真の法律家・行政官を育成する「伊藤塾」
 
1998.05.01

第33回 脱マニュアル宣言

 相変わらず世の中はマニュアルばやりです。ビッグバン対策のマニュアル、デートのマニュアル、子育てマニュアルなどなど。

 そして司法試験の世界でもマニュアルはあとをたちません。合格した後の研修所でも教官にマニュアルはありませんかと聞き回って顰蹙(ひんしゅく)をかっている人もいるようです。私もマニュアルを作って勉強しましたし、それを受験生に指導もしています。

 確かにマニュアルは要領よく仕事をし、勉強し、そのノウ・ハウを伝えるには有効です。それに従えばなんとかなることが多いし、その場しのぎには絶大な効果を発揮することもあるからです。

 しかし、それはあくまでもその場しのぎにすぎません。

 自分で作っていて思いますが、マニュアルはそれを作ってしまった後よりもそれを作る過程に意味があることが多いのです。本当のマニュアルは自分で苦労してつくるものです。

 皆さんにたまにお話しする処理手順のマニュアルもどれだけのエネルギーかけて作ったものか。たった、数行でも大変な時間をかけ、頭をかきむしった苦悩の末に生まれているのです。

 皆さんはその苦労を知らないですみますが、そのかわりにその部分の頭のトレーニングができないわけです。時間をセーブできたわけですが、逆に一番おいしいところを経験できないのかもしれません。

 ならば手に入れた時間を使って、自分を鍛えなければ何にもならないのではないでしょうか。

 楽して得た成果は失いやすいものです。マニュアルなどとっとと受かるための方便にすぎないことを忘れてはいけません。自分の頭で考えること、まずはすべての出発点はここです。

 全くの初心者は別として、いつまでたっても「どうすればいいのか教えてください」と問い続けてはだめです。合格後そんな法律家のもとへ誰が相談にきますか。

 もっと要領のいいマニュアルや勉強方法はないかとそればかりを気にしていても無意味です。王道より近道を探しだそうとしてそのために時間を取られて、結局は遠回りになってしまった人を何人も見てきました。

 王道をいかに確実に前に進むかを考える方が得策です。これが私の17年間の受験指導の経験で得た結論です。まさにFestina lente「ゆっくりいそげ」にほかなりません。

 これからは合格してから差がつきます。今の勉強はそのときのための準備であり、そのときのために自分を鍛えているのです。択一試験だって、そのための些細なワンステップにすぎません。大げさに考えることなどありません。堂々と自分を出してくればいいだけです。あらゆる経験はすべて「法律家としての自分」を創りあげる糧になります。頑張ってきてください。

 「自分の頭で考えて、自分の価値観で判断して、その結果について自分で責任のとれる法律家になる。」おっと、これもマニュアルでした。

 


 

伊藤真塾長

伊藤 真

伊藤塾 塾長

司法試験・公務員試験対策の「伊藤塾」塾長・伊藤真の連載コーナーです。
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