勤務弁護士で経験を積み、故郷で独立弁護士業務も時代に応じた変化が必要

木野村 英明 先生 (弁護士)

受験生時代から独立を意識

2002年に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に札幌弁護士会に登録しました。私は受験生時代から、地元である北海道帯広で即独立開業する考えていました。しかし、小寺正史弁護士から勤務弁護士での研鑽を強く薦められ続け、後期修習で研修所に戻る直前、就職の道を選ぶ決断をしました。弁護士法人小寺・松田法律事務所(http://www.kmlaw.jp )に就職をした直後から、2年半後に帯広で独立開業をするプランを立て、今回、予定通り釧路弁護士会に登録替えをして独立開業しました。

独立開業の手続き、準備について

独立開業を思い立ったとしても、場所と人と資金がなければ開業できません。また、これらを準備するためには、最低でも半年程度の時間は必要です。私の場合は、開業の6か月前には事務所の場所をほぼ確定し、3か月前に事務員の求人と事務所設計の発注を行い、1か月前に事務員の研修と銀行へローンの申し込みをしました。当初は、余裕をもってスケジュールを組んでいたのですが、実際のところは駆け込みセーフといった状況で、施工業者には相当無理を聞いてもらいました。理想としては、開業の半年前に具体的な事務所の設計に着手しているとよいと思います。もっとも、事務所のレイアウトを考えると言うことは、510年先の事務所経営を想像しなければなりませんから、かなり骨の折れる作業で、半年でも決して余裕はないでしょう私は、前事務所での経験から、5年10年先の事務所の方向性や事務所経営にかかるランニングコスト等を具体的にイメージしやすい環境にあり、独立開業を考える多くの弁護士が直面するであろう悩みをあまり抱えることなく経過してしまいました。ですので、私の例は、かなりスムーズに進んだ例として捉えていただいた方がよいと思います。
この他、弁護士会の登録換え手続や事務所事件の引継等が必要になります。また、事務所の弁護士数が多くない場合は、後任の弁護士確保のため事務所経営者(ボス)に対して早期に希望を伝えておくことがマナーと言えるでしょう。
独立開業は想像以上に準備に手間がかかりますが、自分のやりたいことをやれるのは精神衛生上何にも代え難いものです。そもそも何のために弁護士を目指したのかを考えてみれば、多くの弁護士は似たような答えに辿り着くものだと思います

経済状況を反映した依頼内容

帯広で独立開業して約2か月が経過しましたが、破産・再生・任意整理、破産管財、損保会社側の事件処理、不動産関連事件で全体業務量の8割以上を占めている印象です。刑事事件もありますが、常時1件を抱えている程度です。
北海道は不況を脱する道筋もつかず、債務整理関連の仕事は減りそうもありません。債務整理の事務手続のため、私は当初から事務職員を3名採用しましたが、連日残業が続いている状況です。
北海道は、人口560万人のところに弁護士が約500名います。もっとも、その約8割は札幌市内に集中している状況で、道内地方都市の弁護士の業務量は半端でありません。正直、大自然を楽しむような余裕はないのが実情ですが、その忙しさが北海道の弁護士の魅力だとも言えます

プロとしての求められるもの

弁護士のプロフェッショナリズムは、要件事実と訴訟の見通しに尽きると思っています
。今の時代、内容証明郵便を出したり、簡単な訴訟を起こしたりということは、ハウツー本やインターネット等で知識を仕入れられるため、誰でもできる状況です。そこで、弁護士と素人との違いは、的確に要件事実を捉えた上で、訴訟になった場合の立証の程度を見越して、依頼者にとって一番妥当な解決策を事前に見い出すことができるということだと思います。「他人にできないプロとしての仕事をする」というプライドを持ち実践することは、業務を行う上で非常に重要です
また、私の場合、今までは事後処理的な仕事が多く、依頼者と喜びを分かち合えるような場面は多くはありませんでした。一日も早く、そういう弁護士になりたいと思う半面、感情移入し過ぎれば冷静かつ的確な判断ができない場合もあり、逆に依頼者のためにならないこともあるでしょう。最適な判断をするためにも、バランス感覚を大切にして業務に臨むことが大切だと思います

弁護士人数増加の中、必要となる力

今後、弁護士人口が爆発的に増加しますが、弁護士業に対しては楽観的な見方をしています。
確かに、旧来の弁護士業務には自ずから限界があり、この殻に閉じこもろうとする弁護士には困難な将来が待っているかも知れません。また、旧来の法曹時間 (解決までに必要とされる時間)にとらわれて、世の中のスピードの変化、要求の高度化についていけない弁護士も大変でしょう。
しかし、弁護士は専門的知識さえあれば、他の職務領域に容易に手を広げることができます。また、弁護士人口の増加は業務のスピード化、高度化を図る上では、この上もないチャンスだと思います。私としては、異業種との連携も含めて、依頼者のニーズに応えることができる事務所を少しでも早く作り上げたいと考えています

■Profile
2002年 司法試験合格
2004年 弁護士登録
2007年 木野村英明法律事務所開設

■事務所プロフィール
木野村英明法律事務所
〒080-0010 北海道帯広市大通南9-4 帯広大通ビル1階
http://www.kinomura-law.jp/  

■所属弁護士数
1名(2007年6月時点)

■主な業務内容
民事一般、債務整理、家事、刑事、企業法務等

■現在の「ある一日のスケジュール」
 07:00  起床、朝食
 08:00  出勤
 08:30  被告人と接見、宅下げ書類の受領
 10:00  被害弁償に行く予定が直前にキャンセル
 11:00  新規相談 個人再生受任
 12:30  昼食(事務員に弁当を買ってきてもらい15分で終了)
 13:30  新規相談 自己破産受任
 15:00  破産管財人となった法人の代表者との打ち合わせ
 16:30  土地明渡請求事件の相手方との交渉
 17:30  依頼者(使用者側)の組合との交渉に立ち会い
 20:00  帰宅、食事、入浴(普段よりかなり早い)
 24:00  就寝