伊藤塾長に学んだ憲法の素晴らしさに感動、伊藤塾長との出会いが人権との出会い
土井香苗先生
国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 1996年 司法試験合格 1998年 アフリカ・エリトリアで法律改正委員会調査員として刑法に関するリサーチ作業に携わる 2000年 弁護士登録 2007年 ニューヨーク大学(NYU)ロースクール修了 2007年 アメリカ弁護士資格取得 2009年 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 東京事務所を開設 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
弁護士から政策を変える仕事のプロに
実は、日本の弁護士登録をこの前に止めてしまっているのです。
アメリカの法曹資格は、そのままなのですけれどね。
法律の仕事はしています。ただ、依頼者をとって法廷に行くという仕事をしていないという風にお考えいただいた方が良いかもしれせんね。
現在は、国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下HRW)」の日本代表の仕事をしています。
今までは、弁護士として個人個人を代理していましたが、現在は人権の被害者をグループとして代弁し、また、政策自体を変えることによって多くの人たちの救済に役立つということを目指しています。
方法はちがうのですが、人権を守るという意味では、弁護士と同じです。
日本では、人権のために政策を変えるということをフルタイムの仕事としている人は、あまりいません。そのため大変重要な分野の活動で、誰かがしなくてはいけない仕事だと思っています。
政策を変えることを仕事にするプロになれたということに、やりがいを感じています。
伊藤真塾長との出会いが人権との出会い
実は、法律というと心躍るというタイプではなかったのですが、法律がおもしろいと思ったのは伊藤塾長の講義からです。
目からうろこが落ち、憲法ってすばらしいと思いましたね。
法律は憲法も含め個人を拘束するうざったいものとなんとなく思っていたのですが、憲法が個人を守り、国家を縛るという立憲主義の考え方に驚きました。
こんなにすばらしいものを日本がもっていたことに、ブルブルって震えました。
人権との出会いは、伊藤塾長との出会いで、人権活動をするようになったのも、伊藤塾長のおかげといえるかもしれません。
法律の学習では、憲法は特に楽しかったのですが、他の法律科目も伊藤塾長オンリーですね。
そして、司法試験に合格してからは、実務家の方にお会いする機会も増えて、日本国内の社会問題や難民などの国際的な問題も含めて、法律家が活躍していることを実感できたので、弁護士が社会のために役に立つ仕事であるのであればと思い、この道に進みました。
国際NGO HRWは、国際人権裁判所のようなものなのです。
HRWの仕事は、国際法とくに国際人権法をつかって世界中の人権状況を改善するというものです。
人権問題の事実認定・法適用・改善のための提案を報告書という形でまとめることが多いのですが、世界90カ国において、年間150冊くらい発行しています。2日か3日に一冊くらいの比較的速いペースです。
報告書の一番の柱は調査ですね。何ヶ月もの調査の上で事実を認定して報告書を作成します。報告書は、裁判における判決のようなものです。調査をして証拠をひっぱってきて、事実を認定し、そこに国際法をあてはめて、状況を改善するための提案をします。この一連の仕事は、言って見れば、国際人権裁判所のようなものと私は思っています。
そのためHRWのスタッフは、法律家が多く、世界中で400人くらいのスタッフのうち半分以上が法律家です。前職が私のように弁護士という以外にも裁判官、検察官出身の方もいます。
HRWの活動が日本政府を動かす!
日本の人権状況は全世界約190カ国の中では、良いほうですが、日本に関しては私自身、これまで2つの調査報告書を発表しました。
1つは、日本の学校におけるLGBT(性的マイノリティー)の現状調査をした上で国際人権法に照らして日本の政策を批判したものです。『出る杭は打たれる』というタイトルの報告書で、2016年5月に発行しました。
もう1つは、日本における社会的養護下の子どもたちの現状調査をし、報告をしたもので、『夢がもてない』というタイトルになります。
社会的養護とは、児童養護施設、乳児院、里親、養子縁組などの産みの親と暮らすことができない子どもたちの養育のことで、その子どもは約4万人にのぼります。実は、この分野は、日本は世界的にとても遅れていたため、子どもの権利条約を中心に関連する条約などに照らし、その現状を検証したというものになります。そして、社会的養護下の子どもたちに関する提言の多くが、政府にも受け入れられ、2016年に児童福祉法が大きく改正をされるにいたりました。これからは政策の具体的な実現のためにモニタリングをしていく必要がありますが、提案から2年の短期間で法改正の実現はとても画期的でした。
「私って、もってる!」って少し思いましたね。
実現へのポイントはあらゆる手を打っておくです。そして、自分が希望を失わないことと、周りの人にも希望を失わせないことです。一般的な目から見ると困難で とても無理であると思えることがありますが、そこで希望を失ってはいけません。おしまいになってしまいます。モメンタムが失われないように、そして機会を 逃さないことも大切です。
HRW日本代表としての仕事
HRWの仕事は3つにわけると、①リサーチ(調査)、②アドボケイト(政策ロビイング活動)、③資金調達となります。
私は、アドボケイトの分野を主に担当し、国会議員や省庁・官僚へ政策を提言するロビー活動をしています。日本の問題を日本の政府に提言するはもちろんですが、世界の問題を日本政府に届ける点も重要です。とはいっても、国会議員の皆さんとお話をすれば政策や方針が変わるような単純なものではもちろんありません。私たちの主張を支える世論を形成する必要があります。そのため、メディアの方へのアウトリーチをしていったりとか、さまざまなNGOや専門家の方とも共同して行動をしたりします。
また、日本国内だけでなく、会合などのために海外に行くことも多いですね。
NGOでの活動は、法律家の仕事と親しむのです。
世界的には、NGOの人材は、法律家人材の一定の割合を占め大きなシェアとなっています。パブリック・インタレストの分野では、NGO以外でも、政府、国連をはじめとする国際機関、コンサルタントのような私企業もあります。そのような中で仕事を得るには、専門性がないと一本立ちが難しいですかね。その意味ではジェネラリストではなく、スペシャリストであることが、まずは必要ですね。
そして、人権をテーマにした場合は、調査、検証、政策の提言、ロビイング活動などを行うために、法律家であることが非常に重要ですね。
アメリカにいる私の上司も法律家ですが、採用のときは法律家であることが内々には必須条件と考えることも多いようですね。
それは、人権活動の拠り所となる国際人権法の理解のためには法律の素養が必要ですし、そもそも、すべての事象はまずは、国内で発生しますので、国内法の特に刑事訴訟法、そして憲法の理解が必要です。
また、国連でも、事実と法律で議論をしていきます。
法律家以外では、証拠を集め事実を認定してくのは、調査報道の経験のあるジャーナリストが長けていると思います。
日本では、政策に関わる法律家が少ないのです。
人権の分野は、国際的にも、国内的にも法律が必須の分野です。
法律改正にむけてロビイングをするNGOには、法律家はまだ少ないですね。国を動かす、世界を動かすには、法が柱となります。
そして、国会議員は、優秀な方が多いのですが、法律を専門的に分かっている方は少なく、国会は、法律を作る場ですからもっと弁護士、裁判官、検事も含めて法律家が活躍していく分野と思います。地方議員も同様です。もちろんNGOもですね。
人権活動に向いているタイプ
人権活動のムーブメントを率いていくということでは、人権についての思いのほか、リーダーシップも求められるでしょう。人権活動では、「お金」、「武力」、「権力」というものはありません。人々を巻き込んで、理想を共有し、そして実行してくことになります。
NYでの生活、ロースクールからHRW本部へ
ニューヨーク大学のロースクールのインターナショナルリーガルスタディーズというコースを卒業しました。
講義は、国際人権法、国際経済法などの他、個人的興味でアメリカ国内法も少し勉強しました。
アメリカに留学したのは、友達の多くが国内の4大法律事務所に行ったりしたこともあり、負けたくない気持ちもありました。
当時は、とても勉強しましたね。
その後、HRWのアメリカ本部に、フェロー職で入りました。日本の外務省に対し働きかけ、日本の外交政策の中での人権のプライオリティを上げ、世界の人権問題の解決のために日本の政府が役立つようになることを目的に活動していました。
行動力の原点は、やりたいことをやる。
大学3年生で司法試験合格、大学4年生の時にはアフリカに司法ボランティア、その後にニューヨーク大学ロースクール留学など行動力があると思われることがあります。
行動力の原点は、やりたいことをやるに尽きると思います。心に嘘はつかないで生きていくことです。私も興味がないことは全くだめなんですね。でも、誰でもやりたいことは、やりますよね。
今の道に進むときも、人権活動では、生活していけないと、色々な方が、止めたほうが良い理由をたくさん言ってくれました。しかし、最後は、「自分のことなので、自分に聞いて、自分で決める」です。そして、正しいと思ったことは、それを信じ、そして発信をしていけば、人間は変わると思います。
行動力は、自分を奮い立たせることも重要ですが、やりたいことは何なのかということを自分と対話し、そして自分に素直に生きていくことが大事かな、と思います。
・・・でも、英語は、大変ですね。自分が帰国子女でないことを嘆いてもしかたがないので、頑張るしかない。私は好きなことでないと長くコツコツができないタイプ なのですが、実は英語は勉強を始めた当初は好きな教科ではありませんでした。
ただ、単なる勉強ではなく、人権のために必要だとわかり、今も好きではありませんが、必要だから頑張ってやっています。
司法試験の合格後にアフリカに行く際には、高校時代の英単語を読み返すところからはじめました。それからコツコツ続けて、現在のレベルです。
人間コツコツやれば、ある程度はできるんだということを感じています。
これからの私のビジョンは日本がリーダーシップを発揮できる国にすること。
国際問題からいうと、日本が、国連の場や多国間で人権のリーダーシップをとれる国になって欲しいと思っています。
たとえば、人権条約、基準、イニシアチブなどは、国連やその他の場でつくられていますが、日本が主導しているということは、北朝鮮問題を除きあまりありません。日本は、これだけの大国、しかも民主主義国ですから、民主主義大国に応じたリーダーシップをとるべきです。そのための、働きかけとアイディアの提案をしています。
実は、多くの人権条約・基準は、NGOがドラフト、ネゴシエイトなどの面で、各国政府のためにお膳立てをしています。そのうえに国が乗り、世界でリーダシップを取っているのが人権条約の実態なのです。日本も政治的リーダーシップさえあれば、十分できることです。
そして、国内活動では、各人権問題について、他のNGOとうまく協働しながら、インパクトがどれだけ出せるか、いつも考えています。
これから人権活動を目指す方へのメッセージ。
もし、人権分野に興味があれは、法律は人権活動になくてはならない武器になります。法律を武器にして救える人々、変えられる社会というのはとてもポテンシャルがあるので、是非、頑張っていただきたいと思っています。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)東京事務所
■事務所プロフィール
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、1978年に成立をした世界をリードする国際人権NGO(非政府組織)。
戦時平時をとわず人権侵害を止め、すべての人の尊厳をまもることをミッションとした世界最大級の国際人権NGO。設立以来30年以上にわたり、世界90カ国で人権状況をモニタリングし続けている。
東京事務所は、世界各地で続く人権侵害を止めるため、主に日本政府の外交政策・実務をより人権重視の内容にするため、アドボカシー(政策提言)を行うことなどを目的として2009年に設立。
現在は国内人権問題にも注力している。
■事務所連絡先(私書箱)
〒107-0052
東京都港区赤坂2-5-8
赤坂258ビル 1F MBE704
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