今までの人生で知らなかった世界を知ることができる世界
工藤寛泰先生
経歴 2009年3月 筑波大学附属駒場高校卒業
2014年3月 東京大学法学部第1類卒業
2014年4月 東京大学大学院法学政治学研究科入学
2017年9月 司法試験合格
2017年12月 - 2018年12月 最高裁判所司法修習生
2019年1月 マザーバード法律事務所入所
※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。
高校生の頃、大学進学を考え文理選択の時、もともと化学などが得意ではなかったので文系を選ぶことにしました。文系の中で、勉強するときに興味が持てそうだったので法学部を選び、その流れでロースクールに進学にしました。ロースクールまで行ったので「どうせなら司法試験を受けよう」と思って受験することにしました。ただ、勉強していくと、段々「思っていたのと違うな」と思うこともありました。ドラマなどで出てくる弁護士は大体刑事事件をやっていますし、そうでなくても基本的には家事事件のような個人向けの事件を担当している印象がありました。しかし、実際勉強してみると、企業や法人に関する法律・事件も学ぶことになります。恥ずかしながら今でも法人というものについてきちんと理解しきれていないと感じておりまして、そのような抽象的な印象のままではありますが、人が出てこない事件について、技術を使って対応していくというのが当時の弁護士のイメージになっていきました。
ところがある日、地元の図書館で勉強をしていると、下の階にある公民館のホールでたまたま弁護士の方が演劇をしていて、「もがれた翼」という名の演劇だったのですが、それを観たことが、私が弁護士を目指すことを続けた理由の一つになりました。子どもの権利をテーマに、子どもと弁護士が一緒に創ったお芝居でした。その話の中で、弁護士は子どもの代理人として、離婚事件のときに子どもの意見を受け留め、伝えるため奔走していました。そこで初めて、弁護士の仕事について、子どもの代理人のような、どちらかの利益を押し付けあう以外の仕事もあるんだなと感じました。そこで弁護士についての興味がより一層わいてきました。
子どもが児童相談所に保護されてしまったという事案だったのですが、お子さんが重度のアレルギーを持っている乳児でした。食べられるものが分からない中、「これは絶対大丈夫だ」というものだけを与えていたら栄養が偏ってしまい、医師から通告をされたというものでした。弁護士を選任して、子どもが家に帰ってくるという話になっていた最中、一時保護先で食べたものが原因となりアレルギーで亡くなってしまったという事案でした。その親御さんたちが起こした裁判だったのですが、報道を見た人や、いろいろなところから「虐待親だ!」と言われご本人が大変傷ついていました。裁判官も「虐待通告が悪かった」という判断は出せないと思います。裁判官は全体を見なければいけないと思うのですが、弁護士はその依頼者のために直接活動することのできる職業だと思い、弁護士になりたいと思いました。
マザーバード法律事務所は、企業案件よりも家事事件など個人向けの仕事が多いです。特徴的な部分としては、事務所の方針として子どもの事件に力を入れています。私自身はまだそこまで経験がなく、直接子どもの事件を受任したこともそう多くないのですが、事務所のホームページでも子供の福祉のためにいろいろな事件を取扱業務として掲載しています。
私は先ほど申し上げた通り、まだ弁護士として仕事の数はそこまで多くありません。そんな状況なので、事件についてやりがいというものを味わった経験もそう多くはありません。ですが、刑事事件で執行猶予が付いたとき等、達成感を感じる瞬間は確かにありました。また、弁護士会内には委員会があるのですが、そこでは色々な方にお話を聞くことができ、とても勉強になりますし、他にも普段の業務とは違う形で実務に関わることもあって、そういった活動の中でやりがいを感じる瞬間もあります。例えば、子どもの人権110番という電話相談を東京弁護士会では運営しているのですが、そこでは子どもご本人から電話がかかってくることもありました。こういう時、弁護士なので、ついこの後何をしたいのかなという所を想定して身構えてしまいます。ですが実際は、いじめられていて何かをしてもらいたい、ということではなく、ただ話を聞いて欲しかったと言われて、私はたったそれだけのことしかできていないけれど、それでもそのあと少しでも声が明るくなっていたとき、やりがいを感じました。
受験生時代を思い返すと伊藤塾は教材がしっかりまとめてあったので、それが欲しくて入塾したような部分もあります。体系だった勉強をしないで一回目落ちてしまったことから、全教科を一通り伊藤塾で勉強しなおしました。そこでの勉強が当時とても役立ちました。その時使っていた教材は、今でも何かぱっと調べたいときに見ることができるので重宝しています。
法律家にとって必要な力ですが、暗記など勉強面の話ではなく、論理的に物事を考える力が求められると思います。また、弁護士に限ると、依頼者の利益を考えつつ最善の着地点を見つける力が大切です。
あとは、必要な力とは少し話が違うかもしれませんが、公益活動に尽力されている先生は本当に尊敬します。私は今子どもの委員会と消費者の委員会に入っていまして、消費者の委員会では、例えば債務をたくさん抱えている方のため様々な活動をしています。その活動の中の個別の事件それぞれから何かが回収できるということはあまりないのですが、そのような活動をしている先生ほどしっかり他の分野の事件でも活躍されているように思えますし、そのような弁護士になりたいと思います。
ちなみに委員会には、東京弁護士会では最初は必ず義務として入らなければいけないので、一年目のうちに一つ入ります。二年目以降は希望すれば、ということになります。また、一つの委員会にしか入れない、ということはないので、興味と時間と余力があれば複数入ることもおすすめです。弁護士会の公益活動は、収入や仕事に直結するものではないですが、人脈が増え、勉強の機会が増えるという利点もあります。
弁護士の仕事は、やりがいを感じる瞬間もありますが、特に刑事事件など、人一人の人生に大きく関わることの多い仕事です。仕事をしていないときもそのことを考えてしまい、精神的に苦しい瞬間もあります。ですがやってみて後悔はありません。万一この先私が別の仕事に就いたとしても、この時間が無駄だったと思うことはないと思います。弁護士の仕事をしていて、今までの人生で私が知らなかった世界を知ることができて、知り合うことがないような魅力的な先生とたくさん関わりを持って、そういった経験は、もし人生の舵を切るときが来たとしても、必ず役に立つと思います。