第40号 それでも頑張るCDR:難民と国際的保護のアジアネットワーク(ANRIP)と「難民政策プラットフォーム」の始動

佐藤 安信 東京大学教授

本年3月の塾便りでお知らせしましたとおり、株式会社法学館による東京大学寄付講座「難民移民(法学館)」は、本年3月31日をもって終了しました。
しかし、同講座に支えられたCDR(難民移民ドキュメンテーション・プロジェクト)は、東京大学グローバル地域研究機構持続的平和研究センターのプロジェクトとして引き続き活動をしています。
予算がないため活動は制限されますが、これまでの成果を基にできたネットワークを駆使して、さらに悪化する難民や移民の課題に対して取り組んでいます。 昨秋のCDRサマースクールに参加した韓国の裁判官、香港入管幹部職員、フィリピン政府幹部、アテネオ大学ロースクール学部長、ニュージーランドの裁判官 らと、国連難民高等弁務官(UNHCR)の東京を含む各地域代表事務所の担当者が、難民と国際的保護のアジアネットワーク(ANRIP)という国際的な ネットワークを設立しました。
初代代表は、全国難民連絡協議会で活躍されている宮内博史弁護士です。
ほぼ毎月、東大駒場キャンパスにあるCDRのオフィスでスカイプによる国際会議を進めてきました。
各国地域における難民認定のための、難民出身地国情報(COI)収集についての実務に関する報告をしていただくなどの研究活動ばかりでなく、今後アジアに おける難民保護のための連携協力活動について意見交換をしています。この度、第二回の大会を来年1月28、29日にマニラで開催することになりました。
他方、本年2月28日に開催した寄付講座終了記念セミナーでその設置を宣言した難民政策プラットフォームも、座長の滝澤三郎東洋英和女子学院教授(3月まで寄付講座の本学特任教授)のアレンジで第二回の公開セミナーを8月1日に駒場キャンパスで開催しました。
法務省入国管理局難民認定室長から同審判課長に昇進された君塚宏さんと、寄付講座事務局長として活躍された山本哲史さん(4月から神奈川大学法学研究所客 員研究員で、8月から名古屋大学の特任教員としてウランバートルに赴任)を講師として、現在進んでいる入国管理難民認定法改正の目玉の1つとされる、いわ ゆる補完的保護を中心に、日本の難民保護のあり方について議論いただきました。
コメンテーターとしては、国際移住機関(IOM)の橋本直子さんと、難民支援協会の石川えりさん、UNHCR駐日事務所の榛澤祥子さんが参加され、最大収 容者60名のセミナー室に100名を越える参加者が詰めかけ、立ち見が出ながら、この真夏の暑さに負けない熱い議論が展開されました。
高校生ばかりか中学生も参加して、フロアからの質疑も混ぜて、率直で建設的な議論が展開されました。
その後のレセプションでは、ウランバートルに旅立つ山本さんと、やはり8月に英国留学に旅立つ橋本さんへの花束贈呈が行なわれ、彼らの活躍をねぎらいつつ、新天地での新たな活躍によるCDRの世界的な連携への期待がふくらみました。
オーストラリアや名古屋などの遠方から参加された方もあり、国内外にCDRの活動の輪が広がっていることを実感します。
世界的通信社のライターの記者も2名参加され、今後の具体的な協力も期待されます。
中高学生の参加は、その前に週におこなわれた、NPO法人「人間の安全保障」フォーラム(HSF)の模擬国連に参加する高校生対象の出張講義の成果です。 今年のテーマである移民と難民について学ぶ高校生に対し、滝澤さんと私に加えて、ミャンマー難民のチョウチョウソウさんがファシリテーターとしてコメント しました。
このような高校生たちが、実際の難民政策に関心をもって参加してくれたのは、今後の日本の難民政策の発展の大きな一歩になるものと確信しています。
CDRはこのように、多くの方々に支えられながら、引き続き難民移民の保護とエンパワーメントのための国内外の連携を推進し、より良い政策とその実施のための関係者間の情報意見交換のための対話の場を提供して参る所存です。
今後は、政府や弁護士、市民社会ばかりでなく、難民問題の最終解決のためのキーとなるビジネスの役割を考えながら、企業などにも参加を呼びかけて参るつもりです。ぜひ、皆さんも引き続き、CDRの活動に参加してください。( 編集追記 )
 
本年9月19日(土)18時30分から伊藤塾東京校にて実施する「明日の法律家講座」講演会では、本稿を執筆いただいた佐藤安信教授にご登壇いただく予定です。詳細は塾便り9月号、また伊藤塾ウェブサイトに掲載いたします。


 
伊藤塾塾便り240号/HUMAN SECURITYニュース(第40号 2015年8月発行)より掲載