地面師とは?ドラマ化された55億円事件の真相と司法書士の役割を解説

Netflixのドラマ「地面師たち」で一躍注目を集めた「地面師」という存在。
ドラマを見て「こんな巧妙な詐欺が実際にあるの?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか?
驚くべきことに、このドラマにはモデルとなった事件が存在しており、実際に55億円もの被害が発生しています。他人の不動産を自分のものと偽り、億単位の取引を成立させてしまう「地面師」とは一体何者なのか…?
この記事では、地面師詐欺の実際の手口や、モデルとなった積水ハウス事件の真相など、ドラマでは描ききれなかった地面師詐欺の実態について解説します。さらに、こうした犯罪から私たちを守る司法書士の役割についても取り上げました。
ドラマや小説で「地面師」を知った方はもちろん、法律の仕事に関心がある方もぜひご一読ください。
【目次】
1.地面師とは?
2.地面師詐欺の手口
2-1.物件の選定と購入者への接触
2-2.地面師グループ内での役割分担
2-3.偽造書類の準備
2-4.取引(詐欺)の実行
3.ドラマや小説「地面師たち」のモデルとなった積水ハウス事件
3-1.ターゲットとなった不動産
3-2.関わった地面師たち
3-3.事件の流れ
3-4.積水ハウス地面師詐欺事件の結末は?
4.Netflixの「地面師たち」はどこまでリアル?
5.地面師詐欺と司法書士の関係は?
5-1.司法書士が行う決済立会
5-2.実務ではどうやって本人確認をする?
5-3.地面師詐欺を見抜けかったときの責任
5-4.大切なのは焦らないこと
6.【動画】司法書士が実務で注意すべきポイントは?坂本講師からのメッセージ
7.まとめ
1.地面師とは?
2017年、逮捕者15名を出し、55億5千900万円もの金額がだまし取られた積水ハウス事件。
Netflixのドラマ「地面師たち」で有名になった事件ですが、この巨額詐欺を実行したのが「地面師」と呼ばれる不動産詐欺師たちです。
地面師とは、他人の不動産を自分のものと偽って売却する不動産詐欺のプロフェッショナルです。彼らは本物の所有者になりすまし、精巧に偽造された身分証明書や印鑑証明書を駆使して、億単位の不動産取引を成立させます。そして、取引完了と同時に姿をくらまし、真の所有者が被害に気づいた時にはすでに手遅れとなっています。
2.地面師詐欺の手口
Netflixの「地面師たち」では、地面師詐欺の手口が驚くほどリアルに描かれています。
ドラマを見て「こんな手の込んだ詐欺が本当にあるの?」と疑問に思った方も多いでしょう。しかし、現実の地面師詐欺はドラマと同じくらい巧妙で組織的なのです。
地面師詐欺は、入念な準備と計画に基づいた複数の詐欺師によるチームプレーです。どのように詐欺が実行されるのか、その手口を見ていきましょう。
2-1.物件の選定と購入者への接触
地面師詐欺では、まずターゲットとなる土地情報を、地面師グループが不動産ブローカーなどから入手します。狙われやすいのは、長期間利用されていない土地や所有者が高齢で不在がちの物件です。そのような物件の真の所有者になりすまし、購入希望者(被害者)に「土地を売りたい」と持ちかけます。
2-2.地面師グループ内での役割分担
このとき、地面師は単独ではなく組織的に動いているケースが通常です。
グループ内では、以下のように細かく役割分担がされています。
・全体を指揮する黒幕
・書類(身分証明書など)を偽造する専門家
・所有者のなりすまし役
・不動産会社を装う仲介役
・その他の協力者 など
2-3.偽造書類の準備
ターゲットが決まったら、売買契約にむけて、本物そっくりの身分証明書や印鑑証明書を用意します。運転免許証、パスポート、印鑑登録証明書、登記済権利証など、複数の公的書類が偽造されます。
なお、全ての書類が偽造されるわけではありません。中には、市区町村役場で「印鑑登録証を失くしたので再発行してほしい」と申請し、偽造パスポートを使って「本物の」印鑑証明書が取得されるケースもあります。
2-4.取引(詐欺)の実行
契約が決まったら、決済当日、偽造した身分証・印鑑証明・権利証を示して、取引を実行します。決済日には、司法書士などの専門家も立ち会いますが、
「忙しくて時間がない」
「そのようなことを確認するのは失礼だ」
「他にも買いたい人がいる」
などと急かして、慎重に考える時間を与えないよう巧みに誘導していきます。
そして契約が成立し、数億円もの売買代金が振り込まれると、地面師グループは連絡がつかなくなります。
後日、本物の所有者が「自分の土地が勝手に売られている」と気づいた時には、すでにお金は回収不能になっているのです。現金は海外の口座などを経由させて追跡を困難にし、関係者は偽名を使っているため特定も難しいケースが通常です。
3.ドラマや小説「地面師たち」のモデルとなった積水ハウス事件
2017年に発覚した「積水ハウス地面師詐欺事件」は、地面師詐欺として過去最大級の被害額となり、大きく報道されました。
住宅大手の積水ハウスが、東京都品川区西五反田の老舗旅館「海喜館(うみきかん)」の土地取引をめぐって地面師グループに騙され、約55億円もの代金を支払ってしまったのです。この事件はNetflixのドラマ「地面師たち」のモデルにもなっています。
(出典:積水ハウス株式会社 総括検証委員会|分譲マンション用地の取引事故に関する総括検証報告書の受領及び公表について)
3-1.ターゲットとなった不動産
積水ハウス事件でターゲットになったのは、東京都品川区西五反田にある一等地の不動産でした。この土地は約2000㎡という広さがあり、かつて「海喜館」という旅館があった場所です。
積水ハウスは、ここに高級マンションを建設する計画を立てていました。
地面師たちがこの土地を狙った理由には、土地の価値が非常に高く、売却すれば数十億円という大金になることが挙げられます。所有者が遠方に住む高齢の女性であったため、なりすましがしやすかったという点もありました。
さらに、この土地は不動産業者の間では「所有者が決して売却しようとしない物件」として有名でした。そのため、珍しく売りに出たという噂を聞いた積水ハウスは、取引に慎重になるよりも「貴重な機会」と考えて、前のめりになりやすい状況だったのです。
3-2.関わった地面師たち
積水ハウス事件には、複数の地面師が関わっていました。事件後、総勢10名が起訴されて有罪判決を受けています。
メンバーは細かく役割分担されており、上位者グループ(指示役)、なりすまし役、前さばき役(なりすまし役に付き添って、契約をスムーズに進める付き添い役)、書類偽造の専門家などに分かれていました。
積水ハウスと直接接触したのは「なりすまし役の女性」と「前さばき役」の2名だけでしたが、その裏側では多くの仲間が連携し、綿密な計画が実行されていたのです。
特に巧妙だったのは、本物の所有者と同年代の女性を準備し、所有者についての情報を徹底的に教え込んだことです。さらに、紫外線照射しても見抜けないような偽造パスポートを作り、それを使って印鑑登録証明書や住民票などの本物の書類も入手していました。
弁護士や公証人まで騙して、本人確認の証明書を取得するなど、プロをも欺く高度な手口が用いられていました。
3-3.事件の流れ
積水ハウス事件のはじまりは、地面師グループが土地の転売ビジネスを手がける人物に接触したことでした。この転売人が、積水ハウスの営業次長に土地の購入を持ちかけたのです。
積水ハウスは当初疑っていましたが、公証人による本人確認済みの資料を見せられると取引に前向きになりました。そして、4月14日に購入方針を決定。わずか10日後に売買契約を締結し、手付金として14億円を支払いました。
ところが、5月に入り不審な兆候が現れます。真の所有者を名乗る人から「私は売買契約をしていない」という内容証明郵便が届いたのです。しかし、積水ハウスは「ライバル会社や内縁の夫による取引妨害だ」と解釈し、むしろ7月末予定だった決済日を6月1日に早めることにしました。
そして6月1日、積水ハウスの会議室に関係者が集合し決済立会が行われました。残金49億円が支払われて、所有権移転登記が申請されたのです。
6月6日、東京法務局から「健康保険証が偽造されている」という理由で登記申請却下の連絡が入りました。このとき初めて詐欺の事実が発覚し、積水ハウスは計63億円という巨額の被害を受けることになったのです。
3-4.積水ハウス地面師詐欺事件の結末は?
この事件で、積水ハウスは約55億6000万円という巨額の損害を被りました。
積水ハウスはこの被害を受け、即座に刑事告訴を行い、9月15日に警視庁捜査2課に受理されました。その結果、地面師グループ10名全員が詐欺罪などで起訴され、2019年〜2020年にかけて、順次有罪判決が下されました。
主犯格とされる人物は懲役12年(控訴中)という厳しい刑罰を受けています。
4.Netflixの「地面師たち」はどこまでリアル?
Netflixドラマ「地面師たち」は、多くの司法書士から「驚くほどリアル」と評価されています。実際の不動産取引の流れや登記手続き、本人確認の方法など、専門的な内容がかなり正確に描かれているのです。
例えば、ドラマの中で、司法書士がライトを当てて運転免許証の真贋を確認したり、本人しか知り得ない質問を投げかけて本人性を確かめたりするシーンがありますが、これらは実務でも用いられる方法です。大手デベロッパーが巨額の被害に遭う展開も、現実の積水ハウス事件そのものといえるでしょう。
とはいえ、これはあくまでドラマ(フィクション)です。視聴者を引きつけるための脚色や創作が含まれているので、実際とは異なる部分もあります。
このドラマを見て、「不動産取引って怖い…」「司法書士の仕事って大変そう…」と感じた方もいるかもしれませんが、安心してください。
もちろん警戒は必要ですが、実際に「地面師たち」のような案件に遭遇することは少ないです。特に、「積水ハウス事件」のような詐欺事件に巻き込まれる可能性は、極めて低いでしょう。
一方で、司法書士の仕事を知るきっかけになるという点では、「地面師たち」は非常に珍しいドラマです。司法書士試験に興味がある方は、あくまでもイメージを掴むきっかけとして、ドラマを楽しんでみてください。
司法書士の仕事について詳しく知りたい場合は、ドラマでなく、実際に先輩司法書士から話を聞いてみるのがおすすめです。
5.地面師詐欺と司法書士の関係は?
地面師詐欺のような犯罪を防ぐために欠かせない専門家が司法書士です。
現実の不動産取引では、司法書士が立会人となり、売主・買主双方の本人確認を行って「間違いなく本人である」と担保することで、地面師からクライアントを守っています。
司法書士が、不動産取引でどのような役割を担っているのか、地面師と司法書士の関係をみていきましょう。
5-1.司法書士が行う決済立会
不動産取引で、司法書士に最もプレッシャーがかかる場面が、「決済立会」です。
登記申請当日、売買契約の関係者が集まり、司法書士が立ち会って書類や本人性の確認を行い、「決済して問題ありません」と宣言するのです。
この宣言があるまで、お金の受け渡しは行われません。つまり、司法書士がOKを出さない限り、取引の決済ができないシステムになっているのです。ここでしっかりと確認すれば、地面師詐欺からクライアントを守ることができます。
とはいえ、本人確認は決して簡単ではありません。実務では、司法書士が売買当事者と対面するのは、決済立会日のみというケースが大半です。ほぼ初対面の状態で、免許証や印鑑証明書などを手がかりに、目の前の人物が本当の所有者かどうかを確認しなければいけません。
さらに悩ましいのが、不動産取引の主役はあくまでも買主と売主だという点です。下手に疑って真っ当な取引まで破談にしてしまったら大問題になりかねません。
司法書士には、安全性を担保しながらも、スムーズに取引を進めていくバランス感覚が求められるのです。
5-2.実務ではどうやって本人確認をする?
Netflixドラマ「地面師たち」では、司法書士が犯人のなりすましを確認するシーンがありました。実は、司法書士の実務でも全く同様の確認が行われています。
まず基本となるのは、書類による形式的な本人確認です。運転免許証やパスポート、マイナンバーカードといった顔写真付きの身分証明書を確認し、写真と目の前の人物が同一かどうかをチェックするのです。
加えて、身分証明書自体が偽造されているリスクも考慮します。例えば、運転免許証を裏からライトで照らしてホログラムや透かし模様を確認したり、ICチップの情報をカードリーダーで読み取ったりすることもあります。
さらに、少しでも不審な点を感じた場合には、本人しか知り得ない質問を投げかけます。
「あなたの干支は何ですか?」と尋ねたり、「この物件にまつわる思い出はありますか?」などと質問することで、「本当に本人なのか」を念入りに確認していくのです。
5-3.地面師詐欺を見抜けかったときの責任
なりすましを見抜けなかったからといって、すぐに司法書士の責任となるわけではありません。身分証が精巧に偽造されていたり、なりすまし役が演技指導を受けていたりすると、いくら確認しても、決済立会だけで見抜けないケースもあるからです。
この場合、司法書士の責任は「必要な注意を尽くしていたか」という観点から判断されます。例えば、そもそも免許証の原本確認自体を怠っているようなケースでは、司法書士の過失が認められて、懲戒処分となる可能性が高いです。(出典:名古屋地判平23年4月22日)
一方で、「地面師たち」のモデルとなった積水ハウス事件では、直ちに司法書士としての注意義務違反があったとはいえないとされました。司法書士に対する損害賠償請求訴訟が提起されていましたが、最高裁で「破棄差戻」となったのです。(出典:最判令2年3月6日)。
さらに、同判決には「司法書士にいかなる意見を述べることが現実的に可能であったのかを見極めてほしい」という裁判官の補足意見も付されています。
つまり、司法書士として果たすべき責任をしっかりと果たしていれば、必ずしも責任が問われるわけではないのです。
5-4.大切なのは焦らないこと
結局、司法書士としてもっとも大切なのは、自分のペースで焦らずに仕事をすることです。
地面師グループに限らず、決済立会では様々なプレッシャーがかかってきます。仮に、相手が地面師グループなら、「この後、予定があって急いでいる」「疑うなんて失礼じゃないか」などと、様々な理由で取引を急がせようとするでしょう。通常の不動産会社や買主・売主であったとしても、早く終わらせたいという気持ちから、司法書士を急かすことがあります。
しかし、焦ってしまうと冷静な判断ができなくなり、普段なら気づくはずの不自然な点を見落としてしまうかもしれません。積水ハウス事件でも、取引を急がされたことが被害を大きくした一因とされています。
どんなに急かされても「これは私の仕事です」と毅然とした態度で確認を進めましょう。
必要な確認を省略せず、落ち着いて仕事を進めていく姿勢が、結果的にクライアントを守ることにもつながるのです。
6.【動画】司法書士が実務で注意すべきポイントは?坂本講師からのメッセージ
地面師詐欺の話を聞くと、司法書士の仕事は責任が重く緊張感のあるものだと感じるかもしれません。しかし、だからといって過度に不安になる必要はありません。
司法書士として知っておくべき注意点さえ押さえておけば、多くの危険なサインを事前に察知できるようになるからです。
伊藤塾の講師であり、司法書士としても活躍中の坂本龍治講師が、不動産取引の「決済立会で注意すべきポイント」について解説します。司法書士の仕事に興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
7.まとめ
地面師は、他人の不動産を自分のものと偽って売却する不動産詐欺のプロフェッショナルです。ドラマの世界だけの話ではなく、モデルとなった積水ハウス事件では実際に55億円もの被害が発生しました。
そして、こういった詐欺事件を防ぐ重要な役割を果たしているのが司法書士です。
プレッシャーを感じる場面もあるかもしれませんが、不動産取引の根幹を支える非常にやりがいのある仕事だといえるでしょう。ドラマを通じて司法書士の役割に興味を持った方は、ぜひ司法書士試験にチャレンジしてみてください。
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著者:伊藤塾 司法書士試験科
伊藤塾司法書士試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの司法書士試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、司法書士試験に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。
