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個々の事件対応だけでなく、法の不備や社会の矛盾を発信するのも弁護士の役割

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上田 貴子先生

経歴
1995年 立教大学社会学部産業関係学科卒業
民間企業で営業職、宣伝職に従事
2008年 東京大学法学政治学研究科法曹養成専攻入学
2011年 東京大学法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2014年 弁護士登録


※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。

自身の体験から労働問題に興味を抱き弁護士になることを決意

私は大学では全く法律は勉強せず、卒業後は約10年間、民間企業で働いていました。担当していたのは法律と全く関係のない営業や宣伝です。そこで、働く方が直面する様々な問題を間近で見る機会がありました。例えばセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどの問題です。私は在職中に妊娠、出産したのですが、当時、女性は男性並みに働かないと一人前に扱ってもらえないような風潮がありましたので、マタニティハラスメントとまではいかなくても働きづらさを感じました。あとは長時間労働ですね。私が働いていた業界は、2000年代に入ってから業界全体が非常に不況になり、大規模なリストラがありました。そうすると、どこの職場も人が足りなくなって、残った人が長時間労働をしなければならず、過酷なノルマやハラスメント等が起こります。私はそれまで仕事がすごく好きでしたが、職場環境が悪化するとみるみる心身の不調が出てしまうんですね。私自身はそれほど深刻な状態にはなりませんでしたが、職場で精神疾患を発症した方が出て、それがとてもショックでした。本来、仕事は生活の糧であり、夢であり、生きがいのはずなのに、職場環境が悪くなるとこんなに心身を傷つけ、最悪の場合は精神疾患を発症し自殺に至ることもあると分かったので、そこから労働問題に興味を持つようになりました。子供を産んで保育園に通わせながら仕事をこのまま続けていくのか悩んでいた時期でもあり、じゃあいっそのこと、仕事は辞めて労働問題を勉強しようと思い、突然思い立ってという感じでロースクールに入学しました。
当時のロースクールは社会人経験者や他学部出身者が多くすごく楽しかったです。でも、私は未修者だったので、授業についていくのがかなり大変でした。法学部卒の同級生が当然知っていることを私は知らないんだと実感しましたね。1年目の未修者向けの講義はとても良かったのですが、答案の書き方の指導はしてくれなかったので、学内の試験や新司法試験の受験は本当に大変でした。

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労働法による保護が十分でないが「この人を救いたい」という思い

私の仕事は、地方公務員の労働組合の本部の常勤顧問です。こういう働き方は珍しいと思います。顧問先とは継続的な人間関係の中で一緒に問題に取り組むという感じで仕事をしています。他方でインハウスではないので、個人事件を受任することもできます。一般民事、刑事のほか、日本労働弁護団に所属して民間の労働事件もやっています。最近の電話相談ではハラスメントの相談が一番多いです。有期労働者の方が会社に契約更新してもらえない(雇い止めされた)という相談もあります。
今の労働法で十分に保護されていない方がまだまだ大勢います。例えば派遣労働者の方です。この人を何とか助けてあげたい、この事件はすごく不当だなと思っても、今の法律では救えないということがあります。目の前の困っている人を助けられないのはこちらも辛いですよね。しかし、有期労働者の方の問題等、判例の蓄積や立法で改善されてきていることもあります。当事者や弁護士等が問題を発信していくことで世の中が変わってきたのだと思います。個々の事件を一生懸命やるのは勿論ですが、弁護士が積極的に法の不備や社会問題を発信したり、政策の提言をしたりして労働運動に取り組むことも大事だと思います。
私は事務所を共同経営していて経費負担は大変ですが、勤務弁護士と比べ良いところは自分で何をするか決められるところですね。かなり自由度が高い仕事の仕方をしています。受験生時代に抱いていたイメージとはそれほどギャップはないです。
実際に来る相談は、受験勉強の知識だけでは対応出来ないことが多くて、新たに調べたり勉強したりすることがたくさんあります。私が従事している地方公務員の労働問題は、民間に比べると文献や判例が少なく、自分で法律、条例、規則を調べて考えないといけないこともあります。どの分野でも、法改正があり、判例もどんどん増えるので、試験に受かっても全然安心出来ず勉強し続けなければならない仕事だなと思います。弁護士会の研修がありますので利用するとよいと思います。

自分が出来ないことを見極め「依頼者ファースト」による誠実な対応

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色んなタイプの弁護士がいるので正解は一つではありませんが、私は弁護士に必要とされる力は誠実さだと思っています。依頼者の話をきちんと聞いて、十分に調べて、法律のプロとして適切に助言をすることが仕事なので、一つ一つの事件に誠実に対応することが大事だと思います。相談に来る方は、自分の問題を論理的に説明できない方や、混乱している方も多いので、まず話を聞くことはすごく大事だと思います。しかし、相談者の中には、心に深い傷を負い、「なぜ理解してくれないのですか」と弁護士に対して攻撃的になる方もいらっしゃいます。相談者、依頼者に寄り添うことはすごく大事だと思うのですが、私はあくまでも法律の専門家なので、カウンセラーやお医者さん、福祉関係者の支援が必要だと思う場合はご本人にそうお話しします。弁護士が全てを自分で抱えてしまうと、精神的に大きな負荷がかかってしまいます。自分が出来るか出来ないかという見極めも実は結構大事で、見極めず全部受けてしまうとお互いにとって良くないと思います。困った時は、事務所や委員会等の先輩弁護士に相談した方がいいと思います。私は、難しい案件や精神的な負担が大きい案件の場合は、依頼者にお話をして他の弁護士に入ってもらったり、複数の弁護士で弁護団を組んだりしています。

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未知の案件はLINEを利用し同期に相談

修習生時代、社会人経験者で即独を目指している人を中心に「即独の会」というのがあり、私も参加していました。今でもLINEのグループでつながっていて、分からないことがあると「こういう案件をやったことありますか?」「いい文献はないですか?」と投稿して聞けるようにしています。この仕事をしていると全く知らない分野の事件の相談も結構きます。私は労働事件を中心にやっていますが、即独の会には不動産、IT、著作権、国際結婚、刑事事件等様々な分野を得意とする人がいます。お互いに事件を紹介し合うこともあります。皆さんも修習に行ったら、同期や、修習先の弁護士事務所の先生方とぜひ積極的に関係を作ってください。きっと自分の財産になると思います。

男性も女性も関係なく、誰でも自分らしく働ける社会を目指して

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今後、色々な働き方をする人が出てくると、ますます労働問題が増えていくと思います。
今はイクメンが話題になっていますが、日本の男性の育児休暇取得率や平日の家事育児参加率はとても低いです。背景には、男性の長時間労働の問題もあります。日本は女性が活躍する社会を目指すと言いつつ、依然として職場でも社会の中でも男女平等になっていません。私は、男性も女性も関係なく、誰でも自分らしく働ける社会にするための活動をライフワークにしていきたいと思い、弁護士会の性の平等に関する委員会に所属しています。今年は、委員会活動の一環として男女平等の国フィンランドに視察に行くことになりました。今はそれがすごく楽しみです。弁護士になったばかりの頃は事件の対応で忙しくて大変かもしれないのですが、それとは別に自分のライフワークがあると視野が広がりますし、委員会や公益活動に参加することで人脈も広がるので、ぜひやられるといいと思います。
どんな仕事も社会に貢献していると思いますが、目の前にいる人を法律で助けることができる弁護士の仕事にはとてもやりがいがあります。弁護士になって本当に良かったなと思っています。他方で、責任は重大で常に緊張感もあります。私は、尋問で緊張して声が震えることがあるのですが、30年やっている大先輩も反対尋問ではいつも緊張するよと仰っていたので、弁護士ってそういうものだと思います。

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