第18号 難民保護法

有馬 みき(東京大学 難民移民ドキュメンテーションセンター 特任研究員)

先日 7 月 21 日に参議院選挙がありましたが、日本の国会が難民分野で国際的に高く評価されたことのひとつとして、2011 年 11月に採択された難民保護に関する決議を挙げることができます。
 この決議では「難民保護の国際法及び国際的基本理念を尊重し、日本は国際的組織や難民を支援する市民団体との連携を強化しつつ、国内における包括的な庇護制度の確立、第三国定住プログラムの更なる充実に向けて邁進する」ことが宣言されています。
また「対外的にも従来どおり我が国の外交政策方針にのっとった難民・避難民への支援を継続して行うことで、世界の難民問題の恒久的な解決と難民の保護の質的向上に向けて、アジアそして世界で主導的な役割を担うべく、右決議する」と述べられています。
この決議は難民条約発効 60 周年を記念して、衆参両院において全会一致で採択されたものです。
 このような国会決議は世界でも初めてのもので、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や認定 NPO 法人難民支援協会は当時、決議採択を受けて次々と歓迎のステートメントを発表しました。
確かに決議の内容は素晴らしいものですが、残念ながらこの決議自体には法的拘束力はありません。
この決議で謳われているような「国内における包括的な庇護制度の確立」を真に実現するためには、法を整備する必要があるでしょう。

 現在の日本においては、難民に関する事項は主に「出入国管理及び難民認定法」に規定されており、難民認定も法務省入国管理局が所管しています。
難民の受け入れは外国人の入国滞在に関わることなので、出入国管理行政の一部として扱うのが合理的である、との考えにも一理あります。
他方、難民に関しては、通常の出入国管理とは異なる「保護」の視点が必要とされるため、出入国管理法から独立した「難民保護法」の制定を求める動きがあります。
 「難民保護法」の制定など非現実的だと思われるかもしれません。
確かに日本の現状では難民問題は票に結びつきにくく、前の選挙でも難民保護はまったく話題になりませんでした。
しかしながら世界に目を向ければ、先例はたくさんあります。
たとえばアメリカの「難民法」、オーストリア、ルーマニア、ハンガリーの「庇護法」、フランスの「庇護権に関する法律」、スロベニアの「国際保護法」など、名称は様々ですが、いずれも出入国管理に関する法律とは別の法律として難民保護に関して定められたものです。
あるいはドイツのように、憲法にあたる「基本法」において政治的庇護権を規定する国もあります。
韓国は最近まで日本とよく似た状況にありましたが、新たに「難民法」を制定し、同法は本年(2013 年)7月に施行されました。
国連の「難民の地位に関する条約」に加盟するアジア諸国の中では、難民の認定と処遇に特化した法律を設けて施行するのは韓国が初めてになります。
韓国の動向は日本の難民に関する法制度のあり方に少なからず影響を与える可能性があります。

 いうまでもなく、大切なのは法律の名前よりも中身です。
とはいうものの、現行の「出入国管理及び難民認定法」の改正を重ねるだけでは修正しうる範囲に限界があるのも事実です。
たとえば日弁連やなんみんフォーラムといった団体は、難民認定制度を実効性あるものにするため、入国管理や外交政策を所管する省庁から独立した、異議申立機関の設置を求めています。
しかしこのような抜本的な制度改革を実現するためには、おそらく新たな法律が必要になると思われます。
もっとも難民保護に関する国会決議が全会一致で採択されたことをふまえれば、近い将来、日本でも「難民保護法」が実現する可能性は否定できません。
いずれにせよ国会決議でのべられたような難民保護への取り組みをいかに具体化していくか、真剣に検討する必要があると思います。


 
伊藤塾塾便り216号/HUMAN SECURITYニュース(第18号 2013年8月発行)より掲載