明日の法律家講座 東京校第331回
2023年8月19日(土)実施
福島原発 裁かれないでいいのか
~改めて原因と責任を検証する~
講師プロフィール
古川 元晴氏
(弁護士、「古川元晴法律事務所」主宰)
神奈川県出身
1965年東京大学法学部卒業
1967年検事任官。法務省刑事局参事官、内閣法制局参事官、法務省刑事局刑事課長、
同総務課長、最高裁司法研修所上席教官、京都地検検事正などを歴任し、2001年4月
退官その後公証人を経て2011年6月から弁護士
2012年8月「法の支配」実務研究会設立
2015年2月『福島原発、裁かれないでいいのか』(朝日新書)出版
2016年4月井戸裁判原告弁護団結成
講師からのメッセージ
2011年3月11日、福島第一原発は、巨大な地震に伴う大津波に襲われて全電源を喪失し、この度の原子力災害の大惨事を惹起することとなりました。かかる大参事を起こした事業者である東電や規制当局である国については、その刑事責任や民事責任が裁判において問われることとなり、認める判決と認めない判決に分かれていることは、ご承知のとおりです。
このような東電及び国の責任に対する裁判の状況について、皆さんはどのように考えているでしょうか。
問題の本質は、かかる大惨事を未然に防止するために、原発事業には如何なる注意義務が課されていたと判断すべきかということに帰着しますが、このような法的な義務の有無についてどのように考えたらよいのかということは、法曹として、本件事故を総括し将来に生かす上で、避けて通れない課題である上に、そもそもかかる課題は、何も原発事業に限られるのではなく、現代の科学技術の発展に安全対策が追いつかず、潜在的な「未知の危険」を抱えている産業分野は少なくないと考えられ、全ての産業に課された課題であると思われます。HONDAの創業者本田宗一郎氏は、「進歩とは、反省の厳しさに正比例する」と述べているそうですが、現在、日本は、どこまで福島原発事故に向き合って来ているかが問われています。この課題についての私の考えは既に『福島原発、裁かれないでいいのか』(朝日新書)において明らかにしているところですが、法曹を志す皆さんには、自分自身の検証の基本的な視点の確立を目指し、既存の判例・先例・学説等の枠を疑い不条理の是正に挑戦をすることを是非目指してほしいと考えています。そのために、この課題について、皆さんと一緒に、「法の理念である『正義』とは何か」「法の役割とは何か」「条理、常識とは何か」等の基本的な論点を踏まえて、多角的、総合的な観点から考えるというのが、本講演の目的ですので、よろしくお願いします。