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明日の法律家講座 東京校第180回

2011年7月9日(土)実施
 

『検察の正義』神話化の背景~思考停止した組織の再生に向けて

【講師】 
郷原信郎氏(弁護士、「郷原総合法律事務所」所長、元検察官)


講師プロフィール

郷原信郎氏(弁護士、「郷原総合法律事務所」所長、元検察官)

郷原信郎氏
島根県松江市生まれ
1977年 東京大学理学部卒業
1983年 検事任官
公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、長崎地検次席検事、などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。
2004年 法務省法務総合研究所総括研究官兼教官
2005年 桐蔭横浜大学法科大学院教授(派遣検事)、コンプライアンス研究センターセンター長
2006年 検事退官。引き続き、同大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センター長
2006年4月 弁護士登録
2008年 郷原総合法律事務所開設
2009年 名城大学総合研究所教授・コンプライアンス研究センター長
2010年 総務省顧問、コンプライアンス室長
2010年法務省「検察の在り方検討会議」委員
 
 ご著書
「組織の思考が止まるとき~「法令遵守」から「ルールの創造」へ~」(毎日新聞社、2010年)、
「検察の正義」(ちくま新書、2009年「思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本」(講談社現代新書、2009年)など著書多数
 
 
  
 

講師からのメッセージ 

厚労省事件での村木氏への冤罪、前田元検事による証拠改竄という一連の検察不祥事が発生したこと、そして、不祥事に遭遇した検察が対応を誤り、社会からの信頼の失墜を招いたことの根本的な原因は、すべての判断が内部で自己完結する閉鎖的な検察組織が、社会の環境変化に適応できなかったところにある。それは、前田元検事やその上司個人の問題ではなく、大阪地検特捜部だけの問題でもない。特捜検察に共通する問題であり、その背景には検察組織全体の構造的な問題がある。
そのような検察の組織の特性を、「独立性」と「一体性」を両立させる検察庁法による法的枠組み、組織内の意思決定プロセス、業務遂行の形態という面から分析し、それが、これまで検察が刑事司法の中核機関と位置づけられ、「検察の正義」が神話化してきたこととにどのように関係しているのかを考える。
検察のように組織が環境変化に適合できず、その活動が社会の要請に反してしまうことで不祥事が発生するのは、近年、官公庁、企業など多くの組織に共通する構図である。そこで必要なことは、問題の本質に立ち返り、発生した問題がその本質とどのように関係しているのかを考えること、それを通して、「社会の要請に応える」という意味のコンプライアンスの観点から組織の活動を再構築していくことが可能となる。
検察不祥事を、社会の要請に応え、社会の環境変化に適合するという観点から分析することを出発点に、様々な企業・官公庁のクライシス(危機)の実例と比較分析する。そこから、「法令遵守」からの脱却、「ルールの創造」という新たなコンプライアンスへの取り組みの方向性が見えてくる。