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第4号 難民の収容 Detention of Refugees

山本 哲史(東京大学特任准教授)

難民が収容されているという事実、今回はこのことについて、人間の安全保障もさることながら、人権を手がかりに考えてみたいと思います。 みなさんは憲法が保障する人権についてはかなり学習なさっていることだと思いますが、国際法もまた人権保障のための独自の制度を用意していることをご存知でしょうか。
日本の加入の是非が取りざたされている国際人権規約における自由権規約の選択議定書などは、国際法による人権保障制度の典型例です。
国際法は、伝統的には文字通り国と国との関係を規律するものであり、主権国家同士の約束に基づく法体系であると考えられてきましたが、今ではその意味内容を越えて一定の人権保障をも行うものとして捉えられています。

ここに至るまでに、国際社会は1948年の世界人権宣言で人権の重要性を確認して以来、国際法によって保障する人権(いわゆる国際人権)の範囲と内容を少しずつ積み上げています。
こうした動きの背景には、二度の世界大戦を経験した国際社会において、国際法の究極の役割の一つであるはずの平和維持のためには、人権保障を欠くことができないという強い反省があったと言われています。
さて、このように今日までに国際人権にはさまざまな内容(人権のカタログ) が含まれるようになっているわけですが、しかし他国に入国する権利までは国際人権に含まれていません。
もっともこれは、単に入国を希望する国の国籍を有していないという形式的な判断によるのではなく、居住や生活の実態的判断が求められることになっているた め、たとえば既に居住している者の家族の入国や、特別永住者の再入国などについては、全くの外国人とは異なる一定の配慮が求められることになっています。
とはいえ、繰り返しになりますが、原則として国際人権には他国に入国する権利は含まれていません。
というのも、ある国への外国人の入国の是非は、その国の主権国家としての判断によって決定されることになっているからです。
他国への入国権を国際人権として認めるとなれば、国際法の原理である国家主権が侵害されることを意味するため、それは少なくとも現段階の国際社会においてはありえない、というわけです。

というわけで、どの国もその主権に基づく確固たる方針の下、外国人の入国管理(入管)を実施しています。
しかし入管について主権国家に自由な判断が許されると言っても、それはあくまで「入国を認めるか否か」の判断が自由であるというに過ぎないのであって、入管に必要とされる一連の作業のなかで外山本 哲史東京大学特任准教授国人の人権を侵害してよいわけではありません。
たとえば入管の目的のためには不法入国者や不法残留者を退去強制させる場面も出てくるわけですが、その対象者の身柄確保(収容)を国家は自由に行えるわけではないのです。
というのも、国民であろうと外国人であろうと、人である以上は「移動の自由」を有するとされているからです。
しかし収容される、つまり一カ所に閉じ込められるとなれば、移動の自由は当然ながら制約されることになります。
ですから問題は、その制約が正当であるか不当であるか、という点に絞られてきます。

現在までに、この点は比例原則(principleof proportionality)によって判断されるものと考えられるようになっています。
つまり収容は入管のために本当に必要であるのか、その目的と手段の間に比例関係はあるのか。
その個別判断が求められているのです。
少なくとも、全ての不法滞在者を例外なく収容するという制度(全件収容主義、mandatorydetention とも言う)があるとすれば、これは国際法違反ということになります。
また、移動の自由の制約については、一般的な外国人への配慮に加えて、特別な配慮もまた重要であると考えられています。
たとえば子どもを収容することは、一般的な外国人よりもさらに厳しく「もっとも短い適当な期間でのみ」認められるものとなっています(子どもの権利条約37条b)。

さて、それでは難民はどうでしょうか。
2011年度における難民認定申請者の申請時の在留状況をみると、全体の1,867件のうち、正規滞在(在留資格あり)のケースが1,159件に対して非正規滞在(在留資格なし)のケースは実に708件に上ります。
この人たちを収容してよいものかどうか。
もちろん、国際人権の観点から考えなければなりません。
難民認定制度の濫用を疑う声も一部にはあります。
日本は入管難民法を2004年に改正し、難民認定申請時に非正規滞在状況にある難民認定申請者であっても、一定の要件を満たす場合には仮滞在を認める(つ まり収容しない)という制度設計を行っていますが、2011年度において仮滞在を認められた者はわずか71名にとどまっています。

2012年6月16日(土)に伊藤塾東京校で実施する第195回「明日の法律家講座」では、こうした状況も含めて難民の収容をテーマとして扱います。
実際に収容経験のある難民とともに考える企画です。
興味関心をお持ちの方は、是非ご参加下さい。


 
伊藤塾塾便り202号/HUMAN SECURITYニュース(第4号 2012年6月発行)より掲載
※「明日の法律家講座 東京校第195回」は2012年6月16日(土)に実施されました。