す…。
働きながら司法試験に合格された方が勉強を始めたきっかけには、様々なものがあります。
・「会社員として法務部門に勤務することが決まり、学生時代にはまじめに勉強していなかったこともあったので、これを機に、精緻な法的知識を身につけたいと考えた」(35歳、男性、会社員)
・「法学部出身で一度は公的機関に就職しましたが、ジェネラリストではなく、専門家としてキャリアを積みたいと思うようになり…」(29歳、男性、会社員)
・「学生時代、一度は法曹を志したものの、実質2年ほどで勉強をやめてしまいました。…旧司法試験受験時代私を応援し続けてくれていた祖父母が相次いで亡くなったことをきっかけに、本気で司法試験を目指そうと決意しました。その当時私は30歳を過ぎ…」(34歳、女性、無職)
社会人としていろいろな経験を積まれてきたことは、大いなる強みです。
弁護士等法曹として社会に生起する様々な問題・紛争を解決するにあたっては、その強みが必ずいきてきます。
さあ、皆さんも勉強を始めてみませんか。