法科大学院在学中に司法試験受験が可能に!要件やスケジュール・今後の影響についても解説

1999年(平成11年)より実施されてきた司法制度改革ですが、2023年(令和5年)より、法科大学院在学中に司法試験の受験が可能になるという、大きな制度改革が行われました。
「法曹コース」の設置と相まって、今後の受験生の動向に影響を及ぼすと考えられていますが、受験生にとって、具体的にどのような影響があるのでしょうか。
この記事では、法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになると受験生にとってどのようなメリットがあるのか、試験日程はどう変わるのかなど、司法試験受験生にとって有意義な情報を中心に解説していきます。
2023年(令和5年)以降の予備試験、司法試験の受験を予定している方はもちろん、これから法科大学院の受験を予定している方にとっても重要な情報になりますので、ぜひ最後までご覧ください。
なお、法科大学院以外の司法試験受験資格については、こちらの記事をご覧ください。
→司法試験の受験資格とは?中卒・高卒での資格取得方法や取得までの年数を解説
【目次】
1. 2023年(令和5年)より法科大学院在学中に司法試験の受験が可能に
2. 令和5年の在学中受験資格に基づいた受験者数
3. なぜ、法科大学院在学中に司法試験受験が可能となったのか?
3-1. プロセス短縮化を目的として、「法曹コース」も新設された
4. 在学中受験の実施に伴い、司法試験・予備試験の実施日程も変更に
5. 在学中受験や法曹コースの設置による影響は?
5-1. 法科大学院の入学希望者が増加
5-2. 法科大学院の学習スケジュールの変化
6.法科大学院在学中受験資格に関するよくある質問(FAQ)
7. まとめ
1. 2023年(令和5年)より法科大学院在学中に司法試験の受験が可能に
従来、司法試験を受験するためには、「予備試験に合格するルート」もしくは「法科大学院過程を修了するルート」のどちらかのルートを選択する必要がありました。
しかし、2023年(令和5年)より法科大学院在学中でも司法試験を受験することが可能になりました。
ただし、以下の一定の要件を満たす必要があります。
法科大学院在学中に司法試験を受験する要件 |
✔︎ 所定の単位を取得すること ✔︎ 1年以内に法科大学院を修了見込みであること |
従来の制度では、法科大学院在学中に予備試験に合格した場合、法科大学院の修了を待たずに司法試験を受験することができますが、その反面、法科大学院修了に基づく資格で司法試験を受験することはできなくなってしまうため、予備試験に合格した時点で法科大学院を退学し、司法試験の受験に備える学生もいました。
しかし、今回の制度改革により、在学中に司法試験を受験することができるようになったため、法科大学院を退学する必要もなくなりました。「法科大学院在学中に予備試験・司法試験に合格して、1年でも早く実務の世界で活躍したい」という受験生の希望を叶えるような制度改革となっています。
2. 令和5年の在学中受験資格に基づいた受験者数
実際に、法科大学院在学中に司法試験を受験する人はどれくらいいるのでしょうか。
法務省より発表された、「2023年(令和5年)の在学中受験資格に基づいた受験者数」は下記の通りです。
令和5年司法試験の受験予定者 (※かっこ内は、令和4年の司法試験受験予定者) | ||
全体の受験者数 | 4,165人 (3,339人) | - |
法科大学院課程修了の 資格に基づいて受験する者 | 2,693人 (2,929人) | 64.66% (87.72%) |
うち既修者・法学部卒 | 1,546人 (1,605人) | 57.41% (54.80%) |
うち既修者・非法学部卒 | 142人 (169人) | 5.27% (5.77%) |
うち未修者・法学部卒 | 723人 (808人) | 26.85% (27.59%) |
うち未修者・非法学部卒 | 282人 (347人) | 10.47% (11.85%) |
司法試験予備試験合格の 資格に基づいて受験する者 | 358人 (410人) | 8.60% (12.28%) |
在学中受験資格に 基づいて受験する者 | 1,114人 | 26.75% |
うち既修者・法学部卒 | 881人 | 79.08% |
うち既修者・非法学部卒 | 58人 | 5.21% |
うち未修者・法学部卒 | 121人 | 10.86% |
うち未修者・非法学部卒 | 54人 | 4.85% |
※受験願書に基づく情報です。
参照1:令和5年司法試験の受験予定者|法務省
参照2:令和4年司法試験の受験予定者|法務省
まず、全体の受験者数は、前年(令和4年)から826人増の4,165人となりました。
上記表の中の「在学中受験資格に基づいて受験する者」が、法科大学院在学中に司法試験を受験する人のことを指していますが、2023年(令和5年)の司法試験における人数は、合計で1,114人、全体の26.75%となっています。
内訳をみると、「法学部出身の既修者」の数は881人で、在学中受験資格に基づいて受験する者のうち79.08%と非常に高い割合を示していることがわかります。
一方、法科大学院過程修了の資格に基づいて受験する者のうち「法学部出身の既修者」の割合は、令和4年が54.80%、令和5年が57.41%となっており、これらの割合と比較しても、在学中受験に挑戦するのは「法学部出身の既修者」が圧倒的多数であることがおわかりになるでしょう。
また、かっこ内の令和4年における司法試験受験予定者と比較してみると、法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者は236人減少しています。
修了生の学年は在学中には受験ができなかったので、そこまで大きく数字が変化している訳ではありませんが、来年度以降は在学中受験で合格する人も出ているため、今後この数字にも変化が出る可能性があるので、来年度以降の数字も確認しておく必要があるでしょう。
3. なぜ、法科大学院在学中に司法試験受験が可能となったのか?
在学中に司法試験を受験できるようになったのは、司法試験の受験資格を得るまでにかかる時間をできる限り短縮し、優秀な人材にいち早く法曹として活躍してもらいたい、ということが理由のひとつです。
今までの制度でも、予備試験に合格すれば、法科大学を修了しなくても司法試験を受験することができましたが(予備試験ルート)、予備試験の合格率は例年3%〜4%と、非常に狭き門になっていました。
そのため、できるだけ多くの実力ある受験生に司法試験の受験資格を与えるためには、法科大学院ルートで、受験資格取得までのプロセスを短縮できるようにする必要がありました。
今までの制度では、法科大学ルートで司法試験を受験する場合、大学が4年間、法科大学院の既修者コースで2年間と、最短でも6年もかかってしまいました。そもそも司法試験を受験することができるまでの期間が長すぎる点や、学費の負担が大きく、経済的な理由から法曹を目指すことをあきらめてしまう方もいたことから、優秀な人材を確保し、法科大学院の入学者数を増やすことを目的とし、今回の制度改革が行われました。
加えて、大学生が在学中に予備試験合格をしてしまう前に法科大学院に進学させることや、法科大学院生が予備試験に合格して法科大学院を中退することを防止するということも、実は制度改革の背景となっているのです。
3-1. プロセス短縮化を目的として、「法曹コース」も新設された
司法制度改革により、法科大学院へ進学するための新しいコースである「法曹コース」も新設されました。
この制度は、今までの「大学4年・法科大学院2年」という期間を短縮するために設けられた制度で、所定の条件を満たせば、「大学3年・法科大学院2年」の計5年間で法科大学院過程を修了することができます。
法曹コースを選択し、かつ在学中に司法試験をすれば、今までよりも2年早く法曹になることができ、時間的・経済的負担を最小限にして法曹を目指せる制度になっています。
※法曹コースについては、こちらもご覧ください。
→法科大学院・法曹コースとは?メリット・デメリットや設置大学一覧などを詳細解説
4. 在学中受験の実施に伴い、司法試験・予備試験の実施日程も変更に
在学中受験が実施されることで、2023年(令和5年)度より、予備試験および司法試験の日程も変更になっています。
従来の日程では、法科大学院の学期中の5月中旬に司法試験を受験することになってしまうため、法科大学院の授業時間を変更するなど、学事日程を2週間短縮し、7月中旬に司法試験を実施することとなりました。
あわせて、従来の日程では、法科大学院を3月に修了してから、(司法試験に合格して)司法修習が始まるのが12月と、修了後のギャップタームが問題とされていたため、法科大学院修了後すぐに司法修習に入れるように、司法修習の時期も3月下旬と日程変更されています。
試験日程の変更点 | ||
変更前 | 変更後 | |
司法試験 | 5月中旬 | 7月中旬 |
予備試験 | 短答式試験:5月中旬 論文式試験:7月上旬 口述試験:10月または11月 | 短答式試験:7月中旬 論文式試験:9月上旬 口述試験:翌年1月中旬〜下旬 |
すべての日程が、今までよりも2ヶ月程度後ろ倒しになっているため、受験生としてはその分入念に対策ができるようになりました。
5. 在学中受験や法曹コースの設置による影響は?
在学中受験や法曹コースが設置されたことでさまざまな面に影響が出てくると考えられています。
ここでは大きく2つの変化について解説していきます。
◉法科大学院の入学希望者が増加
◉法科大学院や予備校での学習スケジュールの変化
5-1. 法科大学院の入学希望者が増加
1日でも早く司法試験を受験したい方にとって、法科大学院では時間がかかりすぎることから、これまで法科大学院を敬遠された方もいらっしゃったと思います。
しかし、法曹コースの設置や在学中の受験ができることで、「難易度の高い予備試験ではなく、在学中に司法試験を受験できる法科大学院ルートを選択しよう」と考える受験生が多くなることが予想されます。
そのため、希望する法科大学院の合格率や留年率などをはじめ、入学希望者数や入試倍率などのデータは、ぜひチェックしておきましょう。
※こちらも合わせてご覧ください。
→【2023年度版】おすすめの法科大学院ランキング|司法試験の合格率や選ぶポイントも解説
→法科大学院の留年率は意外と高い?その原因と留年回避の対策を徹底解説
→各法科大学院の平成30年度~令和4年度入学者選抜実施状況等|文部科学省
5-2. 法科大学院の学習スケジュールの変化
法曹コースの設置や法科大学院在学中に司法試験が受験可能になることで、今までよりも早く司法試験を受験することができるようになる関係で、法科大学院の授業日程が変わる可能性があります。
試験内容が変わるわけではないので、講義の内容そのものが大きく変わるわけではありませんが、在学中に司法試験を受験する生徒に配慮し、それまでに一通りの試験対策が完了するようなカリキュラムが組間れる可能性があります。
6.法科大学院在学中受験資格に関するよくある質問(FAQ)
法科大学院在学中受験資格に基づく司法試験受験に関して、よくある質問をまとめました。
参考:在学中受験資格に関するQ&A|法務省
Q. 在学中に司法試験を受験した場合、受験回数の制限はどうなるのですか?
A. 受験資格の制限は従来と変更なく、「初回の受験の年度を含めて5年間」となります。
Q. 「所定の単位」の中に選択科目の記載がありますが、ここで選んだ選択科目と、司法試験受験時に選択する科目は同じである必要はありますか。
A. 司法試験受験時に選択する選択科目は、単位を取得した選択科目と同一である必要はありません。
Q. 在学中受験資格により司法試験を受験して合格したものの、その後法科大学院を退学した場合、合格は取り消されますか?
A. 退学したとしても、司法試験の合格が無効となったり取り消しになったりすることはありません。
しかし、 法科大学院の過程を修了していないと司法修習を受けることができないため、法曹になるためには、法科大学院過程を必ず修了する必要があります。
なお、在学中受験資格による受験時に在籍していた法科大学院ではなく、ほかの法科大学院過程を修了した場合でも、司法修習生の採用要件を満たすことは可能です。
7. まとめ
2023年(令和5年)よりおこなわれる、「法科大学院在学中の司法試験受験」できる制度のポイントや今後の影響などについて解説しました。
法曹コースと合わせて、この制度をうまく利用することで、今までよりも2年も早く実務の世界で活躍することができるようになります。これまで法科大学院への進学を諦めてしまっていた方にとって、魅力的な制度改革になっているでしょう。
今後も、司法試験を受験しやすい方向に司法制度改革が行われる可能性があるため、適宜制度改革や受験者の動向を確認しつつ、自分がどのルートで司法試験を受験するのがいいのかをじっくり考える必要があるでしょう。
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著者:伊藤塾 司法試験科
伊藤塾司法試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの司法試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、司法試験や法曹に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。

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