真の法律家・行政官を育成する「伊藤塾」
 
2007.11.01

第147回 責任

 年金問題、C型肝炎問題が片づかないうちに、今度は防衛省幹部の接待疑惑です。国防だ、国際貢献だと綺麗事を言っても所詮は金儲け、利権の世界なんだと、軍需産業の本質を改めて国民に暴露してしまいました。財界人が盛んに憲法9条を削除して軍隊を持とうと主張する理由がよくわかります。

 「北朝鮮がミサイルを発射したらどうするんだ。国民を守るのが国の責任だから軍隊が必要だ」という政治家がいます。北朝鮮が攻めてくることを政府が本気で警戒しているのであれば、なぜ原発を日本海側にあれだけ作らせるのか。朝鮮半島有事の際には25万人ほどの避難民が日本に押し寄せてくると予測されているにもかかわらず、なんの対策も考えないのはなぜか。それは攻めてくるなどと本気で考えていないからです。国民をこうした言葉で煽ることによって不安を駆り立て、防衛費を増額し、アメリカから高額の武器を購入しやすくしているだけです。

 アメリカ空母艦載機部隊の岩国基地への移転を受け入れなければ、岩国市庁舎の建設費35億円を国は支払わないと言っています。3年前に国からの補助が確定し、すでに着工しているにもかかわらずです。住民投票によって反対する住民の声ははっきりしていますが、それでも国がいやがらせをしているわけです。そんな中で米兵による集団強姦事件が起こりました。住民は将来の子どもたちの生活の平穏を守れないと言って反対しています。住民の生命と財産を守るのが国の仕事であるはずなのに、政府はどのような責任を果たそうとしているのでしょうか。

 日本が国際社会で責任を果たすためには、アメリカに無償で油を提供し続けなければいけない理由がどこにあるのか、何の説明もありません。日本が果たすべき責任とは何か。与党は、アメリカの報復戦争に参加してテロリストをやっつけることだと考えているようです。民主党の小沢代表は国連の治安維持活動に武力をもって参加することだと考えているようです。どちらも武力や軍事力による活動に日本も参加することが日本の責任だと考えているようです。

 それが本当に憲法9条を持つ国の果たすべき責任でしょうか。日本はどのような名目の戦争もしない、一切の武力行使はしないと決断しました。これだけの経済大国が一切軍事的な協力はしないと宣言することは大変なことです。9条があるため日本の軍需産業は抑制的にならざるを得ません。

 日本は人殺しの道具を作って金儲けをするような国にはならないと決めたのです。金儲けのために手段を選ばないという生き方はしないと決めたのです。日本には個人のレベルでも、企業のレベルでもこうした価値観が存在するからこそ、憲法9条がその象徴として国家のあり方を規定したのです。たとえそれがやせ我慢であったとしても、日本の誇りであり責任だと私は考えています。

 私たちは、それぞれ法律のプロを目指しています。人のために力を尽くす。金儲けだけに走らない。プロにはそうした多少のやせ我慢が必要です。もちろん、そんな綺麗事ではすまない現実もあります。ですが、こうしてプロとして責任を果たすこともまた、価値ある生き方だと思います。

 合格まで辛抱強く、努力し続ける。最後まで絶対に諦めずに頑張り続ける。このこと自体がプロとしての忍耐と心の強さを訓練するために必要なことなのです。どんな結果になろうとも負けずに前に進んでください。それが、一人一人の責任を果たすことにつながると信じています。

 


 

伊藤真塾長

伊藤 真

伊藤塾 塾長

司法試験・公務員試験対策の「伊藤塾」塾長・伊藤真の連載コーナーです。
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