総合的な「人間力」を養っていくのが、弁護士にとっては重要なポイント。

樋口航先生

経歴 1998年  県立浦和高等学校卒業
   2002年  一橋大学法学部卒業
   2003年  旧司法試験合格
   2005年  アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業入所
   2011年  米国Columbia Law School (LL.M.) 卒業
   2011年  ニューヨーク州弁護士登録
  
       
※先生の所属事務所等プロフィールは、取材時のものです。

樋口航弁護士インタビュー動画 ~法律家を志す皆さんへ向けて~

 私が弁護士を目指したのは、かなり前の話なので少し忘れかけているところはあるのですが、専門的な知識を使って仕事ができるというのがまず一番にありました。わかりやすい形で専門的な知識を使える職業だと弁護士かなと思いました。中高生くらいの時に「弁護士になりたいな」と漠然と思い、もう一つとして、私は元々英語がかなり好きで英語を使える仕事に就きたいとも思っていました。その二つがちょうどマッチするのが、今働いているような大きな事務所で弁護士として働くことでした。国際的な仕事をするというのが自分に一番向いているかなと思いましてそれで弁護士を目指したということです。
 具体的に司法試験に向けた対策をスタートしたのは大学一年生の頃からです。元々高校生の時から弁護士になりたいと漠然とは思っていたので、大学1年生の秋から勉強を始めました。大学に入学し、最初の夏休みは色々な所に行ったりして、秋から伊藤塾に入ったという感じです。

 私が当事務所に入所した頃はまだそこまで人数が多い事務所ではなかったのですが、今は弁護士だけで500人近い数がいますので、事務所としては非常に大きな組織になっています。分野としても全分野をカバーしているということになるので総合事務所です。私が専門にしているのは主としてファイナンスに関する分野となります。ファイナンスといっても色々あるので一言では中々説明が難しいのですが、銀行をクライアントとするようなシンジケートローンやプロジェクトファイナンス、不動産ファイナンスなどから、証券会社をクライアントにするようなIPOだったり、サムライ債だったりという仕事もさせて頂いています。ファイナンスといった分野について、もともと興味はあったのですが、司法試験を受験する時や合格した後にファイナンスの分野を勉強する機会がなかったので、やりたいという漠然とした思いはあったものの、具体的に「どうしたい」という、そこまでの希望は正直なかったです。事務所に入った後に色々なプラクティスがある中でいくつかを経験していくうちに、ファイナンスをやりたい気持ちが高まっていきました。弊所の特徴として、かっちりとしたプラクティスグループがあるわけではなく、若いうちは色々な業務を体験できるというのがあります。私自身も色々経験させて頂いて、一年目、二年目あたりで訴訟案件だったり、労働案件だったり、それからM&Aも担当しました。その中で一番面白いと思う業務はファイナンスでしたので、三年目以降はファイナンスの案件を中心に担当してきたことになります。こういうのってご縁みたいなもので、自分が何をやりたいという思いがあって、与えられた環境があって、私の場合は素晴らしい先輩たち、パートナーの先生方も含め、色々と教えていただく機会が多くて、その分野がファイナンスが多かったというのはありますね。

 弁護士の仕事にやりがいを感じるのは、クライアントと一緒にソリューションを考え抜くことです。私の案件はいわゆるディールが多く、取引になります。そうすると必ずゴールがあることになりますので、そこに向けて関係者みんなで努力していきます。その中で色々とトラブルといいますか、障害があって、その中で交渉もあるわけで、色々なことが同時並行で起きることになります。ただ、最終的にゴールに向けてみんな集中して頑張るタイプの仕事ですので、その中でアドバイザーとしてどうすればこの取引が無事にクローズするかというのを色々考えます。単なるリーガルな話だけじゃないと思うので、法律の問題はもちろんあるのですが、それ以外の部分で何をどうすればうまくこれが進んでいくかというのを法律家以外の立場でも考えていくことになります。プロジェクトマネージャーに近いものはあるかなと思うのですが、そのような視点からアドバイスをし、それで取引が無事にクローズすると、そこが一番の醍醐味かなと思います。
 要は要求される力は法律面だけではないということです。私のクライアントは海外の方も多く、そもそも日本のプラクティスってどうなっているのかとか、リーガルじゃない質問もたくさんきたりします。そこできちんとプラクティスについて回答できるという点もアドバイザーとして必要なスキルだと思います。そういったところは自分の領域を決めないようにしているというのが、モットーとまではいきませんけど、そういうスタンスで仕事をするようにしています。
 例え話で言うのですが、こういうディールをやる弁護士というのは総合格闘技だと思います。例えば、ボクシングとか柔道などのスキルに限るのではなく、全部使うということです。つまり、全ての知識とスキルを使って、案件をクローズさせることになります。そこが一番面白いところかなと思います。例えば案件の中で外国の法律に関する話が出てきたり、あと日本法であっても税金、金融や会社法など色々と出てきたりもします。やはり、それを1人で全部見るというのはできないのですが、チームを作って適切な弁護士にアサインして、チームとして全てのことを解決する所に面白味があるかなと思っています。自分でできなくてもいいと、その部分をチームメンバーにカバーしてもらうということです。ただ、最後に手元を見た時にきちんと自分で判断できるというのはリーガルセンスを持っていないといけないと思うので、そういう意味でも総合力が大事なのかなと思います。専門性が高いところをそれぞれに任せて、寄せ集めた時にきちんとジャッジできるようにしておくということですが、我々だけで働くときも当然ありますし、それ以外にもいろいろな関係者と働く機会も多く、国内だと相手方の弁護士とでしたり、会計士でしたり税理士だったり色々な関係者があって動いていくことになります。海外になると、海外の法律事務所があるのでそこともきちんと連携をとって動いていくということです。どうやって動いていくのかというのも極めて重要な話ですし、我々がきちんと考えるかそうでないかで、クライアントの負担も変わってきます。そういったことを考えるのがすごく面白いなと思っています。

 受験生時代に学んだ民法の知識はダイレクトに今も使っています。その頃使っていた民法の基本書やテキストは今でも手元に置いていて、細かい知識を見るということはあります。実務に出ても当時勉強した内容はそのまま役立っていると思いますし、あとは、伊藤塾の特に伊藤先生はとてもプレゼンが上手いなと思っていて、難しい法律の問題をわかりやすく説明してくれるということを今でも鮮明に覚えています。実務の現場でも同じような状況は当然あって、クライアントの方に難しい法律をどう説明するかというところも伊藤先生の講義を思い出しながらしています。また、伊藤塾のテキストは図とかを用いているのが特色ですが、我々もそれは重要な点だと思っています。クライアントに説明をするときにどうしても文字情報だけになってしまうことが多いのですが、パワーポイントにしたり図にしたりというのは事務所としても工夫しています。

 法律家の向き不向きについてですが、特にこういう人じゃないと難しいということはないと思います。今の時代はどのような方でもそこは気にしなくてもいいのかなと思います。ただ一つ言えるのは、抽象的にはなりますが、粘り強い方、決して諦めない方が向いているかなと思います。企業法務に限らず、一般民事でも刑事事件であっても、弁護士は最後まで逃げてはいけませんので、どのようなことがあってもクライアントが戦い続ける以上戦い続けなければいけない、そういう意味で粘り強さが必要なのかなと思っています。

 時代はどんどん変わっています。私が弁護士になったときと比べても、今の時代はかなり変わってきています。例えば今AIが出てきたりなどがそうです。ただ私が思うのは、弁護士としてアドバイスをするという本質的な部分については変わりはないと思っています。そこの部分はこれからも変わらないので、あまり恐れずに弁護士になって欲しいなと思います。そして、弁護士になっていろいろな経験を皆さんにしてもらいたいです。単なる知識だけではなく、いろいろな意見を通じて総合的な人間力みたいなものを養っていくのが、最終的には弁護士としても重要なのかなと思います。そういう意味では私もまだまだ道半ばです。あんまり生き急がず、長いスパンで見てキャリアを考えて頂き、40代、50代で一人前になるくらいの気持ちでも全く問題ないので、そういった気持ちで頑張っていただければと思います。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業

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