憲法から考える安全保障関連法案の問題点
憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使が容認され、安全保障関連法制が整備されつつある現在において、私達が法律家として、安全保障関連法案に賛成する 立場の意見に対してどのように向き合い、憲法の意義やその存在価値をどのようにして市民に伝えてゆくべきかを検討します。
主催者のご挨拶
こんにちは。秋桜会3期生の野村政史と申します。
現在、国会において、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法案の審議が行われています。この安全保障関連法案は、違憲の可能性が極めて高いだけ でなく、立憲主義の観点からも重大な問題を有しており、多くの市民や学者、弁護士などから反対や疑問の声が上がっています。
一方、この法案に賛成する市民からは、「憲法栄えて国滅ぶ」といった、憲法に対する無知・無理解に基づく意見が多く聞かれます。その原因の1つには、私 達法律家が、これまで市民に対して、憲法の意義やその存在価値を十分に伝えてこなかったことがあるのではないでしょうか?
この勉強会では、ゼミ形式でのディスカッションを通じて、安全保障関連法案の憲法上の問題点について検証するとともに、この法案に賛成する立場の意見に対して、法律家の立場から、如何に説得力のある説明ができるかを検討したいと思います。
感情論や単純なイデオロギーの対立に陥ることなく、世の中の多様な意見に真摯に耳を傾け、そのうえで、私達法律家が、憲法の意義や存在価値を広め、自由で民主的な社会を実現していくためにはどうすればよいのかを、参加者の皆さんと一緒に考え、知恵を絞りたいと思います。
ご参加をお待ちしております。
開催情報
・回数 全5回(5回全てに出席できなくても結構です)
・開催ペース 月1回
・形式 ゼミ形式
・想定人数 10人
・最少催行人数 8人
・想定最大人数 16人
・会費 無料
・開催日時
第1回 平成27年9月5日(土)14:00~16:30を予定。
第2回以降の開催日は、都度、参加者で協議して決定する予定です。
・開催時間 土日祝日の14:00~16:30(2時間半)
・開催場所 伊藤塾東京校(渋谷)
・持参するもの 筆記用具、ディスカッションに積極的に参加する気持ち
・受付締切日 平成27年9月3日(木)(ただし、締切日を過ぎても、途中回からの参加も可能としたいと思いますので、個別にご相談下さい)
【申し込みメールアドレス】
fieldvillage★woody.ocn.ne.jp
※メールを送信する際は、「★」を「@」に変更して送信してください。
◆第5回 憲法から考える安全保障関連法案の問題点 報告
伊藤塾秋桜会自主勉強会「憲法から考える安全保障関連法案の問題点」第5回報告
実施日時: 2016 年6月 26 日 14 時〜 16 時半
場所:伊藤塾東京校 521 A教室
参加者:野村先生、山田先生他 14 名(計 16 名)
今回で最終回となった自主勉強会ですが、今回は多数の参加者が集まり、各自の言葉で積極的な発言がなされ、活気のある勉強会となりました。
1.最初に、野村政史先生により、これまでの勉強会のおさらいが講義形式で行われました。その内容は以下の通りです。
まず、形式的意味の憲法と実質的意味の憲法の違い、固有の意味の憲法と立憲的意味の憲法の違いといった、憲法の分類についての説明がなされました。
次に、自然権思想、社会契約説、抵抗権という各概念の論理的関連性を説明し、立憲的意味 の憲法の成り立ちについて検討をしました。立憲的意味の憲法は、当初は、国王の権力を縛るものとして生まれたが、王政から民主政に時代が変わっても、議会 で多数派を得た与党が、権力を濫用して、少数派の人権を侵害することを防ぐために意義があることを説明しました。
また、自由の基礎法、制限規範性、最高法規性といった、立憲的意味の憲法の特徴について解説がなされました。
さらに、日本国憲法と自民党憲法改正草案に関しての検討がなされました。その中で、自民党憲法改正草案は、立憲的意味の憲法ではなく、国家権力が国民を縛るものになっているという問題点が指摘されました。
ちなみに、安保法制と緊急事態条項については、今回は講義で触れる時間がなかったので、各自でレジュメを参考にすることにしました。
2.参加者が一人ずつ壇上に立ち、それぞれ憲法をテーマに5分から10分程度のスピーチを行いました。 「多数決によっても奪えない価値について、行政書士のバッチをつけている我々が、市民に語る 責任がある」。「建築現場における憲法価値の実践について。」「各家庭の収入格差と教育格差の関係、および貧困の連鎖について。」「英国のEU離脱と直接 投票および、多数決民主主義の危険性について。」「自民党憲法改正草案 36 条が『絶対に』との文言を削除したことの問題点について。」等、各自の実体験などを踏まえて、憲法価値の実現について様々な意見が出されました。
3.勉強会の最後に、今後も憲法に関する自主勉強会を、新しいメンバーを中心に継続していく方針を確認しました。
4.勉強会終了後は懇親会を開催し、参加者の親睦を図りました。
以上
◆第4回 憲法から考える安全保障関連法案の問題点 報告
実施日時:2016年3月5日 14時〜16時半
場所:伊藤塾東京校 521B教室
参加者:野村先生、山田先生他5名(計7名)
今回で4回目となった自主勉強会「憲法から考える安全保障関連法案の問題点」ですが、今回は特にテーマは設けず、茶話会形式での自由なディスカッションを行いました。
以下、野村先生が用意してくださったレジュメに沿って活発な意見交換を行いました。
1. 旧司法試験の憲法問題に挑戦
旧司法試験短答式試験の問題2問を各自で解き、その後皆で答え合わせをしました。憲法改正制限説と無制限説についての問題と憲法保障制度についての問題でした。
憲法保障制度についての問題では、「立憲主義の確立によって抵抗権の思想が不要になった」と書かれている問題文に対して、現行憲法の12条には抵抗権の思 想が読み取れるとの説明を野村先生よりしていただくなど、参加者それぞれが問題を通して知識の再確認や、新たな発見をすることができたように思います。
2. 現行憲法・自民党改憲草案比較表(抜粋)より
現行憲法・自民党改憲草案比較表に目を通し、ここが気になるという点をあげていきました。
「改憲草案の前文では『基本的人権を尊重する』に対応する主語が日本国民になっている。人権を尊重するのは、まずは国ではないか。」
「現行憲法の前文にあった平和的生存権が改憲草案では無くなっている。」
「現行憲法13条の『個人として尊重される』が、改憲草案では『人として尊重される』に変わっている。これは立憲的意味の憲法の根幹をなす個人の尊厳原理をないがしろにするものではないか。」
「改憲草案の前文は憲法の前文というよりは普通の法律の目的条文に近いような気がする。憲法と法律の本質的な違いを理解していないのでは?」
「改憲草案の1条で(天皇は)日本国の元首という言葉を使っている意図はなんだろう?」
「戦力の不保持を定めた現行憲法に対して改憲草案では国防軍の記述が追加され戦争することが可能な内容になっている。」
等、様々な意見が出されました。
3. 新聞記事 安保法案賛成派の投稿より
新聞記事より安保法案に賛成する立場の市民の投稿を読んで、気づいたことを出し合い、また一般の人に立憲主義のことを広めていくにはどうしたらよい か、この勉強会のテーマでもある事項について話し合いました。少数派の権利を擁護する立憲主義について、自分は多数派だと思っている多くの人にどうしたら 関心をもってもらえるか、行政書士が業務でお客様に接していく中で、憲法や立憲主義について伝えていくにはどうしたらよいかを皆で考えました。
4.今後の進め方について
この勉強会も始まって約半年となりますが、シーズン2につなげて秋桜会としての憲法の勉強会を残していくためにどうしたらよいか、今後の進め方についても話し合われました。
その結果、次回第5回については、秋桜会総会で告知後、この勉強会に興味をもっていただいた方も交えて行い、シーズン1の参加者それぞれが憲法について語る10分間スピーチなども取り入れながら実施することになりました。
次回もより多くの皆さまの参加をお待ちしています。
◆第3回 憲法から考える安全保障関連法案の問題点 報告
「憲法から考える安全保障関連法案の問題点」の第3回が、平成27年12月20日(日)14:00~16:30に開催されました。
主催者である野村先生、山田先生を初めとして、他5名の計7名の参加者での実施となりました。
まず、前回に引き続き、9条の解釈について、1項および2項についての学説の解説から始まり、9条1項、2項前段、2項後段の各論点についての学説とその組み合わせについて学びました。
次に、憲法9条のもとで許される自衛のための必要最小限度の実力行使について、平成26年7月1日閣議決定以前の従来の政府解釈を確認し、その後平成26 年7月1日閣議決定により示された、いわゆる「新3要件」について、従来解釈と比較をしながら、閣議決定に至る背景を、政権側が根拠として持ち出した、砂 川事件判決などの資料とともに、考察していきました。
上記の確認・検討を行った後、いよいよ安保法制の概要に入っていきました。
安保法制は、10件の現行法の改正を1本に束ねた平和安全法制整備法と、1件の新規立法である、国際平和支援法からなり、それぞれの法律の概要と安保法制全体において想定されている6つの「事態」について確認した後、以下の4つの問題点について検討を加えました。
①「存立危機事態」と集団的自衛権の行使について
②重要影響事態法と国際平和支援法における後方支援について
③PKO協力法の改正と任務遂行のための武器使用について
④米軍等の武器等防護のための自衛官による武器使用について
①については、新3要件のうち、第1要件は評価的要素を含むため、政府の恣意的な判断を許しやすいこと、第2要件と第3要件については何れも明確に法文上に規定されておらず、法律上の歯止めになっていないことを確認しました。
また、第1要件の「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」という文言は、憲法13条と同じですが、憲法13条から導かれる「新しい人権」が都合の良い集団的自衛権行使の根拠に利用される危険性を含んでいること等の問題点を確認しました。
②から④の項目についても同様に問題点の確認を行っていきましたが、中でも④における「自衛官」による武器使用に関しては、現場自衛官の行動次第で偶発的な戦闘行為が行われ、そのまま有事に突入する可能性が排除し難い、非常に危険な条文であることに驚きました。
私見ではありますが、今回の勉強会を通じて、全般的に実力を行使する際の根拠付や、暴走した場合に、制御をかけるための仕組みの整備等がなされていない感じを受けました。
最後に、補講として、安倍政権が安保法制の次に視野にいれている憲法改正に関して、政権が真っ先に盛り込むことを考えている緊急事態条項について取り上げ、自民党改憲草案の第98条・第99条を参照しながらメンバー内で意見を交換し、今回の勉強会は終了致しました。
◆第2回 憲法から考える安全保障関連法案の問題点 報告
平成27年10月24日( 土 )14時から17時まで第2回自主勉強会が開催され、主催者である野村先生、山田先生、他6人が出席した。前半は、山田先生が担当された。
まずは、再度、 憲法の定義について説明がされた。「憲法とは、国家権力を制限して国民の権利利益を擁護するもの」であるが、この国家権力とは、多数派の国会議員を意味 し、また、この国民とは、弱者である少数派を意味する。つまり、憲法とは多数派、多数決を制限して少数派の権利利益を擁護するものということである。民主 主義の基本となる多数決であるが、多数決を取る以前に十分な議論を重ねることが大前提である。また、多数派でも過ちを犯してしまうことがある。日本国憲法 制定以前の日本がそうであった。そこで、立憲主義に基づき日本国憲法が制定された。国会議員の多数派が制定した法律であってもそれが、国民、少数派の権利 利益を侵害するものであれば、最高裁判所が違憲無効と判断する。立憲主義と民主主義は相反するが、立憲主義を優先している。
憲法には、国を治める側になると権力が腐敗するといった根本的な考え方がある。権力を持つと腐敗する例として、「アメリカ合衆国のスタンフォード大学で 行われた心理学の実験であるスタンフォード監獄実験」、「銀行では、不正、癒着防止のため、一般的に2~3年周期で人事異動がある。」といった例があげら れた。
この自主勉強会の趣旨は、安全保障関連法案に賛成する人達に対して、有効に反対意見を述べるにはどうすべきかを考えるという点にある。行政書士業務を 行っていると、安全保障関連法案についての見解をお客様に求められることもある。また、日本では、憲法についての教育がなされておらず、今後は、行政書士 が小学校などで民主主義、立憲主義について伝えていくことが、肝要であると考えられる。これらに共通の点は、理解されにくい内容をわかり易い自分の言葉で 伝えることの難しさがあるということである。敬遠しがちになりやすい内容である。SNS上で、安全保障関連法案について意見をしている方々の文章を例にと り、心に響き、理解され易い内容はどういったものかを考察した。
憲法の意味として、形式的意味の憲法、実質的意味の憲法の理解ができているかをはかるために平成21年の行政書士試験の問題を解いた。
前半の内容について、その他、各自の意見を発表した。出席者のうちの一人が、地域で憲法の改正に関する活動をしているが、この自主勉強会で学ぶ内容はとても有益であり、今後も積極的に参加していきたいとのことであった。
後半は、野村先生より9条1項について、全面放棄説、限定放棄説、9条2項について全面不保持説、限定不保持説の説明がされた。個別的自衛権が憲法上認 められるとするならば、その根拠は9条以外に求めなければならず、従来の政府見解では全文の平和的生存権と、13条の幸福追求権から導いている。「集団的 自衛権と憲法との関係に関する政府資料」(昭和47年10月14日参議院決算委員会提出資料)を取り上げ説明された。9条1項、2項の解釈については、次 回、野村先生が再度担当し講義を行う予定である。
◆第1回 憲法から考える安全保障関連法案の問題点 報告
平成27年8月23日(日)のオリエンテーションから始まった自主勉強会「憲法から考える安全保障関連法案の問題点」の第1回が、平成27年9月5日(土)に行われました。
通常は14時から16時30分の時間で行われる当自主勉強会ですが、この日は、16時から伊藤塾東京校で「明日の行政書士講座」があり、そちらにも出席したいという参加者が多かったため、今回に限り14時から15時45分まで行いました。
告知からの期間が短かったにも関わらず、十数名の方がご参加下さいました。また、参加したかったけれども都合が合わずというお声も多くいただきました。
当自主勉強会の目的・趣旨は、自主勉強会の紹介ページをご参照いただければと思いますが、ここでは、第1回の内容について簡単にご報告させていただきます。
冒頭、メンバーの一人から、オリエンテーションで学んだことを生かす機会があったとのことで、その体験談を披露していただきました。そのメンバーの方が 電車に乗っていたとき、あとから3名のお婆さんが乗車してきたため、席を譲ったところ、そのお婆さん達から、自分達は今、安保法案に反対するデモに参加し てきたところであること、若い人達が戦争に行かされるのを心配しているという話を聞かされたそうです。そこで、そのメンバーは、憲法と法律の違いや、憲法 9条の意義についてお婆さん達に説明し、お婆さん達と大変有意義な交流ができたそうです。当自主勉強会で学んだ成果を早速、実社会において実践しているメ ンバーの姿に、一同感心しました。
その後、第1回のテーマの中身に入っていったのですが、今回は初回ということで、集団的自衛権や安全保障関連法案の論点には入らずに、まず、そもそも憲法とは何か、立憲主義とはどういうものかについて、確認することにしました。
前半は、当自主勉強会の主催者である野村から、レジュメを使って講義を行いました。
まず、憲法の分類について確認し、中でも立憲的意味の憲法に、憲法の最も優れた特徴があること、立憲的意味の憲法は、自然権思想・社会契約説・抵抗権といった考え方から生まれ、通常、成文憲法及び硬性憲法であること等を説明しました。
次に、立憲的意味の憲法の特質として、自由の基礎法、制限規範、最高法規について説明し、憲法97条が憲法の最高法規性の実質的根拠であること等を説明しました。
さらに、立憲主義の思想と密接に結びつく原理として法の支配について解説し、法の支配と(形式的)法治主義の違いについても触れました。
最後に、立憲主義と民主主義の関係について説明し、民主主義は、単に多数者支配の政治を意味するものであってはならず、人権の保障を目的とするものでなければならないとまとめました。
また、事前にメンバーの一人から提案があったので、講義が一通り終わってから、確認の意味で司法試験の択一式過去問2問をメンバー全員で解いて、理解を深めました。
後半は、現行憲法と平成24年4月27日に発表された自民党の改憲草案の比較表を見ながら、自由に意見を出し合っていただきました。皆さん、積極的に発言して下さって、大いに盛り上がりました。
全体として、現行憲法が国民の権利・自由を守るために国家権力を縛るものであるのに対し、自民党の改憲草案は国家権力が国民を支配するための道具になっているとの印象を受けた方が多かったようです。
第1回は、このような感じで行われました。今回は時間が通常より少なかったため、未消化の部分もありましたが、内容の濃い勉強会ができたと思います。
次回、第2回は平成27年10月24日(土)の14時から16時30分の時間に行います。場所は、伊藤塾東京校の501B教室(5号館地下1階)です。 次回は、山田健太郎先生が中心になって進める予定です。予習不要、各回ごとに出席可能な回のみ参加可能な自主勉強会ですので、ご興味のある方は下記担当者 までご連絡下さい。
伊藤塾秋桜会自主勉強会「憲法から考える安全保障関連法案の問題点」代表 野村政史
【申し込みメールアドレス】
fieldvillage★woody.ocn.ne.jp
※メールを送信する際は、「★」を「@」に変更して送信してください。
(報告者 野村政史)