第30号 難民と教育 ~国家予算の使われ方と日本語習得の機会について~
堀越 貴恵 東京大学 寄付講座「難民移民(法学館)」スタッフ
日本の国家予算が日本国籍をもつ人に使われていることは当然であると思いますが、外国人にも国家予算が使われており、その中には日本が受け入れた難民も含まれています。
日本は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が実施する国外の難民・避難民支援に対して、2013年に約2億5,300万米ドル(約260億円)の供出を行っています。
この拠出額は、米国に次いで第2位にあたります。その一方で諸外国からは、難民認定率の低さや難民の受け入れ人数が少ないとの批判を受けています。
日本ではこれまでに、ベトナム、ラオス、カンボジアから日本に逃れてきたインドシナ難民(11,319人 )を受け入れてきました。
このほかに、難民認定制度により難民認定を受けた、特別な法的地位を得た条約難民(622人 )と、2010年に始まった第三国定住事業によってタイの難民キャンプに滞在するミャンマー難民(13家族63人 )を受け入れています。 日本は、国内の難民への対応を関係省庁間で協議する「難民対策連絡調整会議」において、外務省、文化庁、厚生労働省により各担当分野に応じた予算を計上しています。
1979年度以降、外部委託事業として計上された国家予算が、日本国内で難民という名目で使われており、2014年度では年間総額約7億円になります。
このうち、約2億8,000万円が難民認定申請者等の生活保護費に、約1,400万円が職場適応訓練費等に充てられています。
日本語教育を受ける機会に着目してみると、約4,000万円が、条約難民と第三国定住により受け入れたミャンマー難民に対する日本語教育事業の予算として文化庁により計上されています。
このうち約3,000万円が日本語教育の講師謝金となっています。
自分が勉強する機会を得るために自分でお金を払う、ということは当然のことのように思われますが、こうした日本語習得にかかる国家予算は、どういうかたちで使われているのでしょうか。
日本語教育事業は、日本語習得を通した日本への定住を促すことを目的として、条約難民事業と第三国定住難民(第三国定住事業により受け入れたミャンマー難民)事業が委託機関によって実施されています。
具体的には、「定住支援施設における定住支援プログラム」として「日本語教育プログラム(180日間)」を行っており、第三国定住難民事業の場合には、このプログラムに加えて難民の定住先である自治体との連携により日本語教育の支援体制の構築が図られています。
日本語を習得する機会は、このほかにも文化庁による「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」や民間の日本語学校、地域の日本語教室、中学校における夜間の日本語学級、ボランティア等があります。
しかしながら、日本語習得や支援の不十分さ、困難さ、また「日本語教育の実施期間が180日間では短い」などと指摘する声もあります。
これらの根拠はどこにあるのでしょうか。
仮に不十分であるならば、何が必要とされているのでしょうか。
国家予算の使われ方に問題があるのか、そもそも日本語教育事業に対する国家予算自体が不十分なのでしょうか。
無償の日本語習得の機会を増やすことが必要なのか、有償による日本語教育の機会を充実させることが必要なのでしょうか。
日本語習得やその機会について、実態を十分に確認することが必要であると考えます。
引き続き、この点には注目してゆきたいと思います。
前回のコラムでご紹介した日本語教室での取組みにおける日本語習得の機会から,この点について少し考えてみたいと思います。
この日本語教室は、ある団体が文化庁による「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」の助成を受けて実施しており、この事業にも国家予算が使われています。
この事業は「日常生活を営む上で必要となる日本語能力等」を習得するための取組みや日本語指導者等に対する研修、調査研究等を支援し、日本各地の日本語教育の充実と推進を図ることを主な目的として実施されています。
この日本語教室での取組みについて見てみると、現在(7月20日時点)は、クラスにより学習の進み方には違いはありますが、主にひらがなの読み書きの学習を終え、カタカナの読み書きの学習をしているところです。
そのほか、日常の生活のなかで使う会話表現の習得にも取り組んでいます。
ここでの学習は参加者が学びたいと考えている内容を取り扱っているからでしょうか、参加者の意欲も高いように感じます。
また、どのクラスでも学習の過程で、わかる人がわからない人に教えている様子がありました。
日本語学習を継続するうえでは、学習者同士のつながりができることは大切なことなのかもしれません。
次回以降は、日本語を学ぶミャンマー難民が、これまでにどのような日本語教育の機会を得てきたのか、どのような目的でこの教室で日本語を学んでいるのか、ということについてお伝えしつつ、日本語習得の実態について考えてみたいと思います
伊藤塾塾便り228号/HUMAN SECURITYニュース(第30号 2014年8月発行)より掲載