薬害肝炎訴訟で国との和解が成立した日、仲間との祝杯は格別なものがありました
徳田 宣子 先生(弁護士)
地元に近い福岡の法律事務所へ
私は大分県の別府市出身です。大学入学と同時に東京に行きました。そして、どこで弁護士としての第一歩を踏み出そうかと考えた時、実家からも近く、一度住んでみたかった街、福岡が頭に浮かびました。 そうはいっても、地縁のない場所。しかも実務修習地も福岡ではありませんでした。インターネットで就職情報を探しても、なかなかイメージはわきません。伊藤塾で知り合った友人が福岡で実務修習をしていることを思い出し、いくつかの事務所を紹介してもらいました。そして、ちくし法律事務所に出会いました。熱意あふれる先輩弁護士。上下関係のない気さくな雰囲気。夜中の3時まで屋台でお酒に付き合ってくれた姉弁の存在。私はどうしてもこの事務所で働きたいと思いました。一晩考えてもその思いは変わらず、翌朝には入所希望のメールを送りました。
ちくし法律事務所の特長
ちくし法律事務所は、福岡市の南側、福岡地裁本庁と久留米支部の中心あたりに位置する筑紫野市二日市というところにあります。裁判所までは、電車に乗って40分ほど。我が事務所の最大の特長は「地域事務所」というところにあります。私が事務所訪問した時に所長が言いました。「弁護士にとって都合がいいからと裁判所近くに事務所を構えて依頼者に相談に来てもらうのではなく、弁護士自ら依頼者の近くに行き、地域に根ざし、地域の方に信頼してもらえる事務所を作りたかった」その言葉の通り、事務所には地域の方が相談に来られ、弁護士も地域に根ざした活動を行っています。我が事務所のもう一つの特長は各弁護士が集団事件に取り組んでいるという点にあります。私が参加しているのは、薬害肝炎訴訟、B型肝炎訴訟ですが、他の弁護士も、中国人強制連行訴訟、残留孤児訴訟、ハンセン訴訟など様々な事件に関わっています。
現在の主な業務内容
私が現在関わっている仕事は大きく四つに分けられます。まず、事務所に来る一般事件です。地域の方々から様々な相談が来ます。特にちくし法律事務所のある地域には女性弁護士が少ないことから、女性ならではの事件、離婚事件やDV事件、犯罪被害者の相談が比較的多いことは、私の特徴だと思います。次に薬害肝炎訴訟やB型肝炎訴訟といった全国規模の大型集団訴訟があります。全国各地を裁判や会議のために飛び回りますし、国会議員に要請に行ったり、厚生労働省と協議をしたり、一般事件では体験できないことをたくさん体験させてもらっています。自分の興味のある分野や得意分野を活かした専門訴訟もあります。私は医療問題に興味があることから、医療過誤訴訟を多く手掛けるとともに、九州山口医療問題研究会の幹事を務めています。また、子どもの人権に携わっていきたいという思いから、いじめ事件や教師による体罰事件などにも積極的に関わっています。また、福岡県弁護士会は、全国に先駆けて当番弁護士制度を立ち上げた弁護士会であり、近年では少年の身柄事件には原則的に全件付添人※1を付けるという当番付添人制度を全国で初めて立ち上げました。そのため、他県の弁護士に比べて、少年事件が多いというのも私の特徴だと思います。
やりがいを感じる瞬間
日々様々な業務に追われていますが、時にはやりがいを感じる瞬間もあります。
弁護士は、人の人生の大切な瞬間、人に変化が訪れる瞬間に立ち会え、関われる仕事だと思います。いくつも頭に思い浮かぶ場面があります。一人息子を医療過誤で亡くしたお母さんが和解を受け入れ、病院からの謝罪を受けた時のこと。家出を繰り返し虞犯※2で鑑別所に入った少女が審判廷で「私は自分の人生をまだ諦めたくない」と泣いた時のこと。「先生に出会えて良かった」と言ってくれた刑事事件の被告人。離婚事件が解決した後の依頼者の吹っ切れた笑顔。そして、薬害肝炎訴訟で国との和解が成立した日。薬害肝炎訴訟は私が弁護士になった当時から始まった事件で、何より思い入れのある事件です。そんな日の夜に気心の知れた仲間とお酒を飲むのが何よりの至福の時です。
伊藤塾で得たもの
私が司法試験の勉強を始めようと決めた時、伊藤塾はできてまだ半年でした。実績もまだできていない学校、小さなビルと教室、でも逆にそこに魅力を感じました。伊藤塾が大きくなるにつれて、着実に私にも力が付いていったように思います。伊藤塾は、それまで漠然と考えていた、人が幸せになりたいと願うこと、平和な世の中を願うこと、それが憲法や法律で裏付けされているということを教えてくれました。それは、今の私の仕事にも結びついていると思います。
これから法律家を目指す方へ
これからもじっくり一つひとつの事件と向き合い、どの事件もどの依頼者との関係も大切にしていきたいと思います。仕事に慣れようが、弁護士が増えようが、その初心は忘れずにいきたいです。これから、たくさんの方が弁護士になられると思います。伊藤塾からも多くの方が弁護士になっていくでしょう。共通する悩みと理想を抱えて、一緒に仕事をし、夜は祝杯をあげてくれる仲間が増えることを心から期待しています。
(2008年5月・記)
※1 付添人 家庭裁判所に事件が送られてから家庭裁判所の処分が決まるまでの間、少年につく弁護士のこと
※2 虞犯(ぐはん) 犯罪を起こす虞れ(おそれ)のあること。少年犯罪では、法にふれる状態でなくても、今後犯罪を起こす可能性が高いと見受けられる場合は保護処分の対象となる。
■Profile
2000年 司法試験合格
2001年 司法研修所入所
2002年 弁護士登録
ちくし法律事務所入所
■事務所プロフィール
ちくし法律事務所
〒818-0056 福岡県筑紫野市二日市北1-3-1
http://www.geocities.jp/chikushi_lo/
■所属弁護士数
6名(2008年5月時点)
■当事務所の主な業務内容
一般民事・商事・家事事件等
■現在の「ある一日のスケジュール」
07:00 起床
09:00 出勤
09:30 執務開始、事務局との打合せ、メールチェック
10:00 新規相談
11:00 訴訟打合せ
12:30 昼食・移動
14:00 鑑別所で少年と面会
16:00 地裁で弁論準備期日(会議まで喫茶店で仕事と読書)
18:00 集団訴訟会議
21:00 懇親会
23:30 帰宅
01:00 就寝