第34号 法の実現と法の限界 ~「難民移民(法学館)」寄付講座による取組み~
堀越 貴恵 東京大学 寄付講座「難民移民(法学館)」スタッフ
法を、本来あるべき姿として実現させるにはどうしたらよいのでしょうか。法そのものが理解されていないのであれば、まずは本来の意味で理解することが求められるでしょうし、法の機能に不備があるのであれば、法を変えることが求められるでしょう。
「難民移民(法学館)」寄付講座では2009年度から2014年度の6年にわたり、難民移民問題に関する研究と教育に取り組んで参りました。
その成果は英文の学術季刊誌『CDR Quarterly』をはじめ、『難民保護を知る一問一答100 -難民認定・信憑性評価篇』(山本哲史・有馬みき共著)、『難民保護を知る一問一答100 -補完的保護篇』(山本哲史・有馬みき共著)、『難民の権利』(佐藤安信・山本哲史共訳)、『難民保護の理論と実践』(山本哲史・有馬みき・杉本大輔共 著)等の書籍を通じて、広く社会に発表してきました。
また、その集大成というべきイベントを先月21日(金)および22日(土)に実施したところ、大勢の方にご参加いただくことができました。
このイベントは、特に法学の観点から当講座が行ってきた難民保護の研究成果の蓄積により実現したものであります。
研究者と実務者との対話を生み出し、日本、フィリピン、香港、韓国とのネットワークの形成につながっています。
第一線で活躍する研究者と実務者、両者の間に対話がもたれたこと自体が大きな成果であり、国際基準の視点から本来の意味での難民保護における法の理解が促されたという意味で、大きな社会的インパクトがあったといえるでしょう。
実定法(法規範)に従った法的対応という枠組みでは、権利と義務との関係が設定されており、基本的には国家が難民の権利として保護を保障するものであります。
ここで権利として保障される保護は、一定の共通内容が確保されるようになってきたとされていますが、難民に対する支援は国だけではなく多様な主体により行われるため一様ではないという現実をみると、法にも限界があるといえるのではないでしょうか。
当然のことですが、難民として認定された後も、それぞれの人生は続いていきます。
生活する場所も環境も異なる以上、生きていくうえで必要となること、支援として求められるNeedsに違いが生じるのは当然のことと言えます。
理屈だけではうまくいかないことも多いのではないか、また支援が一様ではありえないのではないかという意味で、法にも限界があるように思うのです。
法的支援をはじめ、言語の支援、生活や進学といった場面での難民の支援は、何を目的とし、その実態はどうなっているのでしょうか。
難民の権利として保護を保障するのとはまた別の側面が見えてきそうです。
伊藤塾塾便り232号/HUMAN SECURITYニュース(第34号 2014年12月発行)より掲載