【3】司法試験合格後の仕事概要
司法試験の勉強は、弁護士、裁判官、検察官といった「法曹三者」のほか、様々な選択肢が拡がっています。
まず弁護士、裁判官、検察官 「法曹三者」をご紹介します。
弁護士・裁判官・検察官になる
弁護士
ひとくちに弁護士といっても、刑事事件や少年事件、離婚、相続、交通事故の損害賠償などの身近な問題の相談のほか、企業法務(日常取引や倒産処理、債権回収、株主総会対策など)、渉外事件(国際取引など)、知的財産権(特許や著作権など)、金融法務、不動産法務など、さまざまな分野があります。また、近年では、企業内や官公庁、自治体の職員として働く弁護士(インハウスローヤー)も確実に増えています。つまり、弁護士は、司法の場のみならず、行政、政治の場で活躍することもできるのです。
司法試験合格者の増加に伴い、弁護士の就職難が取り沙汰されていますが、弁護士の活動領域の広さを考えれば悲観的になることはありません。時代の変遷とともに電子マネーや遺伝子工学、インターネットなど最先端技術の法律問題に明るい弁護士が求められてきたように、社会の変化がある限り、あらゆる場で弁護士の活躍が期待されるのです。
裁判官
裁判官は社会で生じる様々な紛争を、自分の良心と憲法・法律のみに基づいて判断していきます。 何ものにも左右されずに自分の考えだけで決断できるぶん、責任も重大ですが、やりがいのある仕事に間違いありません。 裁判員制度が始まり、市民の司法参加が声高に叫ばれており、裁判官の判断にはより注目が集まっています。
また、裁判官は外交官として外国の大使館に勤務したり、国のいわば“顧問弁護士”として各省庁で立法作業に携わったり法的アドバイスをしたりすることもあります。
検察官
検察官は社会正義の実現に向けて、刑事事件について捜査や裁判の維持を担当します。 「巨悪を眠らせない」などといわれることもありますが、小さな一つひとつの事件を通して正義を実現することも大切な仕事です。 もっとも、冤罪事件などを見てもわかるように、検察官の持つ強大な力は、誤って行使されれば重大な人権侵害へとつながってしまいます。被疑者、被告人そして被害者と、いわば社会的な弱者を相手に国家権力を行使するのですから、人権感覚に優れ、相手の気持ちを理解する、想像するということが非常に要求される仕事であるといえます。 また、検察官は外交官として外国の大使館に勤務したり、国のいわば“顧問弁護士”として各省庁で立法作業に携わったり法的アドバイスをしたりすることもあります。 検察官の活躍の場は刑事事件が中心ですが、それだけではないのです。
法律家以外の職業
さて、司法試験に合格したら、法律家にならなければいけないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。政治家にも実業家にもなれます。
特に学生の方の中には、何かやってみたいけど、まだ自分の適性もわからないし、自分が法律家に向いているかもわからない、という人もいるかもしれません。それはそれでいいと思います。難関と入っても、司法試験はいち資格試験なのです。受かった後、その勉強の過程ないしその先で、本当に自分のやりたいことを見つけるのもひとつの手です。必ず法律家にならなくてはいけないというわけではありません。重要なのは、「その資格を使って何をするか」です。
司法試験に合格すると、かなり職業選択の幅が広がります。自由度が大きくなるといってもよいでしょう。
弁護士、裁判官、検察官などの法律実務家はもとより、税理士や弁理士の資格も取れますし、政治家、実業家、企業の法務部、学者、公務員など、あらゆる形態の職業が選択できます。
今、日本の社会は各分野で、プロの法律家をこれまで以上に必要としているのです。
マスコミ、その他の分野でエキスパートになる
例えば、マスメディアの分野では人権問題、報道のあり方、著作権、日々起こる事件の解釈など、ありとあらゆる法律問題が起きています。これらをすべて、外部の弁護士にそのつど相談しているだけでは、迅速適切な判断ができませんし、社内にノウハウが蓄積しません。ニュースキャスターやコメンテーターは、日本中の視聴者に影響力のある発言をしますが、その時に法律的な素養があれば、また違った発言ができます。テレビに限らず、ジャーナリスト自身が法律を学び、それを道具として事件の真相に迫ったり報道したりすることは、その説得力という点においてだけでも大変に意味のあることです。また、社会の発展に伴い、従来想定されたことのない人権侵害が問題になっています。こうした分野では、先端技術に明るい法律家が必要とされています。さらに、特許などの知的財産権の分野では、特許関連の事件の多くが国際的な問題に発展し、企業に深刻なダメージを与えかねないことから、この分野における専門家が必要とされています。
司法試験合格は可能性を広げるライセンス
社会は今、あらゆる分野で法律専門家を求めています。 司法試験の勉強は、単に弁護士、裁判官、検察官といった「法律実務家」になるためだけでなく、「法律を使って何かをやりたい」と考えている方にとっても、大変に意味のあることなのです。 法律を学ぶことの意味の大きさを感じていただけたでしょうか。 世の中で本当に求められていることを、自分の力で実現していけることはすばらしいことです。 法律の勉強は、あなたの可能性を広げるライセンスです。ちょうど、自動車の運転免許を取ると、自分の行動範囲が広がって便利になるようなものです。また、これも運転免許と同じように、司法試験でも「資格を取って、何をするのか」が最も重要です。 身につけた法律知識を使って何をするか、それを一緒に考えていきましょう。焦る必要はありません。 合格するまでの勉強や合格してからの経験を通じて、ゆっくり考えていっても決して遅くはないのです。