「先生がそう言うなら、それで十分です。」と納得して貰える弁護士を目指して
小林哲也先生
千葉県立東葛飾高等学校卒業
立教大学経済学部経営学科卒業
民間企業にてシステムエンジニアとして勤務
大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程を修了
永田町で参議院議員や衆議院議員の政策担当秘書として勤務
国際協力NGOの現地駐在代表としてミャンマーの中部乾燥地域で勤務
平成25年 司法試験合格
平成27年 北総こばやし法律事務所を開設
※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。
空白地帯にリーガルサービスを提供する必要性
弁護士を目指そうと思った大きなきっかけになったのは、地方でいわゆる落下傘候補として政治活動をしていた時の出来事でした。
当時、ある国会議員の政策秘書を務めていたのですが、地元に候補者がいないということで議員から「お前やってみるか?」と言われ、縁もゆかりもない日本海側のとある地域に党の支部長として赴任し、支持拡大のために日々あちこち回って地道な活動をしていました。
その時、市民の方々から法律の相談を受けることが大変多かったのです。人口が10万人を超えるエリアでしたが、当時、日弁連が推進していたひまわり基金事務所がまだ一つ二つあるかないかの状態で、医者ならおそらく100人以上いるような地域ですので、弁護士の数が少な過ぎたのだと思います。
このため、大変残念なことですが「弁護士は敷居が高く気軽に相談できない」という風に思われていたようで、「こばちゃん、ちょっと聞いてよ」みたいな感じで受ける相談の中には、弁護士が対応すべき法律問題が数多くありました。そうした相談を受ける度に、やはりリーガルサービスというのはまだまだ地方の隅々には届いてないと感じるとともに、何の力にもなれない自分の無力さを痛感しました。
残念ながらその後の選挙で落選したこともあり、政治の仕事は一度やめて弁護士になり、司法過疎の地域でリーガルサービスを身近な存在として提供する仕事をしていきたいと思ったのが大きなきっかけです。
細切れの時間を有効活用し無駄を排除
働きながら勉強する上で工夫した点ですが、学習開始当初の頃は、とにかく塾の講義をDVDで観るのが精一杯だったので、正直あまり工夫できませんでした。
その後、当時の新司法試験制度が始まり、私も法科大学院に進学したのですが、働きながら夜間のロースクールに通っていましたので、そのときはもう細切れの時間を無駄にしないことをとにかく意識し、電車の中でも講義を聴くとか、択一の過去問はPDFデータにしていつでもスマホで見ることができる形にするなど、色々工夫しました。大きい本だと朝の混雑した電車の中では開けないので、通勤ラッシュの電車で立っていても問題を解けるようにしたのです。とにかく5分10分の時間、細切れの時間をできる限り有効に使うことに気を付けていました。
職場に恵まれており、当時の上司がとても理解のある方でした。上司も昔司法試験を受けていたので、「俺の分まで頑張ってくれよ」と言って、夜間のローなので19時頃から授業がスタートするのですが、それに間に合うように快く送り出してくれました。勿論、融通を利かせてくれた分、こちらもちゃんと仕事をしなければいけないので、授業の後に職場に戻ってまた仕事をすること、仕事の質と量を落とさないようにすること、期限に遅れないようにすることなどには当然気を使いました。ただ、ロースクールはとにかく授業に出席しなければならないので、物理的にどうしても拘束されるのですが、それに関しては非常に融通を利かせてもらいました。その点は本当に感謝しています。残業とかもありましたが、毎日深夜遅くまでということはなく、土日は休みをとれました。
この試験は、余計なことをやり出したら、どんなに時間を使っても受からないと思います。本当に必要な、試験に求められているクオリティのインプットとアウトプットだけを身に付けることが合格への早道です。もちろん人間のやることですから、100%必要なものだけを効率的にというのはなかなか難しく、色々無駄をしてしまうのは避けられません。実際、私もそれで遠回りをしました(3回目の合格です)。しかし、だからこそ振り返って断言できるのですが、合格に必要なことだけをやるなら、勿論ある程度の量の時間は必要ですが、働きながらでは無理ということは絶対ないと思います。むしろ無駄な時間をどれだけ作らないか、無駄な勉強をしないか、そこにどれだけ意識が及ぶか、気を配れるかが大切です。必要な時間を必要な勉強に割ければ、社会人でも十分に合格できる試験だと思います。
即独立開業に踏み切った理由
私は司法修習を受けた後、すぐに独立開業しました。最初は2~3年いわゆるイソ弁として働いてから、とも思っていたのですが、合格に少し時間がかかり年齢が高くなってしまったことやその間に結婚したこともあり、また実際に即独の先輩の話を聞く機会が何回もあり、即独でも十分にやっていけるというアドバイスを頂き、方針転換しました。
事件処理で一番大事なのは、分からないことをそのまま一人で抱え込まないことです。その点、当時即独した弁護士の集まりみたいなものがあって、その先輩弁護士の先生方が本当によく面倒見てくれました。「分からないことがあればいつでも俺らに聞けばいい。ボス弁に聞くか俺らに聞くかの違いだけだから。」と、嫌な顔一つせず、いつも丁寧なアドバイスをくれたのです。
きちんとアドバイスを貰える先輩弁護士がいて、独りよがりで間違った事件処理をしないようにするシステムさえ作れれば、致命的なミスをする可能性はかなり減らすことができます。それなら即独でも十分にやっていけると考えました。逆に、せっかくお世話になった事務所を2年位で辞めることでボス弁に迷惑をかけるのも嫌でしたので、最終的に即独を選びました。
身近なところでのリーガルサービスの提供
この事務所がある印西市は人口10万人、西隣の白井市が5~6万人、反対側の東隣に印旛郡栄町があり、合計で約20万人の人口があるエリアです。しかし、開業準備をしていた当時は弁護士事務所が一つもない状況でした。電車に30分も乗れば弁護士事務所がいくつもあるのですが、やはり地元にあったほうがいいのではないか、依頼者の立場になれば、相談するのにいちいち電車に乗って行くのは面倒なのではないかと思いました。
このように東京から電車で1時間程度のエリアにも実は弁護士の空白地帯というものがあることを知り、そういったエリアを埋めていきたい、地域の住民にとって身近な場所でリーガルサービスを提供していきたいという思いでこの場所に事務所を作りました。また、他に競争相手がいないので、参入しやすいという経営的な判断もありました。
最初にも書きましたが、近くに弁護士がいなくて頼みに行けない、なかなか敷居が高いという話を聞き、そういう場所でリーガルサービスを提供していくことが、私が弁護士になろうと思った強い動機の一つですので、それを少しは実現できたかなと思っています。
最近、印象に残った事件としては、相続事件で昔の遺産が積み残されているというか、最近の空き家問題に象徴されるように、昔のことをずっとそのままにしていた結果、今になって困っているという事件があります。誰が相続人か分からない、どこにいるのか分からない、誰も引き取りたがらない等の問題に加え、子ども達が皆地方から東京に出てきてしまった後、残された古い実家の土地を誰も面倒見ない、その家がもう崩壊しかかっている、どうしたらいいか、といった問題が最近多いです。今の日本が抱えている少子高齢化や地方の人口減少などの問題が、こういうところにも出てきていると感じています。
人間性の問われる職業。それが弁護士。
受験生時代に抱いていた弁護士像と今を比較すると、仕事の中身として問われる法的な知識の部分は、弁護士を目指し勉強をしていたときに考えていたのとほぼ同じような感じなのですが、実際の仕事では、それ以外の部分がすごく重要だと感じます。
勉強しているときは、法律的な知識がすごく必要で、法的な知識の質や量で如何に裁判に勝つか、調停の交渉で優位に立つか、そういう知識をどれだけ持っているかが大事かなと思っていました。しかし実際には、もちろん知識が必要なのは当然ですが、それよりもいかに相手を説得していくか、自分の依頼者の理解を得ていくかといった交渉力、コミュニケーション力、更には人間性そのものが思っていたよりもずっと大事だなと思いました。
確かに、その力の根源の一つは、知識に裏づけされたものだと思います。理由や根拠がないまま人を説得することはなかなかできません。法律や判例などの知識に基づいて「ここまでしかお金は取れませんよ」とか「この事実を証明できないと、あなたの主張は認められませんよ」といった話ができるように、相手や依頼者が納得しやすい説明をするための知識は当然必要です。ただ、もう一つ別の要素として、たとえ満額回答ではなくても、良い意味で「先生がそう言うなら、それで十分です。」と依頼者に納得して貰えるような人間関係、信頼関係を作っていくことが大事なのではないかと考えています。
そのためには交渉力やコミュニケーション能力も当然必要なスキルですが、しっかりとした信頼関係を築いていくという点では、弁護士の人間性そのものが問われていくのかなと思います。ある本に書かれていた、「『感動』という言葉はあるが『理動』という言葉はない。感情で人は動くけれど、理では動かない」という旨の一節を時々思い出すのですが、理屈だけではなく、気持ちの部分で人を動かせるようにならないと、進む筈の交渉も進まないのであり、そのためには弁護士の人間性自体がすごく大事になると思います。
私も、依頼人との関係がこじれ、途中で辞任せざるを得なくなった事件がありました。改めて振り返ると、依頼人と良い人間関係が築けていなかったと思います。依頼人が私のことを全面的に信頼してくれていなかったし、それに気付いて、不信感を取り除き、信頼関係を築くことが、その当時の自分にはまだできませんでした。弁護士として良い仕事をしていくためには、自分の人格とか人間性といった本質的な部分を高めていくという努力も大事になってくると思います。
自分にしかできない領域を求めて
弁護士の仕事の魅力の一つは、困っている、弱い立場にある依頼者の力になれることです。例えば消費者問題の事件で、個人では会社に相手にもされない、お金を返してくれといっても全然返してくれない、足元を見られている、そういう依頼者に代わって、法的な根拠・理由付けを元に会社と交渉し、説得すること、弁護士の専門的な知識・能力を活かして依頼者のサポートをすること、得られるべき権利をきちんと実現するお手伝いをすること、こうした仕事はやはり弁護士にしかできないものです。その結果、支払ったお金を取り戻して依頼者に喜んでもらえた時などは、本当に嬉しくなります。弁護士としてのやりがいを強く感じるところです。
私は今年でまだ4年目です。弁護士の仕事をある程度は一通りやってきましたが、専門分野として「売り」になるようなものはまだありません。
これまで毎日、夢中で目の前の仕事に取り組んできていましたが、将来のことを考えると、「これは小林君にしかできないな」とか、「この仕事を頼むならやっぱり小林先生だよね」と言ってもらえるような、そういう専門分野、領域を作っていきたいという思いがあります。具体的な形としてはまだ見えてきてないのですが、一つだけでも、ごく限られた狭い領域でもいいので、プロフェッショナルな分野を身につけたいと最近強く思っています。
社会人としての今までの経験を最大限に活かして
社会人としての経験は、弁護士の仕事をする上で間違いなく活かせると思います。法律に限らず、どんな分野であっても、何らかの仕事を真面目にずっとやってきた方であれば、その専門性とか、培った経験などは、たとえその分野の事件ではなくても活かせる機会は多いです。自分も、社会人だったということで、これまで仕事上助けられてきた、役に立ったという経験は沢山ありました。社会人のメリットというのはかなり大きいと思います。
社会人をやりながら勉強し続けるのはやはり大変ですし、合格するためには、ある程度の量の勉強時間が必要です。従って、社会人が確保できる時間の中で合格ラインにたどり着くためには、先にも書きましたが、無駄な勉強はしないことがとても大事になります。
これは単なる小手先のテクニック的な意味ではありません。司法試験がどのような性質の試験で、合格水準として何がどこまで求められているのかという本質の部分がしっかりと理解できていれば、その要求を満たすのに必要な知識を覚える時間というのは、受験生の皆さんが漠然と思い描いている程には多くはないです。
そういう意味で勉強するに当たっては、最初に司法試験がどういう試験か、何をどこまでアウトプットしなければならないのかという点をしっかり考えることが大事で、その点についての情報は十分に入手すべきと思います。その入り口の方向性さえ間違わなければ、必ずゴールに辿り着けると思います。逆に言えば、くれぐれもそのルートと目指す方向性を間違えないでほしいと強く思います。諦めずに是非頑張って下さい。
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