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明日の法律家講座 東京校第297回

2020年11月28日(土)実施

憲法と教育 ~1947年教育基本法から安倍・菅政権まで~

前川 喜平 氏(現代教育行政研究会代表、元文部科学事務次官)


講師プロフィール

前川 喜平 氏(現代教育行政研究会代表、元文部科学事務次官)

前川  喜平氏
奈良県出身
1967年 麻布中学校・高等学校へ進学
1973年 東京大学文科一類入学。法学部へ進学し、故芦部信喜氏に憲法を学ぶ
1979年 国家公務員試験(甲種 - 行政職)に合格し、 当時の文部省に入省。
ケンブリッジ大学大学院留学
1997年 文化庁へ出向、文化部宗務課長
2001年 中央省庁再編に伴い文部科学省に変わり、同省初等中等教育局教職員課長
2001年 初等中等教育局財務課長
2006年 大臣官房総務課長
2007年 大臣官房審議官(初等中等教育局当)
2012年 大臣官房長
2013年 初等中等教育局長
2016年 文部科学事務次官
2017年 文部科学事務次官退任
2018年~   日本大学文理学部教育学科講師 (非常勤)

〈主な著書〉「面従腹背」、「官僚の本分」(柳澤協二氏との共著)他多数

講師からのメッセージ 

  安倍・菅政権の官邸一強体制は権力の腐敗と暴走を招きました。官僚は権力の私兵・下僕となり、三権分立も危うくなっています。一強権力の支配は本来自由であるべきメディア、教育、文化、学術の分野にも及んでいます1947年の教育基本法は、日本国憲法の精神にのっとって制定され、「人格の完成」と「平和的な国家及び社会の形成者の育成」を教育の目的に掲げ、「教育の機会均等」や教育への「不当な支配」の排除を謳いましたが、2006年の改正後は教育の戦前回帰の傾向が強まっています。
  学習権には自由権、社会権、平等権及び参政権の側面があります。自由権としての学習権は、憲法23条の学問の自由と重なり、教育の自主性を要請します。しかし、全国学力テストや道徳の教科化により、国は新自由主義や国家主義を背景に教育への介入を強めています。
  社会権としての学習権は、憲法25条の生存権と一体の「教育を受ける権利」として憲法26条に規定されています。教育の機会均等は、憲法14条の平等権にとどまらず、教育基本法4条に示されるように「経済的地位による差別の禁止」の意味を持っています。高校生や大学生の給付型奨学金は導入されましたが、経済的地位による進学機会の格差は厳然と存在しています。憲法26条2項の義務教育はすべての人に無償の普通教育を保障するためのものですが、現実には義務教育からこぼれ落ちた人がたくさんいます。
参政権としての学習権は、「知る権利」とあいまって、主権者として必要なことを学ぶ権利です。図書館や公民館はそのための重要な施設ですが、廃止・統合や民営化の風潮にさらされています。学校での政治教育は「政治的中立性」を理由に大きく制約されています。憲法と教育を巡るこうした問題について、皆さんが考えるきっかけになれば幸いです。