明日の法律家講座 東京校第340回
2024年4月13日(土)実施
憲法判例を読み替える
「宮本から君へ」訴訟最高裁判決を素材として
講師
蟻川 恒正 先生(日本大学大学院法務研究科教授)
1988年 東京大学法学部卒
現在 日本大学大学院法務研究科教授
『憲法的思惟』『尊厳と身分』(いずれも岩波書店、2016年)
『憲法解釈権力』(勁草書房、2020年)
『憲法の土壌を培養する』(木庭顕、樋口陽一との共編著、日本評論社、2022年)
講師からのメッセージ
講演で私が取り上げるのは、「宮本から君へ」訴訟最高裁判決です。内定していた映画の製作活動に対する公的助成金の交付をしなかったのは裁量権を逸脱または濫用して違法であるとした本判決が行政法判例であることは間違いありません。では、この判決は憲法判例といえるでしょうか。
私は、正真正銘の憲法判例であると考えます。
では、なぜそういえるのでしょうか。この問いに正面から答えるためには、憲法判例といえるためには何が必要か、という前提となる問いを立て、これに答えておかなければなりません。
「宮本から君へ」訴訟最高裁判決は、そのような問いを吟味する作業を通じて書き上げられた判決だと思います。
憲法判例は、日本の多くの実務法曹にとっては、まだ身近なものとはいえないいかもしれません。けれども、それは最高裁の裁判官にとっても同じはずです。にもかかわらず今回、最高裁は見事な憲法判例を生み出しました。最高裁の裁判官たちは、過去の憲法判例を「読み替え」、そうすることを通じて、(本判決を含む)将来の憲法判例を「書き換え」たのです。
そのような意味において判例を「読む」こと、そして、「書く」ことは、法律家にのみ許された特権であり、同時に、法律家のみに課せられた責務です。
この、法律家の特権であるとともに責務でもあるものの機微について、お話させていただきたいと思います。