司法書士と行政書士の違いとは?難易度や仕事・ダブルライセンスのメリットとは?
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法律系の国家資格の中でも、特に司法書士と行政書士の違いがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
どちらも業務独占資格であるという共通点がありますが、その業務内容や試験の難易度は大きく異なります。
独立開業を目指して資格取得を目指す人や、資格を取得して一般企業で働こうと考えている人など、どちらの資格を取得すべきか迷われている方も多いと思います。
そこで、この記事では、司法書士と行政書士の違いを、①業務内容、②試験の難易度、③年収の3つの観点から解説した上で、司法書士と行政書士どちらを優先して取得すべきかについて解説していきます。
司法書士と行政書士の2つの資格を取得するダブルライセンスについても解説していきますので、資格取得に興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
【目次】
1.司法書士と行政書士の違いとは?
1-1.業務内容の違い
1-2.試験難易度の違い
1-3.年収の違い
2.司法書士と行政書士はどちらがおすすめ?
2-1.司法書士と行政書士に優劣はない
2-2.司法書士がおすすめな人
2-3.行政書士がおすすめな人
3.司法書士と行政書士のダブルライセンスのメリット
3-1.仕事上のメリット
3-2.試験対策上のメリット
4.司法書士と行政書士はどちらを優先して取得すべき?
5.まとめ
1.司法書士と行政書士の違いとは?
法律系の資格の中でも名前が似ている2つの資格ですが、メインとなる業務内容は大きく異なります。
まずは、2つの資格の違いを、業務内容・試験の難易度・年収の3つの観点から確認してみましょう。
1-1.業務内容の違い
司法書士は、不動産登記や商業・法人登記などの登記申請を中心に行なう登記の専門家です。
国民の権利や財産を守る役割が求められているため、「街の法律家」とも呼ばれています。
登記とは、国民の重要な権利や義務などを社会に向けて公示することで、その権利を保護し、取引を円滑に進めるために認められている法制度です。
例えば、不動産登記であれば、土地の広さや建物の情報、誰がいつどのようにその不動産を取得したかなどの詳細な情報が記載されています。また、法人登記であれば、会社の名称や代表者の名前、資本金などの会社に関する情報が記載されています。
司法書士は、これらの複雑で煩雑な手続きを独占業務(資格を持つ人のみが行える専門の業務)として行っています。
また、司法書士の業務内容は近年広がりを見せており、特別な認定を受けることで、一定額以下の案件に限り、代理人として裁判を行なうことができます。また、高齢や病気などで判断能力の衰えた方の財産や権利を守るために、成年後見人や保佐人などになることもできます。また、司法書士としての知識や経験を活かして、企業の法務部で働く方もたくさんいます。
このように、登記関係の業務がメインではありますが、私たちの権利・財産を守るためにさまざまな活動をしているのが、司法書士という職業になります。
一方、行政書士のおもな業務は書類作成業務です。
なかでも、以下の3つの書類作成業務は行政書士の独占業務です。
①官公署に提出する書類の作成
飲食店を出店したい、建設業で開業したい、農地に住宅を建てたいなど、官公署に申請が必要となる場合には、各行政機関に申請書類を提出して「許可」や「認可」を受ける必要があります。
②権利義務に関する書類の作成
お金の貸し借りの際の契約書の作成や、争いごとで示談したときの示談書の作成、離婚する際の離婚協議書や、遺産分割をした際の遺産分割協議書の作成など、私たちの権利・義務に直接関わる書面の作成を行います。
③事実証明に関する書類の作成
実地調査に基づく各種図面類(位置図、案内図、現況測量図等)、定款、各種議事録、会計帳簿、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表、申述書等などの作成を行います。
行政書士は、これらの公的な書面作成、申請手続きの専門家であり、スムーズに申請手続きを進めることができます。
また、法律の専門家としての立場から、中小企業に対して法務的観点から幅広いアドバイスを行なったり公的書面のIT申請などにも対応することができます。
2つの職業における業務内容の違いを、比較表にまとめました。
司法書士と行政書士の業務比較表 | ||
取扱業務 | 司法書士 | 行政書士 |
不動産登記・ 商業登記申請 | ○ | × |
相続登記 | ○ | × |
供託業務 | ○ | × |
訴額140万円以下の 簡易裁判所における 民事事件に関する業務 | ○ | × |
業務に関わる相談 | ○ | ○ |
遺産分割協議書や離婚 協議書、遺言書などの 私人の権利・義務に 関する書面の作成 | ○ | ○ |
相続放棄の申請 ※代理人となること はできない | ○ | × |
遺言書の検認 | ○ | × |
飲食業、建築業に 関する許認可手続き | × | ○ |
車庫証明などの 自動車に関する手続き | × | ○ |
外国人の在留資格に 関する手続き | × | ○ |
1-2.試験難易度の違い
司法書士試験および行政書士試験は、ともに法律系の国家資格であり、法律関係の知識が問われる点では共通しています。
また、司法試験のように受験資格に制限がないため、誰でも気軽に受験できるところも、受験生に人気がある理由となっています。
ここで、2つの試験の違いを比較してみましょう。
司法書士 | 行政書士 | |
試験科目 | 11科目 ・憲法 ・民法 ・刑法 ・商法 (会社法) ・不動産登記法 ・商業登記法 ・民事訴訟法 ・民事執行法 ・民事保全法 ・供託法 ・司法書士法 | 6科目 ・憲法 ・行政法 ・民法 ・商法 ・基礎法学 ・行政書士の業務に関し 必要な基礎知識 |
試験形式 | 択一式 記述式 口述 | 択一式 記述式 |
評価方法 | 相対評価 | 絶対評価 |
合格率 | 4〜5% | 10% |
合格までに 必要な勉強 時間の目安 | 2,000〜 3,000時間 | 800~ 1,000時間 |
同じ法律系の資格試験でも、科目数や出題範囲、評価方法など、ほとんど全ての面で異なるのがわかるかと思います。
特に特徴的なのが、司法書士試験では筆記試験後に口述試験があることです。例年、口述試験で落ちてしまう人はほとんどいませんが、もし不合格となってしまった場合には、筆記試験から受け直しとなります。
一方、行政書士試験の場合、合格基準点を越えれば、他の受験生の成績に関わらず必ず合格できる絶対評価の試験です。そのため、他の受験生の成績に左右される相対評価の司法書士試験よりも、対策が立てやすいと言えるでしょう。
なお、単純に合格率や合格までに必要な勉強時間を比較すると、司法書士試験の方が行政書士試験よりも難易度が高いように感じるかもしれませんが、出題される問題の相性や試験科目の得意不得意もあるため、一概には言えません。
なお、各試験の合格率や難易度については、こちらの記事もご参照ください。
→司法書士試験の難易度は?他資格との比較や合格するためのポイントを解説
→司法書士試験の合格率は?2023年の合格率や推移・なぜ低いのかについても解説
→行政書士試験の難易度ランキングや偏差値は?初心者・独学で合格できるかも解説
→行政書士試験の合格率はどのくらい?合格率が低い理由や推移についても解説
1-3.年収の違い
厚生労働省が公表しているデータによると、令和4年の司法書士の年収の全国平均は971.4万円となっています。
参照:司法書士|厚生労働省
一方、令和4年に調査した時点での行政書士の平均年収は579.8万円となっています。
参照:行政書士|job tag 職業情報提供サイト 日本版O-NET(厚生労働省)
令和4年度における給与所得者の平均給与が457.6万円であることを考えると、司法書士および行政書士の平均年収は、サラリーマンの平均よりもかなり高いことがわかります。
参照:令和4年分民間給与実態統計調査結果
このように、平均年収で見ると、司法書士の方が行政書士よりも稼げる資格であるように見えるかもしれません。しかし、どちらの資格も、法律事務所や企業で勤務した場合と独立開業した場合とで、年収が大きく変わってきます。実際に、司法書士資格を持っていても行政書士の平均年収に届かない人もいれば、行政書士で司法書士の平均年収を大きく超える収入を得る人もいます。
実務経験を積み、クライアントからの信頼を勝ち取ることができれば、どちらも十分稼げる資格であると言えるでしょう。
※なお、司法書士および行政書士の年収については、次の記事もご覧ください。
→司法書士の年収の現実とは?平均年収から収入を上げる方法まで徹底解説
→行政書士の年収の現実は?女性・雇われ・開業・中央値など比較解説
2.司法書士と行政書士はどちらがおすすめ?
どちらも働きながら合格を目指せる資格であるため、司法書士と行政書士でどちらの勉強を始めるべきか迷っている方も多いでしょう。
ここでは、司法書士と行政書士のどちらの資格を取得すべきかについて解説していきます。
2-1.司法書士と行政書士に優劣はない
同じ法律系の資格であることから、資格取得の対象として比較されることの多い司法書士と行政書士ですが、お互いにカバーしている業務範囲が異なるため、どちらを取得したほうが優位になるといったことはありません。司法書士にしかできない仕事もあれば、行政書士にしかできない仕事もあります。
近年では、司法書士や行政書士の役割も拡大しており、それぞれの資格取得過程で得た知識や業務経験を基に、企業のコンサルティングやIT関連での業務を行なう人も増えています。
どちらの資格を取得したとしても、年々業務の幅は広がっており、職業の枠を飛び越えてさまざまなフィールドで活躍できる可能性があります。
2-2.司法書士がおすすめな人
例えば次に挙げるような方であれば、司法書士に向いていると言えるでしょう。
◉不動産登記や商業登記に興味がある人 ◉認定を受けて訴訟代理業務も行なってみたい人 ◉独立開業してさまざまな分野で活躍したい人 |
司法書士のメイン業務は、不動産登記や商業登記などの登記申請業務です。もともと登記に興味があるのであれば、司法書士が向いていると言えるでしょう。
また、認定を受ければ、訴額140万円以下の簡易裁判所における民事事件の訴訟代理人となることもできる司法書士は、裁判に携わりたいと考えている人にとっては魅力ある職業であると言えるでしょう。
さらに、司法書士は独立開業して事業が軌道に乗れば、年収1,000万円も目指すことができる夢のある資格です。女性であっても男性と同じように活躍することができることから、男女問わず人気の職業となっています。
2-3.行政書士がおすすめな人
許認可に関する書面作成や申請の代行業務がメインの行政書士に向いている人は、次の通りです。
◉できるだけ早く資格を取得して次のステップに進みたい人 ◉多岐に渡る書類作成業務に興味がある人 ◉資格を担保にして仕事したい人 |
行政書士試験は、法律系の資格の中でも比較的取得しやすく、司法試験や司法書士試験の登竜門として取得する人も多いです。資格を取得して、自分の法律的な知識を客観的に担保した上で、別の仕事をすることを考えている人にとっても、行政書士はおすすめの資格となるでしょう。
もちろん、業務内容から見れば、さまざまな分野で多岐に渡る書面の作成業務に興味がある人も、行政書士はおすすめの資格となります。
また、司法書士と同様に、資格取得後すぐに独立開業することができる行政書士であれば、自分がやりたかった仕事をすぐにできる上、クライアントからの信頼を勝ち取ることができれば年収1,000万円も夢ではありません。
3.司法書士と行政書士のダブルライセンスのメリット
司法書士と行政書士のどちらを目指すべきか迷っているのであれば、司法書士と行政書士のダブルライセンスを検討してみるのもおすすめです。
ここでは、ダブルライセンスのメリットについて、仕事上のメリットと試験対策上のメリットに分けて解説していきます。
3-1.仕事上のメリット
行政書士と司法書士は、それぞれ業務の範囲が異なります。
2つの資格を持って仕事ができるのであれば、仕事の幅を大きく広げることができるでしょう。
例えば、協議離婚した際の離婚協議書と財産分与の名義変更登記や相続が発生した場合の遺産分割協議書の作成と相続登記、飲食業開業に伴う許認可の申請と会社設立登記など、2つの資格を所有していることでスムーズに手続きを行なうことができます。
依頼可能な業務範囲が広くなればなるほど同業者との差別化を図ることができ、クライアントへのアピールポイントとなることから、仕事を得られやすくなります。また、ワンストップで問題を解決できることから、色々なところに依頼するのが面倒だと考えるクライアントの心を掴みやすくなります。
司法書士や行政書士はどちらも専門性の高い資格です。1つの資格保持者より、2つの資格を持っている方が、より専門性や信頼性が上がり、報酬も高額になる傾向があります。
3-2.試験対策上のメリット
司法書士試験と行政書士試験はどちらも法律の試験であり、問題の質は異なるものの、共通している科目も多いです。そのため、一方の資格取得後にもう一方の資格取得に向けて勉強する際に、理解がしやすくなるというメリットがあります。
憲法・民法・商法(会社法含む)などの共通科目はもちろん、法律の基本的な考え方や思考方法を学んでおけば、一般的に合格までに必要だと言われている勉強時間よりも少ない時間で合格できる可能性が高まります。
もし、司法書士と行政書士のダブルライセンスを検討しているのであれば、時間の経過で試験の知識が抜けてしまう前に、もう一方の資格取得に向けて勉強を始めることをおすすめします。
4.司法書士と行政書士はどちらを優先して取得すべき?
すでに述べたように、司法書士と行政書士では取り扱うことができる業務の範囲が異なるため、どちらを優先して取得すべきかは人によって異なります。
単純に業務範囲だけを考えるのであれば、扱える業務の幅が広い司法書士を優先して取得するのがよいでしょう。
一方で、将来的にダブルライセンスを考えているのであれば、比較的短時間で合格しやすい行政書士試験を先に受験しておいて、あとから司法書士試験に臨んだ方が比較的スムーズに勉強を進めることができます。
もちろん、司法書士試験に合格してから、業務の幅を広げるために行政書士の資格を取る方も大勢います。
大切なのは、合格後にどんな仕事をしたいのか、将来的になりたい自分を想定して、そのために必要な資格が何なのかを考えることです。
勉強のモチベーションを最後まで保つためにも、自分に向いている資格はどちらなのか判断し、計画的に勉強することをおすすめします。
5.まとめ
司法書士と行政書士は同じ法律系の国家資格ですが、業務内容や試験制度など、さまざまな面で異なります。
司法書士は登記の専門家で、行政書士は書類作成の専門家ではありますが、それぞれの専門的知識を駆使して、さまざまな場面で活躍しています。
どちらを取得すべきかは、将来的に自分が何をしたいのかを重視して決めるべきですが、業務の幅を広げて活躍の場を広げたいのであれば、ダブルライセンスも検討すると良いでしょう。
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著者:伊藤塾 司法書士試験科
伊藤塾司法書士試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの司法書士試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、司法書士試験に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。
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