法曹資格者の活躍の場は社会の隅々にあります。新しい世界は、司法界の中にも外にも広がっています
岩崎 雄大 先生(弁護士)
「憲法」を通じた出会い
弁護士になろうと志した理由は人並みで、「社会の不条理に泣いている人を助けたい」と思ったからです。それも特に何かきっかけとなる出来事があったわけではなく、新聞やテレビで色々な事件・事故に接するなかで、自然とそのような思いが小さな頃から積み重なっていったのだろうと思います。
ちょうど大学3回生の時に一連の司法制度改革としての法科大学院制度がスタートしたので、「これはチャンス」とばかりに旧司法試験(受験回数はゼロ)から法科大学院・新司法試験に狙いを改めました。それに伴って伊藤塾のコースも適性試験を含めた法科大学院対策コースに変更しました。
なぜ伊藤塾を選んだかといえば、私は六法の中では一番「憲法」が好きだったこともあって各受験指導校の憲法のテキストを読み比べてみたところ、「試験対策講座 憲法」(弘文堂)が大変分かりやすくて内容的にも好感を持ったということが理由です。
「情報の選別」を心がけつかんだ合格
大学時代は土日を利用して大阪梅田校に通っていました。
塾生皆が「できる人」に見え、何度自分も頑張らなきゃと思ったことでしょう。同じ目的も持つ者たちが切磋琢磨するという学習環境はともすると楽をしがちな私には最適でした。
私は、法科大学院入試だけでなく新司法試験においても、情報に埋もれてしまうことは精神衛生上よくないと考えて、大学時代から愛用の伊藤塾のテキストを極めるという勉強法を採りました。周りの法科大学院生のなかには、特に新司法試験直前期になると、焦る気持ちも手伝ってとにかく書籍を買い込む人が多かったように思いますが、私は自分で消化しきれなければかえってマイナスになるだけと思い、常に「情報の選別」を心がけました。
また、基礎(原理・原則・定義・趣旨)は全ての試験において重要です。二回試験でも原理・原則から逸脱してしまうと致命傷となり留年です。法科大学院入試・定期試験・新司法試験・二回試験と一連の法律科目試験を受けてきて改めて基礎固めの重要性を感じます。そういう意味でも当初の伊藤塾のテキストを極めるという私の勉強法はとても効果的なものでした。
「政策担当秘書」という、刺激的な仕事
私は以前から政治に関心があり一人尊敬する政治家もいるのですが、新司法試験合格後・修習開始前に、その方に手紙を出し直接お目にかかるという私にとって大変貴重な経験をしました。その経験から漠然と「政策担当秘書もいいな」と考えるようになっていたところ、ちょうど修習中(徳島修習)に衆院選での歴史的な政権交代が起こり「運命」に似たものを勝手に感じて、勢い千万、法律事務所の内定を辞退し政治の世界に飛び込みました。
政策担当秘書の仕事は一言で言い尽くせないほど様々です。議員が所属する委員会における質問事項の作成や日常的な調査・情報収集・研究というまさしく政策的な仕事から、代理出席・陳情応対・選挙といった必ずしも政策的ではないものまで挙げればきりがありません。ただ、共通していえることは、政策担当秘書はとても刺激的な仕事だということです。
例えば、会議への代理出席一つとっても、官僚や専門家のタイムリーな問題・事件に対する専門的な知見に触れることができ知的好奇心を刺激します。それに政治の世界は常に何が起こるか分かりません。政策担当秘書の仕事はその舞台裏を見聞きすることができるという点である意味「ドラマチック」な仕事であるといえるでしょう。
広がる可能性~法曹三者の枠を超えて
私は、司法修習生の時、司法試験合格者が当然のように裁判官・検察官・弁護士という3つの選択肢から進路を選ぶということに若干の違和感を抱いていました。確かに法律家が司法の世界で仕事をするのは当たり前のことといえるでしょう。しかし、同時に進路は3つに縛られているわけでもありません。
私は、法曹資格者の活躍の場は社会の隅々に広がっていると考えています。例えば、政策担当秘書の場合、委員会における質問事項を作成する際には、方々から必要な資料を収集しそれを読み込むことで質問の骨格を作成していくのですが、この作業をするにあたっては「何が重要な情報なのかを見分ける力」「物事を論理的に組み立てていく力」が要求されます。このような能力が必要とされるということは、まさにその世界が法律家の活躍できる世界であることを示しているといえるでしょう。
「法曹の多様性」を確保するためには、多様な経験を持つ人が法科大学院を通じて法曹となるだけではなく、法曹が司法界以外の世界で活躍をすることもまた必要なことと考えます。特に私は合格前にアルバイトぐらいしか社会経験といえるものはありませんから、合格後に色々な「寄り道」をすることは私自身のためのみならず、ひいては私を生んだ司法制度改革の趣旨にかなうことになるのではないかと思っています。
とはいえ、新しい道に進むということはそう簡単なことではありません。政策担当秘書の場合ですと、例えば、議員は公権力を行使しますが、地元事務所においてその議員のスタッフという立場で法律相談を行うことに問題はないか、といったこれまで整理どころか検討もされてこなかったような問題に日々直面することになります。また、法曹資格者としてある組織に入ったとしても、やむを得ず「郷に入ったら郷に従」わないといけない場面もあるかもしれません。その境界線もデリケートな問題です。
しかし、何はともあれ、挑戦すれば必ず「何か」は得られます。私は、経験とそれに基づく自信、そして何より同じように法曹資格を持って政策担当秘書に挑戦する貴重な仲間を得ました。「あの時決断してよかった」と常々思います。現在、法科大学院受験生、法科大学院生、そして司法修習生を取り巻く状況は以前より厳しいものとなっています。ただ、厳しい状況であるからこそ、閉鎖的ともいえるこれまでの司法界を変えていこうという自己改革的な気運は盛り上がるのだろうと思います。見方を変えれば、今は、その気運に乗って新しい世界にチャレンジするチャンスであるとも言えるでしょう。新しい世界は司法界の中にも外にも広がっています。
(2010年10月・記)
【プロフィール】 2008年 新司法試験合格・司法修習所入所
司法修習所退所後~弁護士登録まで、衆議院議員政策担当秘書を務める
2010年 弁護士登録。東京都内の法律事務所入所
■ 事務所の主な業務内容
主に社会福祉分野
■ 現在の「ある一日のスケジュール」
6:30 起床・朝食
9:00 事務所にて勤務開始
11:00 法廷(公判)
12:30 昼食
13:30 打合せ
15:00 準備書面起案
18:00 接見
20:00 帰宅
(先生のプロフィール等は取材当時のものです)