「弁護士資格を国政の場で活かそう」
枝野 幸男 先生(衆議院議員(民主党所属)・弁護士)
政治の場で求められる弁護士像
弁護士の数が多くなって、大変だという声があります。私個人の意見としては、もう少し数をおさえてもいいのではないかと思っていますが、予定通りに合格者が増えたとしても仕事としては困らないと見ています。それは、政治やその周辺にはたくさんの仕事があるからです。その仕事のニーズは確実に高まっていくと思っています。
まずは、議員になることが挙げられます。議員になるには、どの党も候補者を公募していますから、そういった情報をいかにしっかり集めて、応募するのが一番近道だと思います。ただ、例えば「政治家になっても通用しそうな弁護士」には、政党の人材班から必ず声がかかります。素養があるのはどういった弁護士かというのは一言では難しいですが、例えば、「相手が何を聞きたいかが分かっている」ということだと思います。政治家は自分の意見を相手にアピールすることが仕事だといわれていますが、まずは有権者の気持ちや興味・関心を考えることをまず大前提としないといけません。自分が喋りたいことを延々喋るのではなく、まず相手の気持ちを考えないと、相手を説得することなんてできませんから。
政策担当秘書という選択肢
次に、立法機関で弁護士資格を活かす場合、議員だけではなく、政策担当秘書という選択肢もあります。議員秘書は属する議員によって仕事の内容が大きく異1なりますが、純粋に政策担当のスタッフとして活躍している人もいます。ただ、この場合に求められているのは、学者的な専門性ではなく、法律家としての素養・知識をベースに幅広い分野を横断的に見れる能力です。
この分野だけは物凄く詳しいけれど、他の分野については関心がありませんというようなスタッフは、少なくとも現場では全く不必要というか不適切です。法律知識・素養をベースに、年金のことであれ、金融のことであれ、幅広く調査、考察して、説得性のある法律的文章が書けることが求められています。
高度な専門性は外部の識者に頼る形となりますので、政策担当スタッフとしてはきちんとそういう専門家達と話ができることの方が重要です。「あの政策担当秘書に相談すれば、専門家とのネットワークにより形にできる」というように、周りから頼られるようになることが重要だと思います。
一極集中状態からの変容
また、議員として働く場合も政策担当のスタッフとして働く場合も、活躍の場は国政だけではありません。これからの社会として、政権をとる党派、やり方、実現のスピードの違いはあっても、行政改革として地方分権を進めて行くことは必要不可欠です。地方での道路や橋の造成を進めるほどの余裕は、費用的にも人員的にも中央政府にはなくなっていくでしょう。こういう仕事は地方政府に移って、中央政府はどんどん小さくなっていきます。
そして、この地方分権のところで問題となるのが、地方の人材不足です。国会では衆議院法制局と参議院法制局にそのようなスタッフは揃っていますが、地方では法律解釈できる人材が圧倒的に不足しています。地方議会の議員の中には徐々に増えてきていますが、地方政府全体としてはものすごく涸渇しています。
これからは、地方がどんどん権力を持ちます。それに応じて、事実上の立法機能をどんどん担っていきます。これまで中央政府で働いていたような人材は、地方政府での仕事で実力を発揮してもらう形になると思います。
最後に
これからの日本をより一層、法治国家としていかなければならない理由の一つとして、中央政府にも地方政府にもお金がないという状況があります。例えば、大蔵省が銀行を守って倒産させないような「護送船団方式」が以前はありましたが、それはお金があったからできたわけです。今はお金がないわけですから、補助ではなくルール・基準づくりこそ重要です。それは企業だけではなく、国民全体として一層求められてくる部分だと思います。その基準となるのは法律であって、これから法律知識とか素養をもっている人が、非常に重要になってくるはずです。
政治の場に法律的知識を持っている人がもっと入ってきて、しかも法律分野に限定せずに幅広い活躍をしていくべきだと思います。法律的な力を持っている人は、司法だけではなく政治関連でも強く求められています。今、勉強中の方もぜひ将来の選択肢の一つとして考えていただきたいと思います。
【プロフィール】
1964年栃木県宇都宮市生まれ。栃木県立宇都宮高校、東北大学法学部卒。東北大では小島和司先生の憲法ゼミに所属。
1988年司法試験合格。43期司法 修習。東京第二弁護士会所属。選出選挙区は埼玉5区で、5回の当選回数。民主党では政策通として知られ、党憲法調査会長などを歴任。
《現在》
衆議院議員(当選5回、1993年~)
弁護士(1991年~)
衆議院 決算行政監視委員長(2007年~)
民主党 埼玉県総支部連合会代表(2005年~)
埼玉県第5区総支部長(1998年~)
ホームページ:http://www.edano.gr.jp/