法曹資格も、各界で活躍するための有用なツール。プラスαアピールできるものを身につけておくことがカギ

大達 一賢 先生(弁護士)

渉外事務所での業務

私は2005年に旧司法試験に合格し、現在は渥美坂井法律事務所・外国法共同事業といういわゆる渉外法律事務所で、2010年の年末までアソシエイト弁護士をしておりました。同事務所は、クロスボーダー取引を含め、M&A、SPCを利用した証券化等のファイナンス案件、一般企業法務、訴訟等、幅広い業務を取り扱っている事務所です。 渉外事務所時代には、担当案件のほとんどが複数の弁護士を必要とするものであることから、私の業務としては、チーム内において契約書の作成やリーガルリサーチ、会社設立に伴う書面作成の担当が中心でしたが、訴訟案件や、ときに執筆等もあり、内容は多岐にわたりました。日頃から深夜早朝帰宅が当たり前といわれる渉外弁護士ですが、案件が大詰めとなった頃はそれがピークを迎え、徹夜、泊まり込みも当たり前になります。しかし、案件が無事終了し、クライアントから感謝の言葉をいただいたとき、またその案件が新聞等で報道されているのを見た際には労が報われます。そしてホッとするのもつかの間、また新たな仕事が舞い込んでくる、そんな日々でした。
また、渉外事務所時代には大手証券会社の投資銀行部へ1年間の出向も経験し、M&A業務の最前線で、いわばクライアント側に立ちつつも法律専門家としてどのようなアドバイスをすべきかについて貴重な経験をすることもできました。

“弱い人を助ける正義の味方”目指して

そんな渉外事務所時代を過ごした私ですが、当初弁護士を目指したきっかけは、企業法務とは全くの無関係なものでした。
幼い頃“正義の味方”に憧れていた私は、「おまわりさん」になりたいと思っていました。しかし、韓国籍の在日コリアンである自分は「おまわりさん」にはなれません。母親からそのことを知らされ、あえなく夢は潰えましたが、同時にこうも言われました。
「でも弁護士さんにならなれるはず。」
弁護士、幼い私にとっては初めて聞く言葉です。それまで将来なりたいものと言えば、プロ野球選手やパイロット、お医者さんなどでしたが、初めて聞く職業に興味が湧き、それってどんな人なの?とさらに問いかけました。「弁護士さんっていうのは、弱い人を助ける正義の味方みたいなものかな。」との母の答えを聞いた私は、その響きのとりこになりました。スーパー戦隊ヒーローを目指すような感覚で、正義の味方になるんだ!そんな漠然とした憧れが、私が弁護士を目指そうと思ったきっかけでした。

合格への有用なツール

受験勉強を始めた頃は、右も左もわからず、「やめたい」と思ってばかりでした。しかし、そこで本当にやめてしまうことと、それでも続けるというのには大きな違いがあります。私の場合続けられたのは、自分が当初抱いた法律家になりたいという志に嘘をつきたくなかったからです。
司法試験という異世界の勉強に右往左往していた私にとって、伊藤塾の講義は非常に手助けになりました。私のように法学部以外に通っていた人間にとっては、そもそもの法律用語からして解説が必要ですし、何を使って勉強していいのかもよくわかりません。伊藤塾では入門講義テキストを用いて、伊藤塾長がわかりやすい言葉で講義をしてくれたおかげで、異世界が少しずつ見慣れた景色、近所の景色となり、最後は自分の血肉になってきたような気がします。
また、私は大学卒業後実家に戻り受験生活を続けていたため、どうしても生活のペースを崩しがちだったのですが、それを防ぐためにも伊藤塾の講義や答練を利用していました。
伊藤塾に通っていたことは、私にとって合格という最終目的地に達するための有用なツールとなりました。

法律知識を駆使して各界で活躍する 

そこかしこで弁護士の就職難が大きく取り上げられていますが、少なくとも、私が何らかの形で関わりを持った若手法律家たちは、就職などでそれぞれの活動の場を確保され、現在立派に活躍されています。
私はやるべきことをきちんとやり、身につけるべき能力を身につけた人については、必ず結果が伴うと確信しています。
司法試験に合格することは前提として、自分が関心を強く持って取り組んできた、または取り組みたい法分野を作ることや、外国語能力、社会人経験など、司法試験合格にプラスαでアピールできるものを身につけておくことが、この就職難を乗り切るカギと考えています。それは、ひいては就職という場面のみならず、新たな法曹像を生み出すことにもつながると考えています。すなわち、法曹=法律を使って法曹界で仕事をする人、ではなく法曹=法律知識を生かして各界で活躍する人、になるべきであるということです。伊藤塾は司法試験合格のための有用なツールであると述べましたが、法曹資格も各界で活躍するための有用なツールとすることが、合格後の成功の鍵といえるのではないでしょうか。

最後まであきらめずに

辛くなったときには皆さんが今こうして自分のなりたいものに向かって勉強できるということの喜びを考えてみてください。世の中にはいろんな事情で自分の夢を諦めた人たちがたくさんいます。私も大学在学中に父親を亡くしたときには、司法試験を諦めなければならないかと一瞬覚悟しましたが、幸いにも勉強を続けることができ、弁護士になることができました。ときには弱音を吐くことも、息抜きしたりすることもいいでしょう。ただ、最後まで必ずあきらめることなく、自分の限界まで頑張ってみてください。そうすれば必ず結果はついてきます。努力とは正直なものです。いつの日かなりたい自分になっている自分を思い描きながら、精一杯頑張ってみてください。
現在の私は、渉外事務所での3年余りの経験を踏まえ、本年より新都心綜合法律事務所にて日々仕事に取り組んでいます。たった数か月ですが、新たな事務所ではいわゆる企業法務に加え、大小問わず個々の依頼者たちが抱える様々なトラブルや、新たな事業の船出に法律専門家として関わるなど、実に幅広い業務を取り扱っています。渉外事務所時代と比べれば、現在の事務所では私を含め弁護士が4人という遥かに小規模な事務所ですが、私以外の3名の大ベテランの弁護士が、自らの信念に基づき日々仕事にあたっております。そして、私も同様に対等な独立した弁護士として、日々他の弁護士と議論を酌み交わし、自らが描いていた理想像を自分なりに追い続けながら充実した日々を過ごしています。「正義の味方」と単純に言い切れるような仕事ではないことはわかっているつもりですが、弁護士法1条の理念に則り、せっかく思い描いた理想像を最後まであきらめずに追い求めていきたいと考えています。
そして、そう遠くない将来、皆さんが司法試験を突破され、同じ法曹としてお互いに切磋琢磨できる日を楽しみにしています。ともに頑張りましょう。
 
(2011 年4 月・記)

【プロフィール】
2001年 早稲田大学政治経済学部卒業
2005年 名古屋大学法科大学院入学
2005年 旧司法試験最終合格
(同年度 名古屋大学法科大学院中退)
2009年 大手証券会社投資銀行部へ1年間の出向
2007年 司法修習 修了、渥美総合法律事務所(現・渥美坂井法律事務所)
2011年1月より新都心綜合法律事務所に移動

■ 事務所プロフィール
新都心綜合法律事務所
〒1 6 3 - 0 6 3 4 東京都新宿区西新宿1丁目25番1号 新宿センタービル34階
http://www.shintoshin-law.com/ 
■ 当事務所の所属弁護士数
4名

■ 事務所の主な業務内容
相続・遺言業務、保険業務、企業法務、家事、刑事、交通事故、債務整理等の一般的業務