憲法研究会 実施報告

【憲法研究会 第10回 実施報告】 【実施日時】2018年1月20日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】9名

 始めに、来年度の憲法研究会の告知チラシの検討を行いました。  その結果、研究会のタイトルは『行政書士試験合格後こそ、憲法を学ぼう~憲法「改正」が現実味を帯びるいま~』とし、憲法全般に興味のある秋桜会会員に広く参加を呼びかけていくこととしました。重点的に取り扱う内容としては「憲法改正」や「死刑制度・冤罪事件」となります。また、今年度同様、外部講師をお招きしての講義や、課外イベントも取り入れていく予定です。
 次に、野村先生による「日本国憲法と自民党憲法改正草案」についての講義が行われた後、 先生の作成による「現行憲法・自民党改憲草案 比較表」を用いて活発なディスカッションが行われました。
 次に、今年度の研究会の活動実績として作成する冊子に掲載するためのアンケートの記入を行ったのち、一人づつ、今年度の感想を述べて、終了となりました。
 今年度の活動としては今回が最後となりましたが、すぐに来年度に向けた活動を始めてまいります。

【2018年度 憲法研究会 オリエンテーションのお知らせ】
2018年3月24日(土)14時~16時 於:伊藤塾 東京校 (参加費無料、事前予約不要)
秋桜会の皆様、どうぞお気軽にオリエンテーションにご参加ください。

(報告者 井川水史)

【憲法研究会 第9回 実施報告】

【実施日時】2017年12月16日 土曜日 13:00~16:00
【参加人数】10名

 今回は、東京都人権プラザでの研修会に参加しました。
「憲法を体感しよう!」人権問題を『自分の目で見て、感じて、考える』をテーマにボッチャ体験会や人権散歩等、盛りだくさんの内容でした。
 まず始めに、セミナールームでのガイダンスが行われました。今回の研修会を企画してくださった東京都人権啓発センターの職員の方から、人権プラザについての歴史や、この建物がなぜこの場所に建てられたかのいきさつ、東京都における同和問題についてご説明頂きました。特に同和問題は、知らない事ばかりで、衝撃を受けました。

次に展示室に移動しました。ここでは、車椅子バスケット用の車椅子に乗ったり、当事者の方々の「生の声」をモニターで視聴したり、高齢者、障害者、妊婦さんの感じる様々なバリア装具を身につけたり、まちのジオラマにタブレットをかざして人権クイズに答えたり、インターネットのルールやマナーをスマートフォン風のデジタルサイネージで学んだり、色々な形式で人権について学びました。実際に車椅子に乗って動くと坂道がとても怖いと感じる事、アイマスクを装着すると視界がぼやけて歩くことができないことなどを、身をもって体験することこそが、当事者の気持ちを理解することにつながると感じました。

 その後休憩をはさみ、いよいよパラリンピックの正式種目である『ボッチャ体験会』。
この競技は、誰でもできるスポーツです。重度脳性まひの人の種目としてパラリンピックでも採用されています。
 まず、赤・青二つのグループに分かれ、ジャックボール(白)を赤チームの一人が投げます。さらに同じ人が赤ボールを投げます。次に、青ボールチームの誰かが青ボールを投げます。これ以降はジャックボールに遠いほうのチームが投げます。一方のチームの投げるボールがなくなれば、もう一方のチームが連続で投げます。得点は、双方のチームの最もジャックボールに近いボールを比較し、どちらが近いかを判定。陸上版のカーリングのようなものです。ボールを投げる加減が難しく、勢いが強すぎるとかなり距離が離れてしまいますし、逆に弱いとジャックボールまでの距離が遠くなってしまいます。メンバーの中には、初めてとは思えないほどセンスの良い方もいて、ジャックボールの至近距離にボールが止まると、会場内から拍手が起こるなど、大変盛り上がりました。最後に、全員でボールを持って記念写真を撮りました。
 それから図書資料室で、人権に関する本を閲覧しました。ここにある蔵書は、会員登録すると借りることができます。郵送での返却もできるので、さっそく会員登録するメンバーもいました。今後の研究会にとても参考になると思いました。

 その後、施設を出て、人権散歩へ。歩いて向かった先は、誰でも入ることができる地域のコミュニティー施設『芝の家』でした。入口で靴を脱ぎ、温かい木のぬくもりを感じる室内では、何名かの方々がゆっくりとくつろいでいらっしゃいました。私たちも時間を延長して、その居心地の良い空間に留まっていました。入口付近には駄菓子の販売コーナーがあり、子供の頃に夢中で食べたふ菓子やソースせんべい等、懐かしいものが並んでいました。
 最後に、御成門駅近くにある芝公園を目指して歩きました。芝公園内には、「開拓使仮学校跡」の記念碑があるそうです。今回は、時間の都合で記念碑を見ることはできませんでしたが、機会があればゆっくりと見学してみたいと思いました。
  今回の研修会で、人権問題についてまだまだ知らないことがたくさんあるということを知ることができて、これからも学び続けていきたいと思いました。
 憲法研究会では、次年度もこのような日帰りスタディーツアーを企画し、憲法を体感する学習をしていきたいと思います。本当に素晴らし研修会でした。
長時間にわたり、ご対応してくださった人権プラザの職員の方々に厚く御礼申し上げます。

 本研究会も、あと1回となりました。
最終回は、2018年1月20日(土)に開催されます。
今までの研究会の内容を振り返り、次年度の活動へとつなげていきたいと思います。

(報告者 関根泰子)

【憲法研究会 第8回 実施報告】

【実施日時】2017年11月11日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】7名

今回は、前回に引き続き「憲法25条と生活保護制度」をテーマに、井川氏、鈴木氏、関根が発表を担当しました。

 初めに、「熊本地震と生活保護Q&A」を題材に、震災の被災者が生活に困り、生活保護を利用したいと思った場合の設問を参加者との質問形式で行いました。具体的には、①避難所では生活保護を受けることが出来ない?②被災地から避難する時に、通帳など証明する書類が何もないと、保護を受けられない?③避難所で生活保護を受けた場合、保護費から炊き出し等の実施分が差し引かれるのか?④義援金は収入認定されて、その分保護費を減らされる?⑤自動車は処分しなければならない?⑥一時的な避難先として居住している場合は、形式的に同一世帯とみる?⑦避難所や仮設住宅から一般の民間賃貸住宅に転居する場合、新住居の敷金その他の転居費用を生活保護費からもらえない?⑧地震で住所が崩壊し、家財道具、布団、洋服などが使えなくなった。これらの費用は支給してもらえない?などの論点を一つ一つ考えていきました。
このQ &Aは、お客様から相談を受けた場合に、きちんとした説明ができるか、根拠条文を示して対応することができるかの訓練につながるものだと感じました。
続いて、井川氏から『新たな住宅セーフティーネット制度』についての説明がありました。国土交通省住宅局の登録住宅の検索・閲覧サイト、住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅登録基準、住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録等の事務の流れ、家賃債務保証業の登録についてなどの説明がありました。
 次に、この制度について取り上げた相談事例を基に、参加者がそれぞれ行政窓口、相談者、行政書士役を演じました。シナリオにないアドリブもまじえながら、まるで、ここが本当に相談を受けている事務所に思えるような臨場感あふれるロールプレイングが出来ました。
 演技をご覧になった実務家の先生から、受け答え方のアドバイスもあり、こうした先輩からの評価を受けるという体験も大切だと感じました。また、生活保護申請書の書式についても、個々の事情によって書き方は異なる、行政書士が代理申請する場合の書き方は、それぞれの先生方によっても違うので、業務を行う中で体得していくしかないのだということを知りました。ロールプレイングのために、鈴木氏が作成した生活保護申請書は大変参考になるものでした。
 次に、共謀罪に関連した事件について、井川氏から説明がありました。
最近ニュースで話題となった「オレオレ詐欺、容疑者の母親も逮捕 金を受け取った疑い」この事件は共謀罪の適用ではなく、組織犯罪処罰法第11条の犯罪収益等を収受した者に当たるというものでした。井川氏は、研究会で『思想・良心の自由』の発表を担当し、こうしたニュースにも敏感になったそうです。
 最後に、次年度の活動については、今年一年を通して活動したという実績を、来年度以降も続けていきたい。今年限りの研究会で終わらせずに、新たな会員を募り、より充実した内容の研究会にしていきたい。12月に行われる総会での活動報告で、この会の特徴や魅力を伝えていきたい旨を話しました。

来月はいよいよ、課外イベントです。東京都人権プラザ研修会のプログラムに参加予定です。パラリンピック正式種目の『ボッチャ体験会』あり、人権散歩ありの内容盛りだくさんの企画です。本研究会会員以外の方も参加でき、秋桜会会員同士の親睦を深める懇親会も行います。

(報告者 関根泰子)

【憲法研究会 第7回 実施報告】

【実施日時】2017年10月14日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】7名

今回は、「憲法25条と生活保護制度」をテーマに、井川氏、鈴木氏、菊池氏、関根が発表を担当しました。

 初めに、井川氏から、「新たな住宅セーフティーネット制度について」の説明がなされました。この制度は本年10月25日に施行されますが、民間の空き家を活用した本制度の創設は、低額所得者・被災者・高齢者・障害者・子育て世帯などの住宅確保に配慮が必要な方々が、入居を拒まれない賃貸住宅として登録された住宅に入居しやすくするとともに、登録された住居は、住宅改修費や、家賃の低廉化の補助等、国や地方公共団体からの経済的支援を受けるという制度です。この制度は、行政書士業務の幅を広げる可能性を秘めた制度であるので、次回、詳しく説明してくださいます。
 憲法25条については、まず井川氏より、「生存権」について、芦部信喜先生の『憲法』と浦部法穂先生の『憲法学教室』を参考文献として、以下説明されました。
 生存権とは、資本主義の高度化にともなって生じた失業・貧困・労働条件の悪化等の弊害から、社会国家(福祉国家)の理念に基づき、とくに社会的・経済的弱者を保護し実質的平等を実現するために保障されるに至った20世紀的人権である。社会的・経済的弱者が「人間に値する生活」を営むことができるように、国家の積極的な配慮を求めることが出来る権利である。ただし、憲法の規定だけを根拠として権利の実現を裁判所に請求することのできる具体的権利でない。裁判所に救済を求めることのできる具体的な権利となるためには、立法による裏付けを必要とするとの説明がなされました。
 生存権の法的性格については、プログラム規定説・抽象的権利説・具体的権利説の説明があり、「プログラム規定説は、こんにちでは学説上評判の悪いものになっている。弱者を切り捨てひたすら経済発展を追求する支配体制にとって一番都合のよい理屈だった。最高裁も、この都合のよい「理論」によりかかって、国民の「生存権」の要求を拒否し続けている。
 生存権の内容については、朝日訴訟最高裁判決を取り上げ、「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、厚生大臣の合目的的な裁量に委されて」いるとする。ならば、「健康で文化的な最低限度の生活」というものが、「国の財政状況」や「予算配分の事情」といった、国の都合で決定されるのであるならば、「生活保護を受けている者の生活が保護を受けていない多数貧困者の生活より優遇されているのは不当であるとの一部の国民感情」という要素を考慮に入れるということは、国が生存権の実現をさぼっていて多くの国民が貧困に喘いでいる場合には、「最低限度の生活」は、さらに低いものになってしまう。
 最後に参加者から、憲法25条の「すべて国民は」の『国民』には、外国人は含まれるかの質問があり、これについては、現行憲法は、日本人に限定している。外国人の生活保護については、行政庁の通達によって準用されているに過ぎない。財源の面からも、日本人が優先されるのはしかたがないのではとの意見がありました。

 鈴木氏からは、生活保護制度に関連する様々な統計データの紹介がありました。
厚生労働省の発表している資料「「生活保護制度の概要について」では、昭和26年から平成28年までの、被保護世帯数、被保護人員、保護率の年次推移についての図が示され、それによると生活保護被保護者数は約216万人であり、平成23年に過去最高を更新したが、足下では横ばいに推移しているということがわかりました。
 総務省のホームページからは、「生活保護に関する実態調査」のデータが紹介され、いわゆる不正受給の割合が、保護費のうちの0.5%であることが示されました。
 日本弁護士連合会のホームページからは、不正受給に対する誤解や、保護の捕捉率の先進国との比較資料等も示され、生活保護制度について様々な統計データからの考察が出来ました。

 今回の研究会では、生活保護申請の現場を疑似体験することを目的にしていたので、ロールプレイングを行うための前提知識として、各自治体が発行している「保護のしおり」を基に、生活保護制度について学びました。
資産の活用などの個所では、「持ち家がある。」「車を持っている。」「生命保険は解約しなければならないか。」等の具体例を、クイズ形式で参加者に出題して、理解を深めました。

 後半は、行政窓口係、相談者、行政書士役を、創作したシナリオに沿って実演しました。初めは、原稿を読んでいる感じでしたが、だんだんと本当に自分がその立場にたっているかのように、熱の入った演技になっていきました。
 今回は、発表者による演技披露で終了したので、次回は参加者全員でロールプレイングを行い、より深く生活保護申請の現場を学ぶ会にしたいと考えています。

 菊池氏は、生活保護申請の実体験をお話してくださいました。生活困窮に陥った相談者が自ら窓口に申請に行ったら、相談だけで終わってしまい申請には至らず、しかも1か月も待たされたままだった。ところが、福祉関係者の自分が窓口に行ったら、即日申請となった等、菊池氏のお話は、行政の水際作戦の現状を知ることが出来ました。

 この研究会も、残すところ3回となりました。
次回は11月11日(土)に開催されます。
全員での『ロールプレイング』と、新たに参加者から提案されたテーマで行う予定です。
(報告者 関根泰子)

第90回 明日の行政書士講座
【実施報告】
2017年9月16日(土)に東京校で開催された明日の行政書士講座は、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛氏にお越しいただきました。20年にわたり、3000人以上の路上生活者の生活保護申請の支援活動に取り組んでこられた経験から、『生活保護制度の現状と運用の問題点』、生活保護をめぐる動きについてのお話をしていただきました。

◆住居喪失が何をもたらすのか
2014年に起きた銚子市の母子心中未遂事件を例に、生活困窮者に対する行政の対応の問題点や、住居喪失にはそれに伴う様々な困難が生じることの説明がありました。この事件において、事件に至るまでの各段階において行政側の対応や連携によって防げたはずのものが防げなかった経緯や、生活困窮者のための支援制度の層の薄さによって生活保護制度が実質的に最初で最後の砦になってしまっているセーフティーネットの機能不全」として問題提起をされています。

◆生活保護制度の現状
その砦である生活保護制度自体も、海外の公的扶助制度の利用状況や捕捉率との比較によると、その利用率・捕捉率があまりにも低い状況です。その理由について、①制度そのものの問題、②偏見とスティグマ、③福祉事務所による運用の問題、の3つの点それぞれが掘り下げられていきます。

◆制度そのものの問題
保護の要件として、生計を同じくする世帯単位で資産・能力(稼働能力)・他の制度で受けられる給付に加えて、法改正により原則義務化され拒否した場合の報告義務も課された扶養義務者の扶養、すなわち親族等からの援助を受けられるかどうかの「扶養照会」が制度の利用を躊躇させる要因になっているとの事でした。この法改正に先立つ生活保護バッシングは、日本国憲法制定に伴って1950年に規定された生活保護制度の「補足性の原則」や、「無差別平等の原理」が未だ広く理解されていないことを含めた人権感覚の問題と指摘しています。また、生活保護の医療扶助の割合が一般世帯よりも高い部分について、生活保護を利用している人には病気や精神疾患、障害をかかえている人が多いことにも触れられていました。生活保護の漏給層として、やむを得ない理由で資産要件から外れてしまう人、家族を頼れない若者、難民申請中にホームレス化している外国人、要件は満たしていても生活保護の利用を拒否する高齢の路上生活者の例が挙げられていました。

◆偏見とスティグマ
生活保護の利用を妨げる2つめの要因として自己責任論と、制度とその利用者に対する偏見、その見方を内面化してしまっているために生活保護制度の利用することを恥、負い目と受け止めてしまうことを指摘されていました。これもこの制度が憲法に規定された権利の具体化ではなく、恩恵として見られてしまうが故の問題なのだと思いました。

◆福祉事務所による運用の問題
生活困窮者の支援を行うNPO法人への生活相談のデータ分析から、以前に福祉事務所を訪れた時の対応のうち、約7割が制度利用には至らない相談扱いの対応で終わっていたことが示されました。1990年代に稲葉先生自身が把握されていた、本来、福祉事務所の窓口で生活保護制度の利用ができる筈の人を排除してしまう「水際作戦」の具体例として、生活保護の「現在地保護」があるにも関わらず地方においては、その地域に住民票のない(住居のない)人が排除されてきたこと、大都市では、無差別平等の原則に反した働ける65歳未満の人などが排除されてきたことがあるとの事でした。また、福祉事務所の窓口で対応にあたる職員の差別的・侮蔑的言動なども問題の一つとして挙げられています。
2000年代に入って法律家やNPO関係者が口頭ではなく書面で行うなど、申請支援の活動によってある程度改善はされたものの、相談者が1人で窓口に行った場合には変わらぬ対応がなされることが今もあるそうです。また、窓口で申請をさせないやり方が通用しなくなった一方で「硫黄島作戦」と呼ばれる、申請の受付と利用開始の後の辞退の強要が行われるようになったこと、数々の利用者の死亡例に繋がっていることも指摘されていました。

◆生活保護法改正の問題点
最低年金保障の導入や、生活保護の申請手続の簡素化、申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置、スティグマの解消のための教育などが含まれる、2013年に国連社会権規約委員会の勧告に対して、2014年の生活保護法の「改正」の内容は真逆のものになっている状況であるとの事です。中でも扶養義務者への圧力強化については、「私はいつになれば私の人生を生きられるのですか。」という生活保護世帯の高校生からのメールでの悲痛な訴えが紹介され、韓国で扶養義務の基準を段階的に撤廃して行ったように、日本でも前近代的な扶養照会を廃止していき、捕捉率を上げて行くべきだとの提言がありました。

◆貧困対策をめぐる政策矛盾
日本政府が掲げる政策と、現状の生活保護制度のあり方とが全く噛み合っていない、との指摘がありました。貧困の世代間連鎖の防止、高齢者の社会的孤立の防止、障害者の地域移行支援などの政策に対し、生活保護制度においては子どものいる世帯の扶助・援助の基準が引き下げられ、生活・住宅扶助の基準の引き下げによる交際費の削減や扶養義務者への圧力の強化は、高齢者の社会的孤立を進め、障害者の地域移行支援を妨げるものとされていました。

◆求められる困窮者支援
以上の生活保護制度の問題点の解消に向けて、生活保護の捕捉率の向上や、ケースワーカーの増員と専門職化、「権利としての生活保護」を確立するための広報啓発のために名称変更も含めたイメージアップや、制度自体を利用しやすくすることが挙げられていました。また、生活保護よりも手前のセーフティーネットを充実させるために、生活困窮者自立支援制度と空き家を活用した住宅セーフティーネットの活用も始まっているとのことでした。つくろい東京ファンドによる住宅支援事業の紹介、2007年に設立された生活保護問題対策会議が2017年の小田原市での「保護なめんな」ジャンパー問題に対し公開質問状を提出、改善につなげた事例もされていました。

◆質疑応答
・生活保護世帯の子が大学進学の際に「世帯分離」を行う場合や、ケースワーカーの質について、また、生活保護の運用への自治体のトップの姿勢の影響についての質問が出ていました。小田原市の場合、「保護なめんな」ジャンパーの問題の検証をトップ主導で行い、検討会のメンバーには元生活保護利用者という当事者も加わったものになっていたとのことです。

◆憲法研究会メンバーとのディスカッション
講座終了後、稲葉氏と秋桜会 憲法研究会メンバーとのディスカッションが行われました。
住宅セーフティーネットの詳しい仕組みや様々な課題、生活保護制度の運用のための財源について、学校教育の場で生活保護制度についてどう教えるべきかについて(大阪の西成高校の「ホームレス問題を考える」という授業の例が稲葉氏から「釜ヶ崎のあるあの土地柄だから」という断りもありつつ挙げられました。)性的少数者の中でもトランスジェンダーの人たちには住宅支援の場でも個室のニーズが高いことなどについて活発な意見交換が行われました。

◆講座を受けて
貧困問題、ホームレス問題、生活保護制度…どれも辛く苦しいイメージで正面から向き合うことを躊躇してしまいそうなテーマですが、一方で稲葉先生や支援を行なっている人たちの活動によって行政の対応に変化があったこと、困窮者の状況を少しでも良くしていくための具体的な方策の例も知ることができました。困難な状況を突破していくための工夫や、それを支える信念・理念を持つことの重要さを改めて認識することになりました。

次回は、10月14日(土)に開催されます。

テーマ『憲法25条と生活保護制度』
全員で、ロールプレイングを行う予定です。

【憲法研究会 第5回 実施報告】

【実施日時】2017年8月19日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】11名

 今回は「法の下の平等」に関連するテーマである「LGBT」に関する問題に重点を置いて、倉本さん、菊池先生、関根さん、岩元先生の4人の班が発表を担当しました。

 最初に倉本さんより、「“LGBT”入門」と題して、最近「法の下の平等」との関係で注目されること多いセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)が、まだまだ正確に理解されていると言い難い現状、何がどう正確に理解されていないかについて発表されました。「性別」「性自認」「性的指向」(そして「性表現」)という言葉のみによってしか説明されない一般の”LGBT”の説明や、また性別二元論の観点でしか説明されない一般の”LGBT”の説明の問題点に始まり、最近非常に多岐にわたる「セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)用語」については、そういった言葉が次々と「発生」する背景に「自分は”LGBT”以外のセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)である」と認識している”LGBT”が多く存在していることを指摘、よって安易に”LGBT”という言葉で一括りにしない方がよい、という説明がありました。また、ある有名ディスカウントストアが設置した「LGBT用トイレ」や、ある市が制定したLGBTの要綱やパートナー宣誓制度に関するニュースの中で、安易に”LGBT”と一括りにして言葉を使うことによって当事者たちが如何に違和感を感じているかということ、「SOGI(E)」という新しい言葉ができた経緯、そして「”LGBT”」との概念の違いについての説明などがありました。
 次に、トランスジェンダーと性同一性障害(GID)の違いや、SRS(性別適合手術)について説明があり、SRSを受けることが「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)」で認められる戸籍上の性別を変更するための条件になることと、そのことが持つ問題点が説明されました。また、ある議員がカミングアウトしたというニュースや、米軍でトランスジェンダーが入隊を禁止されたというインターネット上のニュースやそこに付いたコメントを通じて、誤った認識や差別的な発言についても紹介されました。

続いて菊池先生より、「LGBTと貧困」についての発表がありました。
 6人に1人が貧困の状況にあるわが国ではありますが、特にLGBTの人がひとたび貧困に陥ると、さまざまな偏見から社会的な支援を受けにくいという現状があり、性的多数者に比べて支出リスクが高く、「事実婚」と同じような法的経済的不利があることも紹介されました。
 その他にも、就労、住まい、医療、社会保障といった各方面における「性的志向や性自認を理由とする社会で直面する困難のリスト」も紹介され、性的多数者が気付きにくいが性的少数者の方々が抱えている困難について考える機会となりました。貧困の五大要素は「病気」「無知識」「無理解」「不正直」「依存」だと言われているが、そのいずれもが関係するLGBTの方々の貧困について、「法の下の平等」の観点からも無関心、無知でいることはできないと述べられ、LGBTに関連する各種報道も紹介されました。

 続いて関根さんより、LGBT当事者が様々な場面で受ける差別と人権侵害について理解するため、「東京都青年の家事件」(東京高裁判決)について発表がありました。
 この事件の概要は、同性愛に関する正しい知識の普及や差別・偏見の解消を目的に活動している団体Aが、東京都教育委員会の所管する「府中青年の家」宿泊施設で合宿を行ったところ、他の団体から、差別的発言や嫌がらせを受け、施設側に対応を求めたところ、適切な対応がなされず、再度施設の利用を申し込んだところ、拒否され、都の教育委員会から正式に使用不承認処分がなされたというものですが、「元来は異性愛者を前提とした男女別室宿泊の原則を、同性愛者にも機械的に適用し、結果的にその宿泊利用を一切拒否する事態を招来することは著しく不合理であって、同性愛者の利用権を不当に制限するものといわざるを得ない。」「結果的、実質的に不当な差別的取扱いをしたものである。」という判決の内容が説明されました。
 その上でこの判決は、同性愛者を性的指向の一つとして、他者の違うことを尊重する判決であることの説明や、憲法14条と同性愛者の関係、「社会的身分」という文言の意味、現在における社会的身分による差別問題、日本国憲法における平等原則、積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)、尊属殺重罰規定違憲判決についても説明されました。
 まとめとして、差別や偏見に苦しむ当事者の方が、社会に向けて声に出して訴えることにはとても大きな意味があることであるが、それでも、今も様々な場面で生きづらさを感じている方々がいることを忘れてはならず、個人の尊重、真の実現のために、これからも不断の努力が必要である、と述べられました。

 最後に岩元先生より、本日の講義を締めくくるかたちで、「就職時の履歴書に戸籍上の性別を書かないと何らかの罪に問われたり、会社を解雇されたりしてしまうのか?」という相談をされたらどう答えるか、という「問い」が提示され、皆で考えました。
 性的少数者の方の気持ちになって考えることや、そのような方々の個人の尊重ということを考える大変良い機会となりました。

次回は9月16日(土)に開催されます。
第90回 明日の行政書士講座 
『誰もが自分らしく生きるために』~今、生活保護制度に何がおこっているのか!?~』
【講師】稲葉 剛氏(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)
講演会終了後、稲葉氏を研究会にお招きしてディスカッションを行います。


【憲法研究会 第4回 実施報告】

【実施日時】2017年7月15日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】11名

今回は「人権総論」をテーマに、新保先生、柳下先生、山田先生の3人の班が発表を担当しました。

 最初に新保先生より、ご自身の事業承継や会社経営と金融機関との関わりのなかで感じてこられた想いや、権力に対する猜疑心のようなものが憲法について考えることの契機となったことなどが語られました。普段は触れることが少ない「消費者基本法」「消費者契約法」の条文の抜粋も配布して説明され、「憲法」と「消費者の権利」等についても考える機会となりました。

 続いて柳下先生より、「人権の享有主体」に関する論点について、天皇、法人、外国人につきそれぞれ、各学説や判例の結論・理由・批判について詳細な説明がありました。
 また、日本国憲法について重要な関わりのある「ポツダム宣言」の日本語訳が紹介されました。

 最後に山田先生より、ご自身で作成され、毎日業務に入る前の知識の確認や、久しぶりにその業務を行う際に知識レベルを戻すために用いていらっしゃるというレジュメ(ドリル)のご紹介と、そちらを使用しての講義が行われました。全ての科目につきドリルを作成されているとのことですが、本日は憲法に関するもののうち、「憲法入門」「憲法総論」「人権」についてご説明いただきました。
 行政書士として生き残っていけるかどうかということの一つに、相手に合わせて話すことができるかどうかがあります。取引先との会話のなかで、どのような話題が出てくるかはさまざまですが、どのような話題になっても、相手に合わせて話すことができなければなりません。そのためには満遍なく、一定レベルの知識を押さえていることが必要です。
また、憲法に関する話題の際には、「憲法を知ってしまった者の責任」を果たすためにも、相手にわかり易く、憲法の本質を話せなければなりません。これらの目的のためにも、こういったドリルを用いて知識レベルを一定に保つことの必要性をアドバイスされました。そして、安全保障関連法案が強行採決された頃の各種資料も配布され、憲法についての誤解や誤った認識がありふれている現状を例に説明されました。

憲法研究会では、単なる憲法知識の研鑽のみではなく、今回の発表のように実務に役立つ話題も取り入れて行っております。

次回は8月19日(土)に開催されます。
テーマは『法の下の平等』です。

【憲法研究会 第3回 実施報告】

【実施日時】2017年6月17日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】13名

今回は「思想・良心の自由」をテーマに、井川氏、小倉氏、諸星氏、飯塚氏、藤井氏の5人の班が発表を担当しました。

 最初に井川氏より、「思想・良心の自由」についての総論的な説明がありました。
まず、人権の種類、人権のうち自由権について、自由権の内容についての説明があり、「思想・良心の自由」の位置づけが確認されました。次に、諸外国の憲法との比較や、日本ではかつて「思想・良心の自由」が大幅に弾圧された悲しい時代があったこと(治安維持法や横浜事件など)と、憲法19条が制定された経緯についても説明がありました。次に、「思想」と「良心」の意味や、「思想・良心の自由の保障の意味」について、浦部法穂先生の考え方に基づき説明しました。「憲法が思想・良心の自由を保障していることの意味」はつまり、「人が心の中で思うこと考えることを国家権力が抑圧・強制してはならない」ということであり、具体的にはつぎの3点であります。
(1)国家権力による特定の「思想」の強制の禁止
(2)「思想」を理由とする不利益取扱いの禁止
(3)「思想」についての沈黙の自由
(参考文献:浦部法穂著『憲法学教室』第3版p131~p139)

 続いて小倉氏より、まず「思想・良心の自由」に関する以下に掲げる判例につき、上記の3つの「思想・良心の自由の保障の具体的な意味」のうち、どの項目について問題となるのか、詳細な検討に基づく発表が行われました。(参考文献:憲法判例百選(1)[第6版]等)
 ・私法関係と基本的人権―三菱樹脂事件
 ・良心の自由と謝罪広告の強制
 ・内申書の記載内容と生徒の思想・信条の自由―麹町中学内申書事件
 ・使用者による労働者の政党所属調査と思想の自由
 ・強制加入団体の政治献金と構成員の思想の自由―南九州税理士会政治献金事件
 まとめとして、「君が代起立・斉唱・ピアノ伴奏問題」に関する東京地裁判決や最高裁裁判官の反対意見などの検討を通じて、「思想・良心の自由は、自分らしく生きたいという個人の尊重(13条)の延長線上にあり、思想・良心の自由を制約する場合のあるべき姿としては、安易な比較衡量で思想・良心の自由を制約することは許されないこと等が述べられました。

最後に、諸星氏、飯塚氏、藤井氏による、「思想・良心の自由」とも大きくかかわり、本研究会開催数日前に改正案が可決された「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第6条の2(テロ等準備罪)(いわゆる「共謀罪」、以下「共謀罪」)の憲法適合性に関する検討についての発表とともに、参加者による活発なディスカッションが行われました。
まず諸星氏から、条文の確認、語句の定義、趣旨・効果の説明がありました。ここでは条文のあまりにも曖昧な語句や定義づけについて、さっそく多くの議論が交わされました。
次に、共謀罪の憲法適合性について、①憲法19条「思想・良心の自由」に関して、②憲法21条1項(表現の自由)について、③憲法13条(プライバシー権)の観点から、反対論を飯塚氏が、肯定論の構築を試みた藤井氏からは肯定論が、交互に発表されました。なお、④憲法31条(適正手続の保障)についてはあまりにも問題が多く、当班ではついに肯定論を構築することができなかった旨が述べられ、反対論のみが発表されました。
また、衆議院議員の「テロ等準備罪の被疑者から依頼を受けた行政書士に関する質問」に対する政府答弁も紹介され、行政書士をはじめとする士業者がこの法律によって捜査対象となる可能性についても議論が交わされました。
共謀罪については問題意識を持っている参加者が大変多く、とても内容の濃い研究会になりました。

次回は7月15日(土)に開催されます。
テーマは『人権総論』です。

(報告者 井川水史)

【憲法研究会 第2回 実施報告】

【実施日時】2017年5月20日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】 12名

この研究会では、第2回から第5回までは、テーマごとに班分けされたグループによる発表と、参加者同士のディスカッションを行います。今回は、「表現の自由」をテーマに、鈴木さん、渡辺さん、私・野村の3人のグループが発表を担当しました。レジュメは、芦部信喜教授の「憲法」(第6版)等を参考に作成しました。

最初に、鈴木さんより、「表現の自由の意味及び内容」について解説していただきました。
まず、表現の自由の意味として、表現の自由は、自己実現の価値(個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという、個人的な価値)と、自己統治の価値(言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという、社会的な価値)という、2つの価値があること、情報の送り手であるマス・メディアと情報の受け手である一般国民との分離が顕著になった現代社会においては、表現の自由を一般国民の側から再構成し、「知る権利」として保障することが重要になっていることなどを説明され、またアクセス権(一般国民がマス・メディアに対して、自己の意見の発表の場を提供することを要求する権利)についても触れていただきました。
次に、表現の自由の内容として、報道の自由(取材の自由及び放送の自由を含む)について、判例を挙げながら詳しく説明されたほか、性表現・名誉毀損的表現や営利的言論等、低い価値の表現の自由についても説明していただきました。

続いて、渡辺さんより、「表現の自由の限界」について解説していただきました。
まず、表現の自由等の精神的自由の規制立法は、経済的自由の規制立法よりも厳しい審査基準で合憲性を審査しなければならないとする「二重の基準の理論」について、民主政の過程論と裁判所の審査能力の限界という2つの根拠と共に説明されました。
また、表現の自由に関する規制立法は、対象が高い価値の表現か低い価値の表現か、事前規制か事後規制か、表現内容規制か表現内容中立規制かなど、表現の種別や規制立法の態様に応じて、それぞれにふさわしい合憲性審査基準を検討すべきだとされました。また、2016年6月に施行されたヘイトスピーチ対策法についても、独自の考察がありました。
さらに、具体的な表現の自由の限界について、①事前抑制の理論(検閲との関係を含む)、②「明白かつ現在の危険」の基準、③「より制限的でない他の選びうる手段」(LRA)の基準について、解説していただきました(明確性の理論については、野村の担当パートで扱うこととしました)。

 最後に、野村より、集会・結社の自由及び通信の秘密について解説しました。
まず、集会の自由の保障の趣旨と限界について、泉佐野市民会館事件を例に説明し、次に集団行動の自由について、公安条例による規制及び道路交通法による規制について検討しました。
公安条例による規制では、新潟県公安条例事件判決と東京都公安条例事件判決を比較し、また、徳島市公安条例事件判決を例に、憲法31条における明確性の理論と憲法21条における明確性の理論の相違について解説しました。
 次に、結社の自由の意義と、弁護士会等強制加入団体の問題、また団体の内部統制権の限界について触れました。
 最後に、通信の秘密の保障について、従来は表現の自由の一環として理解されてきたが、現在は、プライバシー保護の一環として理解されていること、通信の秘密の保証範囲や限界について説明しました。

 グループメンバーによる発表のあとは、参加者からの質疑応答及び全員でのディスカッションを行いました。質疑応答では、参加者の1人から、国会議員が議院内で行った一般人に対する名誉毀損的表現について、憲法51条との関係や刑法230条の2、民法710条、723条との関係を問う質問が出されました。また、ディスカッションでは、現在国会で審議中の組織犯罪処罰法改正案(共謀罪)についても、活発な意見が交わされました。

(報告者 野村政史)

次回は、6月17日(土)に開催されます。
テーマは『思想・良心の自由』。

【憲法研究会 第1回 実施報告】

【実施日時】2017年4月15日 土曜日  14:00~17:00
【参加人数】16名

1.自己紹介
最初に、企画者・運営委員が自己紹介を行い、続いて参加者の皆さん、志水晋介先生、事務局の皆さんから自己紹介をしていただきました。
参加者の内訳は、行政書士試験合格者の方、行政書士登録準備中の方、登録直後の方、他士業でご活躍の方など、さまざまな方がいらっしゃいました。
参加した皆さんお一人お一人の憲法への思いや、この研究会に参加した理由など、本当に熱い気持ちが伝わってきて、早くも会場は熱気に包まれました。

2.グループ分けおよび打合わせ
 この研究会は、参加者全員で作っていくという趣旨のもと、第2回から第5回では、それぞれのテーマを基に、グループによる発表と参加者同士のディスカッションを行います。そのため、班分けを行いました。①人権総論②法の下の平等③表現の自由④参加者希望のテーマ、の4つのグル―プに分けました。
その後に各グループに分かれての打合わせを行いました。 ここでも早速、予定の時間を過ぎても活発な議論が行われていました。教室内が更にヒートアップしました。

3.講義(担当:司法書士 野村政史先生)
今回は最後に、運営委員で司法書士の野村先生から導入講義として、以下の内容で講義をしていただきました。途中、所々に野村先生から参加者への質問もあり、参加者も積極的に答えていました。

【第1部 憲法と立憲主義】
まず、憲法の分類について確認され、特に「立憲主義」(国家権力を憲法で制限することにより、国民の自由・権利を保障すること)の思想に基づく憲法である「立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)」に、憲法の最もすぐれた特徴があること、立憲的意味の憲法は自然権思想・社会契約説・抵抗権といった考え方から生まれ、人権保障と権力分立を内容とし、通常、成文憲法及び硬性憲法であることなどの説明がありました。
 次に、立憲的意味の憲法の特色として、自由の基礎法、制限規範性、最高法規性についての説明と、憲法97条が憲法の最高法規性の実質的根拠であること等の説明がありました。
 さらに、立憲主義の思想と密接に結びつく原理として法の支配についての説明があり、法の支配と(形式的)法治主義の違いについても触れていただきました。
 最後に、立憲主義と民主主義の関係について説明があり、民主主義は、単に多数者支配の政治を意味するものであってはならず(独裁に行きつく)、人権の保障を目的とする「立憲民主主義」でなければならないと締めくくられました。

【第2部 日本国憲法と自民党憲法改正草案】
後半は、まず現行憲法の基本原理を確認したうえで、現行憲法と平成24年に発表された自民党の改憲草案との比較表を見ながら、自民党改憲草案の問題点について意見を出し合いました。 
自民党改憲草案では、① 第102条で国民に憲法尊重義務を負わせていることが特徴的に示すように、新たに国民に広範な義務が課されており、立憲的意味の憲法ではなく、国家権力が国民を縛るものになっている、② 個人の尊厳原理を否定し、「公共の福祉」に替わり「公益及び公の秩序」という政府に都合のよい人権制約原理が採用されている、③ 集団的自衛権の行使、国防軍の保持、交戦権の肯定など、現行憲法の平和主義から大きく転換し、戦争ができるようになっている、といった点に特徴があることが分かりました。

4.懇親会
研究会の目的の一つの、参加者同士の交流や人脈作りの場を提供するということで、さっそく懇親会を伊藤塾近くのお店で行いました。12名が参加してくださいました。登録準備中あるいは登録直後の参加者も多いことから、懇親会も研究会同様大変盛り上がりました。憲法についての理解を深めるだけでなく、会員同士の交流も大切にしていきたいと考えますので、今後も出来るだけ開催していきたいと思います。

 次回は、5月20日(土)に開催されます。
テーマは、『表現の自由』。活発な議論がなされることを期待しています。