ゼロワン地域での多忙な業務の中、感じる弁護士としての役割の大きさとやりがい

大窪 和久 先生 (弁護士)

「ゼロワン地域」での貢献を目指して

私は弁護士登録(2003年10月)した後、「弁護士過疎対策供給型A協力事務所」である東京の桜丘法律事務所に入所しました。この「供給型A協力事務所」というのは、新人弁護士を採用し、一定期間実務経験を積ませた上で弁護士過疎地に派遣する法律事務所のことをいいます。日本の中には地方裁判所の支部があるにも関わらずその管轄内に弁護士が0人あるいは1人しかいない「ゼロワン地域」が多数あります。これを解消するため日弁連は弁護士過疎地域に「公設事務所」を設立する取り組みを行ってきました。この公設事務所等に人を派遣するため、現在多数の法律事務所が協力事務所として取り組みを行っています。
私が弁護士過疎地で働こうと思ったのは、司法修習中に実際に地方で働く弁護士の話を聞かせていただき、弁護士が必要とされているにも関わらず弁護士がいない場所がたくさんあることを知ったのがきっかけです。そして、もっとも弁護士が必要とされている「ゼロワン地域」にある公設事務所で仕事をやってみたいと思い、供給型A協力事務所である桜丘法律事務所に入所したのです。

紋別ひまわり基金法律事務所での業務

私は桜丘法律事務所で1年4ヶ月ほど研鑽を積ませていただいた後、2005年4月から紋別ひまわり基金法律事務所の3代目の所長として業務を行っています。 紋別市は人口2万5,788人(2007年3月現在)の、オホーツク海に面する港町です。市内には旭川地方裁判所紋別支部があり、管轄人口は4万人弱です。この紋別市からは本庁のある旭川市まで140キロの距離があり、自動車以外の交通手段はなく冬場は片道3時間もかかります。そのため、住んでいる方々にとって司法サービスへのアクセスは困難と言わざるを得ません。そのこともあってか、紋別では多数の方に相談に訪れていただいております。弁護士過疎地の弁護士に共通して言えることだと思いますが、とにかく相談及び依頼の数は多いです。私も東京にいた頃の数倍の事件を抱えており、多忙な日々を送っております。特に多重債務に苦しむ方の相談は非常に多いです。弁護士過疎地での業務は多忙でありますが、それだけ人に必要とされているということであり、必要とされる中で業務を行えることは弁護士冥利に尽きます

弁護士業務の大きな価値とやりがい

紋別において、多重債務で苦しみ私に債務整理の依頼をされる方の中には過払金(利息制限法規定の利率に引き直した場合に払いすぎた利息のこと)を有している方が本当に多いです。私は債権調査の結果、過払金があると判断する場合には、交渉や訴訟で消費者金融から過払金全額を回収するように努めていますが、その結果、破産をすることなく再起することができた方も少なからずいます。弁護士がいなければ、破産を選ばざるを得なくなり、例えばそれまで経営していた店舗を手放したり業務を諦めたりしなければならなかったかも知れません。
自分の仕事により、自分の住む町の人の人生をより良い方向に動かすことができるのは、本当に大きな価値のある仕事だと思いますし、やりがいがあります

必要とされるプロフェッショナリズム

弁護士はバッチを付けた瞬間から、プロとして依頼者の為に全力を尽くさなければなりません。そして、弁護士の少ない地域にいる弁護士は、自分がその地域にとって数少ない「法の担い手」ですから、その責任はより重大です。自分が法律家の「顔」となっていることを忘れてはなりません。また、訴訟においては東京の弁護士と最先端の論点につき争うこともありますので、日々の研鑽は欠かしてはならないと思います。

伊藤塾で得たもの

私は大学3年生の時から受験を意識して勉強をしていましたが、論文を書くイメージを掴みたかったことから、大学4年生の時に「応用マスター」「論文マスター」を受講しました。以来、合格後の「スタディツアー※」に至るまで伊藤塾にはお世話になっています。伊藤塾は、単なる合格だけではなく実務を意識した講義・企画を行っているのが素晴らしいと思います。特に合格後に参加させていただいた「スタディツアー」では、自分が日本で法律家としていかに生きていくか見つめ直し、視野を広げる良い機会になりました。合格した後には、ぜひ参加されることをお奨めいたします。
 
※伊藤塾が毎年秋~冬に実施しているスタディツアー(視察旅行)。訪問先は沖縄、中国など。その地が抱える問題点を自分の目で見たり、現地の方にお話を伺ったりする中で、自分の頭で考えて判断するという、法律家に必要な力が鍛えられます。

これから法律家を目指す皆さんへ

私は2008年4月に紋別ひまわり基金法律事務所の所長職の任期を終える予定ですが、その後も弁護士過疎地に住む方へ良質な司法サービスを提供することに資するような業務を継続したいと考えています。
今後弁護士の数は従来に比べれば増加しますが、それでも東京や大阪に弁護士が集中し、地方には相変わらず司法サービスの担い手が不足する構図は変わらないかも知れません。皆様が合格した後にはぜひ、地方の弁護士として地域の方々の為に働いていただければと思います。

【プロフィール】
2001年 司法試験合格
2003年 弁護士登録
桜丘法律事務所入所
2005年4月~ 紋別ひまわり基金法律事務所3代目所長として赴任中

■事務所プロフィール
桜丘法律事務所
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町17-6 渋谷協栄ビル3階
http://www.sakuragaoka.gr.jp/  
紋別ひまわり基金法律事務所
〒094-0004 北海道紋別市本町4丁目 紋別経済センター2階
http://www.monbetsuhimawari.sakura.ne.jp/  

■現在の「ある一日のスケジュール」
 【出張のない日】
 07:00  起床
 09:00  出勤、執務開始
 10:00  法律相談(離婚事件)
 11:00  法律相談(消費者問題事件)
 12:00  昼食(事務所近くの店でとる)
 13:00  法律相談(債務整理事件)
 14:00  法律相談(請負事件)
 15:00  法律相談を予定していたがキャンセル 時間空いたため起案
 16:00  法律相談(離婚事件)
 17:00  依頼者との打ち合わせ
 18:00  依頼者との打ち合わせ
 19:00  準備書面の起案
 21:00  夕食
 23:00  起案を終えて帰宅
【出張のあった日】
 07:00  起床
 07:30  釧路地方裁判所北見支部(紋別から距離100キロ)まで車で移動
 09:30  釧路地方裁判所北見支部に到着
 10:00  損害賠償事件の弁論期日
 11:00  不当利得金返還請求訴訟の弁論期日(計14件)
 12:00  遠軽簡易裁判所(紋別から距離60キロ)まで車で移動
 13:00  遠軽簡易裁判所に到着 昼食
 13:30  調停事件
 15:00  調停終了 紋別まで車で移動
 16:00  紋別に到着
 18:00  刑事被告人に接見(紋別警察署)
 19:30  夕食
 20:00  書面の起案
 22:00  起案を終えて帰宅