依頼者を最良の方向に導いたとき、勝訴判決を得たときの感動は、他では得がたいものです

椿 浩明 先生(弁護士)

倒産、紛争解決業務に携わって

私は、大学に入学するとともに伊藤塾に通い始め、大学3年生の時に旧司法試験に合格し、大学卒業後14か月の司法研修所での修習期間を経て、現在森・濱田松本法律事務所に所属し、2年目の弁護士として業務を行っています。 当事務所は、現在、弁護士約300名を擁する事務所で、M&A、ファイナンス(投資、資金調達)、会社法務、行政対応、倒産、訴訟、知的財産等多岐にわたる業務分野を取り扱っており、私は、主に、倒産、訴訟を含む紛争解決の業務に携わっております。
私が関わった案件には、自己所有の土地を貸している賃貸人の依頼者から、賃借人が土地の賃料を3か月間支払わないので、それを回収したいという法律相談の案件や、連日ニュース番組や新聞等で取り上げられた事件に関係する100億円を超える損害賠償請求訴訟が提起され、その被告が依頼者であるところ、当方には一切非がないため、一銭も支払わない旨を主張する案件など様々な規模、種類の案件があります。


法曹を志した理由について

高校3年生のときに、将来自分がどのような仕事をしたいか考える機会がありました。その際に、将来の仕事について今の自分はこの仕事がしたいというものが特別になく、また、世の中にはどのような仕事があるかほとんど知らず、あるいは知っていたとしても、その具体的な仕事の内容についてほとんど知らない今の時点ではおよそ将来の仕事を決めることができない、ただ一方で、時間に比較的余裕のある大学時代に、仕事に関して何もしないというのは極力避けたく、少なくとも今後この仕事がしたいと思った時にその仕事が選択出来るように選択肢を広げておく何かをしたい、と考えるに至りました。例えば、資格試験の中で最も難しいといわれる司法試験に合格すれば、弁護士、検察官、裁判官になれることのほか、就職難といわれる状況下でも、これを1つの武器として、民間企業に就職することが容易になるのではないか、などと高校生の自分なりに、未熟ながら考えたことが司法試験受験を決意するひとつのきっかけになりました。
そのため、司法試験合格を目指したのも、もともと弁護士になりたかったといった動機ではなかったのですが、伊藤塾で受験勉強をしていくうちに、様々な判例に出会い、世の中には、実に多くの不合理な民事事件、刑事事件があり、これらの事件は、最終的には、法律という道具を用いてどのように解決されるかについて具体的に知り、法律家の意義、その仕事のダイナミックさ、重大さというものに徐々に興味が湧いてくるようになりました。
私は、現在、弁護士2年目ではあるものの、弁護士が、絶対的に楽しい職業であると感じており、早い段階で司法試験の受験を決意していて本当に良かったと思っております。


学んだ判例を業務に活かす

私の仕事では、ダイレクトに、民法、商法、会社法等、六法を用いることが多々あり、そのため、伊藤塾で学んだことがそのまま業務に活きていると感じます。
例えば、依頼を受けた事件と類似した判例を調査検討しなければならないときに、なかなかそれが見つからない場合があります。
しかし、そういうとき、この事案は要するにこういう事案で、この問題点におけるこういった発想がポイントであると分析し、この発想は、受験時代に触れたあの判例と似ているかもしれない、といったところから出発し、受験時代に用いた択一マスターのテキストを見て、判例を確認し、判例の年月日から、詳細な判例の内容を調査検討し、最終的に、その検討結果を依頼者に報告することがあります。
このときばかりは、受験生のときに、重要な判例を網羅した伊藤塾長の最新判例講義や択一マスター民法を何度も聴いて、努力したことが報われたような気がして、心の底から勉強して良かったと思いました。

弁護士に必要な力

私が弁護士になった直後に学んだことは、当たり前ではありますが、「書面や口頭で表現する際には、より適切な言葉を用いて行わなければならない」ということです。
私は受験時代、試験に合格するために適切な言葉を使う努力を自分なりにしてはいましたが、試験勉強のみでは、仕事に必要とされる、適切な言葉を用いなければならない力を修得できていませんでした。というのも、試験勉強では「問いに答える」ことが全てであるのに対し、仕事では「問いの答え方」がとても重要であるという相違点があるからだと思います。
弁護士は、裁判官や公認会計士、依頼者である会社の担当者、会社の代表取締役など様々な立場の方と接する機会がありますが、どの立場の方と接するときも、誤解を与えないよう、その方々に応じて、話す内容の伝え方を考えなくてはなりません。例えば、依頼者には法律用語を全く知らない方もいれば、法律の基本的な知識をおさえている会社の法務部の方もいらっしゃいますから、各依頼者に合わせて、適切な言葉を用いなければならず、わかりやすく説明するための工夫の仕方を変える必要もあります。
また、裁判官に対して、書面で当方の主張を行う際にも、言葉のもつニュアンス次第で、当方が主張している内容について裁判官が異なる印象をもってしまい、ひいては当方が主張する事実と異なる事実を認定してしまう可能性があるので、これを極力避けるように、かといって文章を長く書きすぎてポイントが読み取りづらくならないように表現には特に注意しなければなりません。
より適切な言葉を用いる力というのは、弁護士には必須の力だということを学びました。

弁護士業務の責任とやりがい

弁護士という職業は、裁量の広い仕事の一つだと思っています。依頼者の意向により、弁護士がそのとおりの仕事を行わなければならないのは、いわば当然のことですが、法的な観点から、このようにする必要がある、このようにした方が良い、これをしてはならない、といったアドバイスを行い、当該案件について依頼者を最良な方向へ導くことというのは、責任が重大である一方で、非常にやりがいがあり、とても楽しい仕事です。特に、訴訟では、勝つか負けるか微妙な事案で、勝ったときの感動は、他では得がたいものがあります。
このようなことは、実際に仕事をしてみないと分からない部分がほとんどだと思いますが、少しでも法曹の仕事に対するイメージの参考になれば幸いです。
 
(2010年11月・記)

【プロフィール】
2006年 司法試験合格
2008年 早稲田大学法学部卒業
2008年 司法研修所入所
2009年 弁護士登録
森・濱田松本法律事務所入所


■ 事務所プロフィール
森・濱田松本法律事務所
(東京オフィス)
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丸の内パークビルディング
(北京オフィス)
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http://www.mhmjapan.com/
■ 当事務所の所属弁護士数
296名(2010年12月現在)
■ 事務所の主な業務内容
M&A /企業再編、ファイナンス(投資・資金調達)、会社法務、
規制/行政対応、事業再生/倒産、訴訟/紛争解決、IT /知的財産、
税務、中国/諸外国等