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明日の法律家講座 東京校第285回

2019年7月13日(土)実施

冤罪の阻止・根絶と法曹の責任

【講師】木谷 明 氏(弁護士、「法学館法律事務所」所属、元東京高等裁判所部総括判事、元法政大学法科大学院教授)
 
 


講師プロフィール

木谷 明 氏(弁護士、「法学館法律事務所」所属、元東京高等裁判所部総括判事、元法政大学法科大学院教授)

木谷 明 氏
神奈川県平塚市出身。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。
1961年 大学を卒業して司法研修所に入所。司法修習を経て
1963年 判事補任官(東京地裁)。最高裁判所調査官、浦和地裁部総括判事などを経て
2000年5月 東京高裁部総括判事を最後に退官。
同年6月 公証人(霞ヶ関公証役場)となる。
2004年から2012年まで法政大学法科大学院教授を務める。
2012年より弁護士。
 
最高裁判所調査官時代に担当し、判例百選に掲載された裁判は「月刊ペン事件」、「よど号ハイジャック事件」等7つある。
『「無罪」を見抜く-裁判官・木谷明の生き方』(岩波書店、2013年)等著書も多数。著書の『刑事裁判の心―事実認定適正化の方策』は、周防正行氏の映画作りの参考にされた。周防氏によると、映画『それでもボクはやってない』の前半部に出てくる人権派の裁判官は、木谷氏を理想としてあこがれる若手裁判官を描いた由である。

講師からのメッセージ 

冤罪ほど恐ろしいものはない。ある日、突然、身に覚えのない犯罪の嫌疑を受けて取調べを受け、いくら弁解しても受け付けてもらえず、身柄も拘束されて家庭や社会から断絶させられたと想像してみてほしい。多くの人は、逮捕される前は、こういう話を聞いても「ひとごと」と考え、「まさか現代の日本でそんなことがあるはずがない」と思うだろう。しかし、これは絶対に「ひとごと」ではない。いつ自分の身に降りかかるかもわからない現実なのだ。
君は思うだろう。「警察がひどい取調べをしても、あの難しい司法試験を合格した検察官は、きっとぼくの言い分を聞いてくれるだろう。」「万一、検察官が聞く耳を持たない場合でも、公明正大な裁判官は、必ずぼくの言い分を聞いてくれるに違いない」「日本の刑事裁判は『疑わしいときは被告人の利益に』という『刑事裁判の鉄則』に基づいて行われているのだから、万が一にも冤罪など起こるはずがないじゃないか」と。
しかし、ひとたび囚われの身となった君は、現実の厳しさを嫌と言うほど思い知らされる。検察官の取調べは、警察より多少ましな場合もあるが、多くは、警察捜査の上塗りをしているにすぎない。確かに、以前と違って弁護人の活動は活発になった。しかし、それでも、通常の能力の弁護士にとって、強大な国家権力と対峙して、否認している君を代用監獄から救出するのは至難の業だ。現実には、いわゆる「人質司法」が蔓延しているからだ。
肝心の裁判官はどうか。日本の刑事裁判の有罪率は99・9%以上と言われている。要するに、検事が有罪と考えて起訴したら、公判(裁判)で無罪判決を獲得できる確率は1000件に1件もないということだ。そして、いったん有罪判決が確定した後に新証拠を提出して行う再審手続は、「針の穴に駱駝を通すより難しい」とさえ言われている。
今回の講演では、私が現在弁護の一角を担っている具体的な再審事件(恵庭OL殺人事件)を例に引きながら、刑事裁判の現実の姿を明らかにするとともに、冤罪を阻止・根絶するために法曹が果たすべき役割・責任を明示する。
これから法曹を目指す諸君には是非とも聞いてもらいたいと思う。