第10号 再定住難民:日本が不人気な理由 Resettled Refugees in Japan
三浦 純子(東京大学 難民移民ドキュメンテーションセンター学術支援員)
日本で試験的に再定住プログラムを開始してから、今年で 3 年目を迎えます。
当初は、パイロットプログラムの最終年ということで、これから本格的に事業を導入して再定住難民を受け入れるのか否かが決定される予定でした。
しかし、日本政府はまだ検討の必要性があるとして試験期間を 5 年間に延長しました。
年間 30 名ずつ、3 年間で合計 90名を受け入れる枠が用意されていましたが、枠が埋まることはなく 1 年目は 27 名、2 年目は 18 名のミャンマー難民(カレン族)が再定住プログラムを通して来日しています。
3 年目である本年も、難民キャンプがある地域、タイのメーソットで来日予定だった 3 家族が研修を受けていました。
しかし、研修修了直前に突然来日をキャンセルしました。
ミャンマーとタイの国境地域に暮らす難民たちにとって、再定住以外に「解決」の途は帰還もしくは庇護国での定住しか残されていません。
難民を認めていないタイで合法に定住できる可能性はほぼないといえます。
よって現実的に考えられる解決策は庇護国での定住という選択肢です。
タイの難民キャンプから再定住難民を受け入れるのは、アジアでは日本が初めてといわれます。
欧米諸国よりも、日本の文化や慣習の方が彼らが持つ背景と近いものがあることは想像できるでしょう。
しかし、再定住の定員枠が埋まらない、つまり難民キャンプの人々にとって日本が再定住先として不人気なのはなぜでしょうか。
日本が再定住先に選ばれない理由として、1つには再定住候補者の「人選」の問題、2つ目には制度設計が日本政府だけで行われたことが挙げられます。
まず、候補者の「人選」についてですが、日本は再定住を行っているどこの国よりも厳しい条件を掲げているようです。
米国などは、ほとんど条件がなく、HIV 患者も受け入れ、申請の機会も多々あり、大きな枠で再定住難民を迎えています。
米国のこの方法は、政治的な意図があるともいわれます。
他方、スウェーデンなど北欧の国々では、人道的な目的で障害者等を積極的に受け入れています。
日本の条件で特徴的なことは、「家族単位」での受け入れと「日本での適応能力」が挙げられるでしょう。
難民キャンプでは日本に興味を持ち、積極的に日本語を独学で勉強をしている若者もいるようです。
しかし、「家族単位」での受け入れという条件が原因で、単身者等は申請できなくなっています。
「家族単位」を条件とすることで、犯罪防止や再定住難民が子どもを通じて地域社会に溶け込みやすいことが期待されたようです。
しかし、就労が禁止される難民キャンプにおいて長い間援助を受けて暮らしてきた難民にとって、4~5人の子どもを抱えて日本で自立することには非常な困難が伴います。
移民として海外に出ていくときには、たいていは男性もしくは女性が単身で新天地へ渡り、生活の基礎を築いてから家族を呼び寄せるケースが一般的です。
インフォーマルなネットワークの力が移民や難民の大きな支えになっているといえるでしょう。
難民キャンプから多くの人々が米国やオーストラリアを再定住先として希望するのは、既に「家族がいるから」、「友人がいるから」といった事情があるようです。
日本が再定住先として人気がないもう 1つの要因は、失敗を恐れるが故に日本政府の力だけで、制度設計も援助も行おうとしたことが挙げられます。
このため再定住した難民は気軽に手助けが得られず「孤立」した状況に陥ってしまいます。
難民キャンプではそうした日本でのマイナスイメージが「うわさ」として流れていると思われます。
元国連難民高等弁務官事務所駐日代表であり、第三国定住プログラム開始のための働きかけを行った滝澤三郎氏(現東京大学 CDR 特任教授)は、当事業の制度について日本政府が難民の「囲い込み」と「放り投げ」をしていると指摘しました。
再定住難民は来日後 180 日間の研修を受け、手厚く面倒を見てもらえます。
しかし研修終了後は、都内の研修所から定住先の地方でそれぞれ職業訓練を開始し、自立を求められます。
しかも、再定住難民は自立のために支援を行う外部団体との接触を許されませんでした。
同胞である難民も接触ができなかったといわれます。
さらに当初は制度についても政府の中だけで話し合いが行われたため、情報開示がないと批判されました。
これを受け、有識者会議として大学、NGO 関係者らも関与して、事業改善の話し合いがされるようになりました。
日本行きの「不人気」の背景としては、応募したいのにできない人が多数いることが窺えます。
何万人もいる難民キャンプから30 名の枠も埋まらないという現状では、一定の条件緩和あるいは変更等によって,もっと積極的に再定住の可能性がある中から「人選」していく必要があるのではないでしょうか。
伊藤塾塾便り208号/HUMAN SECURITYニュース(第10号 2012年12月発行)より掲載