「この人を救えるのは自分しかいない」刑事弁護は私にとってライフワーク
徳永裕文先生
経歴
早稲田大学法学部卒業
早稲田大学大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録
※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。
自分の弱さを実感し、法律を武器に弁護士に
弁護士になろうと初めて思ったのは中学生の時です。その頃に自分が辛い体験をしたエピソードがあって、孤立感を感じた時期でした。その時から、社会でバッシングを受けている人、社会から孤立している人にシンパシーを感じました。テレビで誰かが凶悪な犯罪の犯人を疑われ、逮捕されると、世間からもマスコミからも極めて厳しいバッシングを受けます。そういうのを見て、世間からそう見られてしまうことはある程度仕方のない部分はあるかもしれないのですが、その人の声もちゃんと届けるべきなのではないかと思ったりしました。そして、そういうことができるのが刑事弁護だと。弁護士だったら、この人の味方になれるという風に漠然と思ったことがきっかけで、何となく刑事弁護がやってみたいなという気持ちが生まれました。あと自分が辛い目にあった時に自分の弱さを実感し、法律が自分の武器になるのではないかと小さいながらに思って、弁護士という仕事に就けば強くなれるのではないだろうかみたいに感じ、弁護士という職業に憧れました。明確なビジョンがあったわけではないのですが、そのような理由から、なんとなく弁護士をやりたいという気持ちと刑事弁護をやりたいという気持ちをその頃から持っていたという感じですね。
伊藤塾では大学2年生の頃からお世話になりましたが、私の周りにはほとんど弁護士を目指して勉強をしている人は居ませんでした。周りがやらないので、何となく自分もやる気になれなくて、1年生の頃は将来に向けてという意味では無駄な時間を過ごしたと思います。ですが、2年生になって、そろそろさすがに準備しようと決意しました。今は予備試験があるのですが、当時は法曹を目指すならロースクールに行くことが当たり前の時代でした。大学が2007年入学なので、私の時代は旧司法試験がギリギリありました。ただ旧司法試験を目指すにはペースが早すぎるなと思い、自分の中では旧司法試験の受験は選択肢に無くて、普通にロースクールに進学し、新司法試験を受けようという考えを持っていました。なので旧司法試験は一回も受けませんでした。
当時はロースクールに行けば弁護士になれるみたいな風潮がありましたが、実際は違いました。私はそれはある程度予想していました。「絶対厳しいに決まっている」と思っていましたから。ロースクールに行けば自動的になれるものだという話が実しやかに流れてはいましたが、自分はそのような安易な考えで入学したわけではありません。
また、司法試験の受験指導校=伊藤塾みたいなのが自分の中ではありました。それ以外は全然見向きもしなかったって感じですね。あと先輩が通っていたというのが大きかったかもしれないです。先輩が私より先に伊藤塾に行っていたので、その影響もあり勉強するなら伊藤塾かなと思っていました。
刑事弁護のプロフェッショナルを目指すという人がたくさんいる事務所
司法試験に合格したあとは、2014年12月に弁護士登録して、その日に北千住パブリック法律事務所に入所して現在に至ります。
北千住パブリック法律事務所は、2004年に設立されました。その頃は、被疑者国選弁護制度が始まろうとしていた時期であり、また、裁判員裁判ももうすぐ始まろうとしていた時期でした。そのため、これから刑事事件がどんどん盛り上がっていくだろうし、事件もたくさん増えていくし、裁判員裁判も従来の刑事裁判とは違う、より高度な弁護技術が要求されるであろうという時期でした。そこでこれから発展していく刑事弁護にきちんと対応出来るような事務所が必要だろうということで、すでに東京パブリックという公設事務所が池袋にあったのですが、それとは別に、刑事対応型の公設事務所として北千住パブリック法律事務所が設立されるという経緯だったようです。北千住という立地には色んな理由があるようですが、小菅に東京拘置所があって、そこに行きやすいというのも一つの理由としてあります。あとは、足立区にも、貧困層へのリーガルサービスを提供できる事務所を作ろうという考えもあります。
先に述べましたとおり、自分が最初に法曹を目指したいというきっかけは刑事弁護だったのですが、勉強していくと、刑事系よりも民事系の方が得意でした。だから自分は刑事事件はやりたいと思いつつも、刑事専門というのは肌に合わないのかなと思っていました。刑事事件もきちんとやりながら、民事系もちゃんと出来るところが良いなと自分の中で思っていました。この事務所に最初に出会ったのが、ロースクールの2年生の時です。エクスターンシップというものがありました。エクスターンシップというのは学校側が法律事務所等に学生を派遣して業務体験をするという制度です。その中で北千住パブリック法律事務所を選んだのは、私の自宅から近かったこともありますし、なにより刑事事件が多いし、他方で刑事事件以外の事件も結構できると知って良いなと思ってエクスターンシップ先として選ばせていただきました。その時に2週間ほど、先生方の実務を側で見させてもらい、色々なことを体験させて貰ったらすごく面白くて、何よりそこで働いている人たちがすごく生き生きとしていて、熱心に色んな弁護活動をされているのを傍らで見て、「この事務所が良いな」と思いました。司法試験受験後、いざ就職活動の時期になると、色々な進路を悩みました。企業法務の方が稼げるしいいのではないかとも考えました。ですが、北千住パブリック法律事務所の説明会に来て、やはりここが良いなと改めて思いました。それはやはり、そこに居る人達の生き生きとしている姿を間近で見たからです。自分のやりたいことをやるには、ここしかないと思いました。
北千住パブリック法律事務所の特徴は、設立の経緯で話した部分と被るところはあるのですが、何より刑事対応型の公設事務所だというところです。刑事弁護のプロフェッショナルを目指すという人がたくさんいる事務所です。他の事務所に比べるとはるかに刑事事件の数も種類も多いし、かなりの数の裁判員裁判もやっていますし、刑事弁護に強いというのが最大の特色じゃないかなと思います。時には死刑求刑がされるような事件もやります。足立区という地域に根ざした法律事務所というのも特色です。足立区と関係する福祉機関にもよく相談を受けます。特に最近多いのは成年後見を法人でやったりする案件などです。足立区の区役所の方からの相談も多く、地域の方のニーズをなるべく拾えるように普通の事務所ではなかなか数多く受けられない、いわゆる法テラス案件も他の事務所さんに比べれば積極的にやっています。それがいわば2大特色です。
捕まっている人の自由を取り戻すというリアルな利益に繋がる仕事
弁護士をやっていてのやりがいは、単純ですが、結果を出した時が一番嬉しいですね。やりがいとはちょっと違うかもしれませんが、一昨年の11月に無罪判決を取った時が、弁護士になってから一番嬉しかったことです。刑事弁護って基本的に虚しい戦いが多いので、どんなに頑張っても結果がなかなかでないところがあります。「99.9」とか言われますからね。基本的には厳しい戦いばかりです。ですが、自分の働きによって、捕まっている人が解放されて自由を取り戻すことができた時、そういうリアルな利益に繋がっていくことを肌で感じたとき、その喜びはかけがえのないものがあります。依頼者の人から「先生のおかげで出られました。ありがとうございます」と言われた瞬間というのはすごく嬉しいです。こういった瞬間の喜びのために日々の辛いことをなんとかやれているのという感じです。
あと、法廷が楽しいです。受験生時代に描いていた弁護士のイメージですが、裁判というと法廷という印象が強いですよね。色んなドラマとかでも対立している当事者が法廷で弁論を戦わせて、それを裁判官が裁定するイメージを自分は持っていたのですが、実際の実務に出てみると形骸化しているというか、書面の世界です。特に民事なんかは完全に書面の世界ですよね。当事者が作ってきた準備書面を出して、法廷では陳述しますと一言を述べるだけ。そこで質問されることとかはありますけど、想像していた華々しい弁論の世界とは異なっていました。自分の中でイメージしていたカッコいい法廷弁護士像というのとは違ったのかなという風には思います。けれども、裁判員裁判が始まって、より法廷で見て聞いて分かる弁護活動というのが求められるようになりました。私は過去の時代を体験してはいませんが、今の刑事裁判は、以前よりも、刑事訴訟法的に言うと直接主義、公判中心主義を大切にしていこうという姿勢が強くなってきているようです。だから、今の刑事裁判では、法廷での活動が以前よりもはるかに重要になってきていて、用意した書面の読み上げだけでは済まされない、何が起こるか分からないというドラマを感じられます。
弁護士として必要な力は「説得力」と「精神力」
弁護士として必要な力としましては大きくは2つあると思います。1つは説得力です。弁護士の仕事のほとんどは,法律を武器に誰かを説得して、依頼者の利益を追求する仕事です。ですから、説得力は常に必要な能力だと思います。ただ、書面は色々と時間をかけて自分の作った文章を検証したりって出来ると思うのですが、現場での交渉に立つ時や、それこそ法廷で弁論する時などは、いくらあらかじめ準備しても想定外のことが起き、その瞬間に自分の中で論理を構築して言葉を選ばなければなりません。その場の対応力が必要になってきます。こういった瞬間での説得力、言い換えれば現場での対応力も求められます。
もう一つは精神力でしょうね。ストレスは正直多いです。時には戦わなきゃいけない場面も多いですしね。依頼者さんの中には対応が難しい方もいらっしゃいます。依頼者の方から責められるとやはり辛いです。でもいくら気をつけてやっていたとしてもミスをする時はあります。完璧にやっていたとしても結果が出せないとクレームになる時もあります。自分が守ろうとしているのに、この人のために動いているはずなのに報われないというのがあるにはあるので、精神力がないとなかなか壊れちゃう人もいるのではないかなと思いますね。私のやっているような分野に限らず、他の弁護士の方もそうだとは思います。また、そもそも法廷に立つのはやはり緊張するので、精神的に重いというのも自分にはありました。今でも緊張します。
依頼者から「先生はよくやってくれた」と言われる瞬間
刑事弁護は、弁護士じゃないとできません。依頼者の弁護をできるのは、弁護人だけです。つまり、自分じゃないと出来ないから自分がやるしかない。もちろんそれは大変なことだし、辛いことも多いです。でも、この人を救えるのは自分しかないと思うと、嫌でも辛くても疲れてても、それが原動力になって「この人を救わなきゃいけない」ということで足が動きます。そして最終的に何かの結果に繋がります。それがあまり良くない結果だったとしても、自分の中でちゃんと全部やりきったという時に、依頼者の方がなんだかんだ言いつつも、「先生はよくやってくれた」と言われた瞬間はすごく嬉しいです。それはやはり弁護士じゃないと味わえない部分ですし、さらに結果を出したら尚更嬉しいですよね。
あと自由ですね。事務所によるとは思うのですが、当所はある程度、個々の弁護士が自由に動いているので、何かに縛られるでもないですね。業務量は多いので忙しいと言われれば、もちろん忙しいのですが、時間拘束を受けてないので気楽なところがあって「ちょっとお茶してこようかな」っていうような感じで自分の中で色々と区切れたりします。特に4年目に入ってくると一人でやる事件なんかも結構増えてきたりしますし、疲れますけど、普通の民間企業に勤めていて、朝早く行って夜まで残業してという働き方よりは自分に合っている気がします。
法的思考力はやはり必要不可欠
伊藤塾で勉強をして良かったなと思うのは、法的思考力を培うことができたことです。法律って何から勉強していいか当初全く分かりませんでした。教科書をよく読んで理解すればいいのかというとそういう訳でもありません。司法試験の勉強は大海原に一人で佇むボートのような状態で始まると思うんですよね。伊藤塾に入り、カリキュラムに沿って勉強していると基礎的なところをちゃんと教えてくれるので、何回もテキストを読んだり講義を聴いたりしていると、何から始めていいのかというのは伊藤塾の講義を受講していたから分かることなのかなと思います。伊藤塾のテキストには、過去の旧司法試験の問題と解答例があるのですが、その解答例をまず丸写しするところから始めました。暗記しているわけではないのですが、問題を読んでまず自分で考えて、解答例を見て、さらに解答例を転写していました。ただ、何も考えずに転写しているわけではなくて、解答例のここは納得いかないなと思ったら、自分なりに変えたりもしていました。そういう作業を繰り返していたおかげで、リーガルマインドつまりは法的思考力、論理的な思考力が身に付いたのではないかなと思っています。知識として色んなことは覚えないといけないのですが、その使い方を知らないと試験で良い結果は出ません。むしろそういうところを早めに鍛えていたからこそ、そんなに色んな知識を抱えなくても、その場その場で結構対応出来たところがあると思います。それは伊藤塾のテキストを生かして自分の中で勉強していたおかげで身に付いていると思いますし、それで司法試験も受かったと思います。今、事務所で起案する時や、法廷で弁護する時もそういうプロセスがあるからこそ、論理力(法的思考力)が生きているのではないかなと思います。自分が受けた司法試験も知らないことだらけでした。「知らないよ、考えたことないよ」という問題に何度も当たりました。しかし、自分のこれまで持っている勉強してきた知識という材料を使って、法的思考力で料理して、それなりの答案を書き上げることができました。だから、法的思考力はやはり必要不可欠だと思います。身に付けるのは早ければ早いほどいいと思います。
社会的弱者の声を掬いあげるために
弁護士の在り方は変わっていくのではないでしょうか。人が増えているなというのは思いますし、色んな弁護士がいる分、多様な考え方があると思います。一般の方々と法律との距離というのはまだまだ遠いのではないかと考えます。法律的な問題を抱えているけど表には出てくることができない人は多いと思うので、本当に必要な人へのニーズを掬うにはどうしたらいいのかというのは、既に色んなところで考えられているところではあると思うのですが、いくら考えてもまだ十分近づけてはいないのかなというのは正直思います。過疎地の問題などは対応されつつありますけど、精神障害を持った人とか高齢者の方とかあるいは子供とか、言葉が適切かは分からないですけど、社会的弱者の方というのはなかなか自分の力で法律家へアプローチすることが難しいと思うので、そこを余すこと無く掬えるような制度設計が必要だと思いますし、北千住パブリック法律事務所に居るからこそ、そういうところに携わっていければいいのかなって思ったりもしますね。
これからの私の目標ですが、実は今やっていること自体がやりたかったことです。この先というのが結構自分の中では難しくて、でも、それじゃいけないという風には思っています。これから特定の分野に強いスペシャリストがどんどん必要になってくると思います。特に弁護士が増えていると言われている時代で、何かに強いというのはその人の価値を高めることだと思うので、そういうのは必要だと思うのですが、私はそういったスペシャリストというタイプじゃなくて、色んなことに興味がある、色んなことをこなすジェネラリストタイプだと思います。しかし、それは逆にいうと器用貧乏というところもあるかもしれないです。自分の中では様々な事件に対応できる弁護士でありたいなと考えています。自分の性にも合っていると思いますしこの道を続けていきたいです。ただ、自分の中で刑事弁護というのはライフワークと思っているので、これからもっともっと技術を高めて結果を出していければいいかなと思います。
これから法律家を目指す方に伝えておきたいいくつかのこと
まず弁護士になれば必ずお金持ちになれるという幻想をもっているとしたら、それは捨てた方がいいと思います。もちろん稼げる人は稼げますが、稼げない人は稼げません。自分次第です。むしろ、弁護士の仕事の魅力は、弁護士じゃないとできない仕事と役割があることにあって、そこにやりがいを感じられそうだったら弁護士という職業はすごくおすすめの職業だと思います。法律が好きな人にとって弁護士は魅力的な職業だと思いますし、人とすごく距離が近い仕事なので人が好きな人にも弁護士という職業はおすすめだと思います。漠然と弁護士になりたいなと思っている人は弁護士として何が出来るのか、弁護士として何をやりたいのかというところを今の内から考えて頂ければと思います。早いうちから自分の理想の弁護士像をイメージ出来ていると、それがモチベーションにもなります。
今伊藤塾で勉強している方に対して伝えたいこととしては、どの分野にも天才という人はいます。一緒に勉強していて何でこの人はこんなに知識がたくさんあるのだろうとか、すごいなと思わされることは受験生時代から多くて、自分は向いてないのではないかなと思うこともたくさんありました。皆さんもそう思うことがあるかもしれません。ただ、司法試験においては勉強の量が大きなウエイトを占めてきます。もちろん質も大事ですけど、一定の質を超えれば、あとは量がものをいう試験だと思います。だからやればやるほどどんどん合格に近づいていくような試験だと思うし、そこで学んだことが実務に出て生かされていくので、決して皆さんが今やっている勉強は一つも無意味じゃないと思います。だから努力を怠らないでください。天才だと思う人でも勉強しなかった人は落ちます。だからこそ努力は怠っちゃいけないし、努力をすれば報われると思うので、頑張って努力してほしいなと思います。さっき言った通り、法的思考力は非常に大切な力だと思うので、勉強のやり方を間違えないことです。勉強のやり方や法的思考力は伊藤塾で身に付けたと思っていますので、決して今やっている勉強は無駄ではないと思います。その力を身に付けるために皆さん大切なことをされていると思うので、今の道をぜひ信じて、ただ自分の中で、「本当にこれでいいのか」というのは日々検証しつつも、どんどん進んでいって頂ければいいのかなと思います。弁護士は楽しいです。弁護士になって本当に良かったと思っています。
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