司法書士ができることとは?独占業務や他の士業との違いについて解説

「街の法律家」として活躍する司法書士ですが、具体的にどのような業務を行っているのか、よく知らない方も多いのではないでしょうか。
同じ法律系の資格である弁護士や行政書士とは異なる範囲の業務を行える司法書士は、一般市民の生活を守るために重要な役割を担っています。
この記事では、司法書士しかできない独占業務や独占業務以外にできることについて、詳しく解説していきます。
弁護士や行政書士との業務範囲の違いについても解説しているので、ぜひ最後までご覧下さい。
【目次】
1.司法書士だけができる独占業務一覧
1-1.登記または供託手続の代理
1-2.法務局に提出する書類の作成
1-3.法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
1-4.裁判所または検察庁に提出する書類の作成および法務局に対する筆界特定手続書類の作成
1-5.上記業務に関する相談を受けること
2.独占業務以外に司法書士ができること
2-1.簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟・民事調停・仲裁事件・裁判外和解等の代理およびこれらに関する相談を受けること
2-2.対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理およびこれに関する相談を受けること
2-3.成年後見人・不在者財産管理人・破産管財人などの業務
2-4.遺言書の作成・執行、相続財産の承継などに関する業務
3.司法書士と弁護士・行政書士との業務範囲の違い
3-1.弁護士との業務範囲の違い
3-2.行政書士との業務範囲の違い
4.ますます広がる司法書士の業務範囲
5.まとめ
1.司法書士だけができる独占業務一覧
司法書士は登記の専門家であり、不動産登記や商業登記を主な業務としているイメージが強いと思います。
一方、司法書士は、法律の専門家として登記の他にも様々な業務を行うことができます。司法書士の職務について規定する司法書士法では、司法書士にしかできない独占業務について、次のように規定しています。
(非司法書士等の取締り)第七十三条 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行ってはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
参照:司法書士法73条1項|e-Gov法令検索
司法書士法は、他の法律に規定されている場合を除き、同法3条1項1号から5号に規定する業務を行うことを禁じています。
独占業務に該当するものについては、私たち一般市民の権利・義務を守るために必要な業務であり、専門知識がない他の士業が安易にその業務を行ってしまうと、市民の日常生活に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。
そのため、法律でその業務を行える者を限定し、市民の権利・義務を守っているのです。
司法書士法第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務は、次のとおりです。
◉ 登記または供託手続きの代理
◉ 法務局に提出する書類の作成
◉ 法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
◉ 裁判所または検察庁に提出する書類の作成および法務局に対する筆界特定手続書類の作成
◉ 上記業務に関する相談を受けること
司法書士しかできない司法書士法3条1項1号から5号に規定する業務について、詳しく解説していきます。
1-1.登記または供託手続の代理
不動産登記や商業登記(会社登記)手続きの代理業務や、供託手続きの代理業務は、司法書士の独占業務となります。
不動産登記とは、土地や建物などの不動産について、その所有者や権利関係などを第三者に公示するための登録制度のことです。
不動産登記は、必要書類を法務局に提出することで行いますが、複雑な必要書類を揃えたり、登録免許税の計算を自分で行う必要があるので、専門的知識に乏しい一般の方が行うのは非常に難易度の高いものとなっています。
正しい権利関係が表示されていないと、第三者が安全に不動産取引を行うことができなくなるので、不備のないよう慎重に登記をする必要があります。
また、会社に関する情報を登録する商業登記についても、その会社がどのような会社なのかを第三者に公示するために、非常に重要な役割を担っています。
会社の商号や役員の名前、発行済株式の総数や公開会社かどうかなどを適切に登記に反映することで、安全な取引を行うことができるようになるのです。
司法書士は、登記の専門家として、不動産登記や商業登記をメインに行っていくことになります。
さらに、司法書士は、法務局などの供託所に、お金や有価証券などを預ける供託手続きについても代理して行うことができます。
あまり馴染みがない手続きかもしれませんが、例えば、アパートの立て替えのためすぐに退去してほしい大家との話し合いがまとまらず、家賃を受け取ってくれない場合に、供託所に家賃を預けておけば、後になって家賃を払ってもらっていないなどと言われないで済むようになります。
供託を利用できるケースは多岐に渡りますが、司法書士は、供託手続きを代理することで、個人間のトラブルを解決することができるのです。
1-2.法務局に提出する書類の作成
法務局に提出する様々な書類を作成するのも、司法書士の独占業務の一つです。
不動産登記や商業登記に関する申請書はもちろん、登記の際に必要となる売買契約書や遺産分割協議書、株主総会議事録や取締役会議事録などの多岐に渡る書面作成を行うことができます。
これらの書類は、必要事項を法律のルールに従って正確に記載する必要があり、書類の内容に不備があると後々トラブルになる可能性があります。
司法書士は、法務局に提出する書類作成の専門家として、当事者から事実関係を綿密に調査し、正確な書面作成を行うことを業務としています。
1-3.法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
司法書士は、登記・供託に関する審査請求手続きの代理業務も行うことができます。
審査請求とは、行政庁が行った処分または不作為に納得できない場合に、その不服を申し立てることができる制度のことです(行政不服審査法1条)。
司法書士は、登記や供託に関して納得できない処分が下された場合に、代理人として審査請求を行うことができます。
専門的な用語が並ぶ審査請求書の作成や、複雑な手続きを進めるために、司法書士の専門的知識が多いに役立つことになるでしょう。
1-4.裁判所または検察庁に提出する書類の作成および法務局に対する筆界特定手続書類の作成
司法書士は、裁判所や検察庁に提出する各種書類の作成業務も行うことができます。
裁判所に提出する書類には、次のような書類があります。
◉訴状や準備書面
◉相続放棄申述書
◉遺言書検認申立書
◉成年後見人選任申立書
◉破産申立書 など
また、検察庁に提出する書類には、刑事告訴をする際の告訴状などが挙げられます。
これらの書類を正確に作成するためには、関連する法律に関する専門的知識が必要になるため、個人で作成するには困難を伴うケースがほとんどです。
司法書士は、事実関係を正確に把握し、専門的知識を駆使して法的に有効な書面を作成できます。
また、司法書士は、筆界特定手続における書面も作成する事ができます。
筆界特定手続とは、所有者の異なる隣り合っている土地の境界を決める手続きの事ですが、制度に馴染みのない人も多く、個人で申請書類を作成するのは難しいことも多いです。
司法書士は、これらの手続きにおける申請書類を作成することで、手続きをスムーズに進める手助けをすることができるのです。
1-5.上記業務に関する相談を受けること
これまでに紹介した手続きの代理や書面作成について、相談を受けて法律的な観点からアドバイスをすることも、司法書士の重要な業務の一つとなります。
それぞれ事案の特性や本人の要望など、事案ごとの対応方法について専門的な知識を持ってアドバイスができるため、依頼者が次に何をしたらいいのかを明確に示すことができます。
特に、司法書士のメイン業務でもある登記業務については、相続登記が義務化された影響もあり、今後ますます相談が増えていくことが予想されます。
2.独占業務以外に司法書士ができること
司法書士の業務は多岐に渡り、独占業務以外にも様々な業務を行う事ができます。
ここでは、司法書士が独占業務以外にできる事について解説していきます。
2-1.簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟・民事調停・仲裁事件・裁判外和解等の代理およびこれらに関する相談を受けること
認定司法書士であれば、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟や調停の代理人になる事ができます。
特別な研修を受け、認定考査と呼ばれる試験に合格すると、認定司法書士になる事ができます。
認定司法書士は、司法書士として特別な知識を持っている事を法務大臣に認められているため、通常の司法書士ではできない業務を行えるようになります。
例えば、140万円以下の貸金返還請求訴訟(貸したお金が返ってこない)や、140万円以下の過払金返還請求訴訟などの代理人となる事ができます。
市民にとって身近なトラブルを、簡易的な手続きで迅速に解決する手助けが出来るでしょう。
※認定司法書士については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→認定司法書士とは?司法書士との違いや特別研修・認定考査についても解説
2-2.対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理およびこれに関する相談を受けること
司法書士は、筆界特定手続の書類作成だけでなく、手続きの代理や手続きに関する相談を受ける事もできます。
土地や建物を売却する際に、その土地の境界について揉めるケースがあります。境界を確定しない限り、その土地を売却できないため、迅速にその土地の境界を決める必要があります。
筆界特定手続を利用すれば、境界確定訴訟などのように時間をかける事なく、スムーズに境界を特定する事ができます。
いち早く土地を売却したい人のニーズに応えられる制度であり、手続きをスムーズに進めるために司法書士の力が必要不可欠になるのです。
2-3.成年後見人・不在者財産管理人・破産管財人などの業務
司法書士は、家庭裁判所が選任する成年後見人や不在者財産管理人、破産管財人などの業務を行う事もできます。
成年後見人は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した方々の財産を管理したり、介護施設へ入所する際の契約を結ぶなどして、本人を保護・支援します。
また、相続人の中に連絡が取れない人がいて、遺産分割協議がなかなか進まない場合に、不在者の代わりに協議に加わるなどして手続きを進める不在者財産管理人も、司法書士の重要な業務の一つです。
さらに、破産手続きにおける破産者の財産を管理・処分する破産管財人の業務も行えるため、様々な事情を持った方の財産を適切に管理する業務を行うことができるのです。
2-4.遺言書の作成・執行、相続財産の承継などに関する業務
司法書士は、遺言書の作成や遺言執行者、相続財産を次の世代に承継させる業務を行う事もできます。
遺言書を作成しておけば、自分が亡くなった後のトラブルを回避できますし、自分の意思を相続人に正確に伝える事ができます。
一方で、遺言書には様々な形式があり、ルールに沿った上で作成しないと、遺言そのものが無効になってしまう可能性があります。
相続に関する専門的知識がある司法書士は、被相続人の意思を正確に反映した遺言書を作成できるだけでなく、遺言を執行する遺言執行者になる事もできます。
また、家族信託などの生前対策に関する書面作成やアドバイスもできるため、相続に関して幅広い業務を行う事が可能となります。
3.司法書士と弁護士・行政書士との業務範囲の違い
司法書士の業務範囲が多岐に渡ることは間違いありませんが、同じ法律系の資格である弁護士や行政書士とは、何が違うのでしょうか。
ここでは、司法書士と弁護士・行政書士の業務範囲の違いについて解説していきます。
3-1.弁護士との業務範囲の違い
弁護士は、行政書士、税理士、社労士、弁理士、海事保佐人、それぞれの試験に合格することなく登録ができ、それぞれの業務を行うことが可能です。
司法書士への登録は認められていませんが、独占業務である不動産登記や商業登記業務も行えることが裁判で認められているため、ほとんど全ての法律業務を扱えることになります。
一方、司法書士は、書面作成や法律手続きの代理業務を行えるものの、その業務範囲には一定の制限があります。
例えば、相続の場面で遺産分割協議書の作成を行うことはできますが、相続人の代理人となって交渉を行うことはできません。
また、認定司法書士であれば訴訟や調停の代理人になることができますが、簡易裁判所以外の裁判所を管轄とする事件や、争っている金額が140万円を超える場合には対応できません。
以上のように、弁護士の方が司法書士よりも幅広い業務に対応できるようになっています。
しかし、実際には、弁護士が登記手続きを積極的に行うことはまれであり、弁護士と司法書士は業務の棲み分けができているのが実情です。
3-2.行政書士との業務範囲の違い
官公署に提出する書類作成を主な業務とする行政書士は、司法書士とは取り扱う業務範囲が異なります。
これまでご紹介してきたように、司法書士も各種法的書面を作成することができますが、行政書士は、許認可等に関する申請書類を主な業務としています。
また、例えば会社を設立する際の業務範囲について、行政書士なら会社の定款を作成することができますが、会社設立の登記を法務局に申請できるのは、司法書士だけです。
一方で、例えば古物ビジネスを行う会社を設立する場合には、会社設立の登記だけでなく、古物商許可申請を行う必要がありますが、この許可申請は行政書士しか行うことができません。
このように、司法書士と行政書士の業務範囲は異なっており、業務を分担して市民の権利・義務を守っています。
そのため、業務範囲を広げ、ワンストップでサービスを提供するために、行政書士と司法書士のダブルライセンスを取得して活躍する方も多くいらっしゃいます。
※司法書士のダブルライセンスについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→司法書士のダブルライセンスは何がいい?おすすめの資格を徹底解説
4.ますます広がる司法書士の業務範囲
急速に進む高齢化の影響や相続登記の義務化などの法改正により、司法書士の業務範囲は年々広がっています。
従来の登記業務に加え、遺言書の作成や家族信託などの生前対策に関する業務、相続放棄などの相続に関する業務や簡易裁判所における訴訟代理業務など、一般市民からのニーズを満たす業務も多数存在しています。
さらには、司法書士の資格を活かして企業法務に携わったり、経営コンサルティングを行うなど、アイデア次第で様々な業務を行えるようになってきました。
AI時代の到来により、司法書士の仕事がなくなるのではないかという意見もありますが、業務範囲の広い司法書士の仕事が全て取られてしまうことは考えにくいでしょう。
司法書士の業務範囲は今後ますます広がっていくことが予想され、資格を活かして専門知識をアピールできれば、仕事の垣根を超えて仕事ができる魅力的な仕事であると言えるのです。
※司法書士の将来性については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→司法書士は「仕事がない」って本当?現状や将来性について徹底解説!
→AI時代の司法書士の将来性と活躍の秘訣について解説
5.まとめ
司法書士には、下記のとおり、専門的知識を持っている司法書士しかできない独占業務が存在します。
◉ 登記または供託手続きの代理
◉ 法務局に提出する書類の作成
◉ 法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
◉ 裁判所または検察庁に提出する書類の作成および法務局に対する筆界特定手続書類の作成
◉ 上記業務に関する相談を受けること
不動産登記や商業登記の他にも、相続に関する業務や各種書面作成も行える司法書士の業務は、年々広がっています。
どの業務も個人の権利・義務に直結する重要な業務であり、その分責任を持って業務を行う必要があります。
専門的知識を使い社会の役に立てる司法書士は、非常にやりがいのある仕事です。
もし、少しでも司法書士の仕事に興味がある方は、ぜひ司法書士試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

著者:伊藤塾 司法書士試験科
伊藤塾司法書士試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの司法書士試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、司法書士試験に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。
