明日の法律家講座 バックナンバー
明日の法律家講座 東京校第290回
2019年12月14日(土)実施
あるべき刑事司法とは何か~しくじり体験を踏まえて
【講師】前田 恒彦 氏(元検察官)
講師プロフィール
前田 恒彦 氏(元検察官)
ハンナン事件や福島県知事汚職、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件などで主任検事を務める。
2010年、郵便不正から派生した厚労省虚偽証明書事件において証拠改ざん(フロッピーディスクのデータ改変)に及んだことで一転して被疑者、被告人及び受刑者の身となり、602日間の身柄拘束を経て、2012年5月に満期出所、社会復帰。
現在はヤフーニュースやフェイスブックなどのネット媒体を使い、刑事司法の実態や問題点を独自の視点で発信中。
講師からのメッセージ
検察は有罪無罪を勝ち負けと捉えています。弁護士ですらも「無罪を勝ち取った」といった言い方をしています。しかし、本当にそうした意識でいいのでしょうか。勝ち負けと捉えているからこそ、勝ちたい、負けたくないと思うわけだし、勝つために無理をします。負けたくないから、不利な事実を隠そうとします。
これこそ、未来の法曹界を担う皆さんに変えていっていただきたい点です。すなわち、「有罪無罪は勝ち負けではない。有罪であっても無罪であっても、法と証拠に基づき、裁判手続を通じて正義が実現された、と捉えるべきだ」というものに――。
そもそも「真実」は当事者本人しか知らないことだし、それでも誤解や記憶違いはあります。
万能ではない愚かな人間が過去に遡って事実を認定していく以上、誤りもあり得るわけですが、その「真実」に少しでも近づくために、どのようなアプローチをしていくべきなのか。無実の人を処罰することなく、かつ、罪を犯した人を漏らさず処罰するための手段は何か。
あるべき刑事司法とは何か、というテーマは古くて新しい問題ですが、皆さんにはこれを常に意識し、この機会に是非深く考えていただきたい。
私は、(1)捜査・取調べ・訴追を行う検事、(2)逆にそれらを行われる被疑者・被告人、(3)刑に服する懲役受刑者、(4)重要事件の参考人・証人と、一般の人が経験したことのない真反対の立場を経験しています。
こうした経験に基づく複眼的な視点により、あるべき刑事司法とは何かについて、改めて考える機会を提供できればと思っています。