アート・ファッション、好きなことを仕事の強みにできるのが弁護士です。
小松隼也先生
弁護士 長島・大野・常松法律事務所(東京)
同志社大学法学部卒業
2009年弁護士登録
Fordham University School of Law卒業(LL.M.)
企業法務や訴訟を中心に幅広く活躍。また、アート、ファッション等芸術分野にも造詣が深く、日本におけるアート法務の第一人者として知られている。
※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。
企業法務の仕事
私の所属する事務所は、企業法務がメインではありますが、紛争解決や不祥事、危機管理対応、国際仲裁と多ジャンルに亘って興味を持つ人が集まっています。私は訴訟チームということもあり、紛争解決を担当することが多いです。昨今では、企業間同士の経営権争いや企業にとって非常に重要な知的財産権の紛争など企業にとって大きなポイントとなる訴訟を担当させて頂いています。最高裁の大法廷に赴いたこともあります。
アート分野への興味を具体化
弁護士を目指す前から、写真や美術のスキルを持っていました。ファッションやアパレル分野も好きだったので、弁護士であっても何か関わりたいという思いはありました。私の事務所ではほとんどの弁護士が留学をします。私も本場の訴訟を経験し勉強することと併せて、アート・ファッション・デザイン・建築という分野の専門性を高めるためにニューヨークで2年間学びました。その後は専門性を高めていくにつれてクライアントが徐々に増え、今に至ります。留学する前はどの分野にも対応できるジェネラリストでした。留学のタイミングで、法律とはまた違ったアート業界のルールを学び、それまで培ったジェネラリストとしての経験を掛け合わせることにより、好きな専門分野で仕事をしていくことに行き着いています。
弁護士になってから写真の専門学校へ通う
弁護士になってから1年半写真の専門学校へ通いました。水曜の夜と土日はフルで週3回です。照明の作り方など実技を中心に学びました。ライティングといって、撮影するときに照明をどう当てるかとか、ライトの組み方から、撮影スタジオの壁を塗ったり、モデルさんの位置調整をしたり、光の強弱を測ったりと1年半やっていました。もともと写真家になりたかったというのはありましたが、写真業界にも取引など様々な問題があるので、私は写真家をサポートする弁護士のような写真業界が一つ次のステップにいくための仕事に興味がありました。コレクターと弁護士という二つの立場で関わりあいたいなと思いました。
アートローという分野を立ち上げる
エンターテインメントの仕事をしたいという思いはありましたが、それを専門にやっている事務所はあまりありません。自分が第一人者になればクライアントは来るだろうという発想がありました。最初の2.3年は完全にボランティアとして、睡眠時間を削って文化庁のお手伝いをさせて頂いたり、海外の法律や税制を調べたり、コネクションを作ったりしました。業界に関して一番詳しい立場の人間になってからアートローという分野を立ち上げようと考えていました。
フォーダムロースクールへの留学
フォーダムロースクールを選んだ理由は、副専攻にファッションとアート、デザインがあったことです。世界のロースクールの中でここにしかありませんので迷わず決めました。ニューヨークでは、実体験を伴った生活を送ることができました。海外の方たちの文化だとは思いますが、老若問わず、職業も様々な人々が集う会が行われます。そこでは情報交換や仕事に繋がるような話もあり、そういった環境を体験できたことが非常に有益だったと思います。ロースクールを卒業した後の約半年間、教授のところで鞄持ちみたいな形で武者修行させて頂きました。実務を横で見させて頂いたという感じです。
帰国してから、交渉系の仕事をやりやすくなったと感じています。ニューヨークは交渉の世界なので口頭で交渉をするスキルが上がりました。英語を普通に使えるようになったことも大きいです。アート・ファッション・デザイン・建築という面では、日本で未だ誰も知らない話や事例を紹介でき、新しい依頼者の方と仕事をさせて頂くきっかけにもなりました。
アートローと弁護士
アメリカのアートローは日本と比べてやはり進んでいます。アートが一つの産業として非常に大きい市場ですし、IT企業の社長などはアートが好きなのでビジネスとも深く関与しています。取引の中で紛争が生じてしまうことは避けられませんし、作品を使った投資・融資もあったり、美術館に寄付する際には税制が変わったりといかなる面でも弁護士が関係してきます。昔は絵と写真だけでしたが、今は映像作品もあるので、その権利関係はどうするのか、保存はどうするのかという問題が生じます。他人の作品を意図的に流用するオマージュとかパロディに関して、例えばオマージュ作品が一つ1億円で売れて、元の作品は数万円でしか売れないような状況で、元の作家さんにはどういった権利があるのかという裁判をやっています。それが著作権という分野の柱になる裁判例として後世に語り継がれていくのです。これがアートだけでなく、ファッションや音楽など全てのジャンルに適用されていくので、波及効果は非常に大きいです。私はアートの専門として勉強に行ったのですが、それとは別に知的財産法、所謂著作権法の授業も取っていました。意外に面白かったのは、著作権法の授業の8割が現代美術の話であったことです。それほど影響力をもっているのがニューヨークのアート市場です。
ファッションローの世界
ファッションローでは、ファッション産業で問題となる法律全てを扱うのですが、最もイメージしやすいのは模倣品対策でしょう。昔はファッションショーにはメディアと限られたセレブしか行くことができませんでしたが、今は世界中に同時中継されて誰でもインターネットで見られる時代になり、ロゴやデザインは3Dプリンターなどを用いてすぐにコピーできてしまいます。模倣品を禁止するのか許可するのか、法律次第で国の産業は変わります。一つ面白い例を挙げましょう。ニューヨークはデザインを一切保護しないことで、安いファストファッションが非常に強くなり、高級ブランドは勢いを失っています。一方フランスはその逆です。高級ファッションの影響力が強いので、そこを保護することで、デザインをコピーして出す産業というのは厳しく制約されています。ファッション業界では国際取引が日常茶飯事なので、契約交渉や代金の支払い、返品の取り決めの交渉をしたり、モデルさんの肖像権やプライバシーの権利、デザイナーのヘッドハンティングに関する損害賠償請求、企業買収であったりが起きた場合にいかに紛争解決をしていくのかというのがファッションローだと思います。産業ごとに考えていくということです。日本ではこの発想はほとんどありませんが、アメリカはそういった発想が強いです。
さまざまな分野への著作権法の波及
私が留学している時に、東京オリンピックのロゴの問題がニュースになっていましたが、これはまさに著作権法の話です。弁護士がどうやってリテラシーを出していくかというのはこれから必要になってくると思います。
例えば、インスタグラムに誰かが載せた写真を、勝手に印刷して売っている人達がいたとします。しかし、実は印刷した人がとても有名な作家さんで、彼が印刷したことによって、作品が一千万、二千万になったとして、元の人からすると、権利関係がおかしいのではないかという問題が出てきます。音楽も全く同様の話で、全てに波及するため、創作活動全てに関わる法律という点で一つ大きい意味を持っていると思います。
権利関係が複雑になる中では、注目されていく分野だと思います。今は人工知能の分野でも著作権法がとても重要になってきています。人工知能は情報を収集して解析して吐き出しますが、収集・解析の過程で著作権法が絡んできます。収集される情報には写真や文章、映像も入っているからです。著作権法でどうやって対処するのか、現代美術や音楽市場で問題となった裁判や法律は、実は人工知能にも影響を与えるなど、相関関係があるので様々な分野に波及します。
法改正活動の可能性
留学したり、業界に深く関わったりして気づいたことで最も弁護士に対応性があるなと思ったのは法改正の活動です。これは未だ弁護士の中でも一般的ではないと思います。文化庁や経済産業省など特定の業界に対してどういったアクションをとるか、どういった法律を作るか、といったところにも関わっていくので、どういった産業・国の指針を作るか、弁護士が非常に深く関われることに気づきました。ニューヨークなどにはそれを専門にしている弁護士がいるのですが、日本には未だそのような弁護士はいません。実際にやらせて頂いて法改正に繋がった事例もありましたし、現場の方たちから「自分たちの産業を前進させるサポートをしてくれる弁護士さんがいるのはとても嬉しい。新しい道を切り拓けた。」といった声を頂きました。そういった仕事をしていると、面白いことや新しいことをやろうとするクライアントからの依頼も増えて弁護士業としても潤っていきます。今で言えば人工知能やドローン、フィンテック、仮想通貨など新しい分野が数多くあります。それらに対する法律が無い中でいかに規制するかを国や政治家の方たちが話されているところに入り、海外の実情や有力者の見解などを伝える場面で弁護士が関わることは十分に可能性があります。これから始まる新しい分野の先駆者になれるという意味で非常に楽しいと思います。もちろん三権分立の形はありますが、今後法律を作るところから弁護士が関われるような変化があり得ると思います。そこをやっていく面白さというものもあります。
地方の活動に関わる
現在私が積極的に行っている活動で、地方の条例を緩くして実証実験をする動きが出てきています。東京や海外の企業を誘致し、例えば場所を限定してドローンや相乗りタクシーを許可するなど、少し条例を変えることで実験可能となっている場所があります。そこで結果を出して、次はそれを日本中に普及させる法律をどう作るか、どれだけの産業効果があるのかを試す場所を提供する地方があり、そこに人や技術を置くことで地方の強みを持たせていこうという活動があります。こういった活動には弁護士があまり入ってきませんでしたが、これからは弁護士が関わる可能性があると思います。そこであがった成果物を地方が使うのか企業が使うのか、オープンソースになるのかは法律の世界の話ですし契約です。そのシステム作りに弁護士が入ってくると面白くなると思います。
やりたい分野を見つけること
これらの対応性は弁護士であるからこそ広がっていくものです。ニューヨークでは弁護士が会社を経営していることも多々あります。実際に私も株主になっている会社や取締役になろうとしている会社があり、社会的活動を行う社団法人の理事にもなっています。それは地方創生や文化活動、ファッションなど様々な分野です。そういった活動に積極的に関わっていくという意味でも、まずは基礎を積み上げることがポイントです。どの分野で仕事をしたいかというのは、最初から決まっている必要は全くありません。私の場合はもともと興味のある分野ではありましたが、10年という歳月の中で少しずつ方向性が決まっていきました。大きな事務所には、多様な分野にチャレンジできる環境があり、各分野の専門家が数多くいますので、視野の広さを養ったり自分のやりたい分野を見つけたりしやすいという良さがあります。
弁護士のやりがい
依頼者が困っているのをサポートして、助かりましたと喜んでくれるときです。あとは法改正を担当して、その担当した業界が次のステップにいくというのもやりがいを感じますし、あとは訴訟で勝ったときは嬉しいです。でもやはり一番は訴訟の中で、自分が突き詰めた論理で出した証拠が裁判所に認められ、訴訟に勝利し、依頼者に喜んで頂くというところにやりがいを感じます。
法律家に向いている人
論理を使って仕事をするので、論理的な仕事が好きな人に向いているのは間違いないでしょう。言われたことを正確にやるというよりは、自分の頭で考え、自分で道筋を見出せる人が向いていると思います。依頼者あっての仕事なので、急な依頼や徹夜で対応しなければならないこともあり、ハードな側面もあります。そういった時に体力があったほうがいいのは間違いないですね。とはいうものの個人事業主ですので、自分自身でスケジュールを組み立て、休むときはしっかり休むことができます。
伊藤塾で学ぶことと実務のリンク
大前提にある論理というものが分かっていなければ、どんなに見せ方が上手くても、証拠があっても意味がありません。論証パターンを徹底的に覚え、アウトプットするというのは、弁護士になってからも同じようなことをやっていると感じます。先ず、論理の部分を幅広く知っていて、どれを使うかというのを選んだ上で、そこから弁護士の実力がでてくるかなと思います。伊藤塾でやっていたことと同じ事を今やっているという印象があります。
今後のビジョン
法律をどう作っていくか、国としてどうその産業を支えていくかという点に関わりたいという思いがあります。そこに弁護士の新たなフィールドがあると思いますし、推し進めたいと思っています。それともう一つ、経営にもタッチしたいと考えています。弁護士をやって強く思ったのは、事務所にいて相談に乗っているだけでは分からないところ、依頼者の気持ちが分からないときがあることです。自分が経営当事者としての立場に立つことによって解決策が思いつくこともあるのではないかと思います。もしかすると全く新しいアイデアが生まれたり、法律を作る・変える必要性に気づけたりするのではないかという点でも、経営者になることに興味があります。
法律家を目指す方へのメッセージ
私自身も学生当時、法律家は法律を使って何か仕事をするというイメージがありました。しかし、法律を使うだけでなく、法律をどう作って、その法律がいかに社会に影響力を与えられるかなど、法律家として法律と付き合っていく形は幅広くなってきていると思います。分野も無限に広がっています。法律家であることは全ての分野において専門家であると思うので、本当に楽しみがいもやりがいもある仕事だと思います。
長島・大野・常松法律事務所
■事務所プロフィール
長島・大野・常松法律事務所は、国内外での豊富な経験・実績を有する日本有数の総合法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題に対処するため、複数の弁護士が協力して質の高いサービスを提供することを基本理念としています。
■事務所住所
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